世界有数のCPS(サイバー・フィジカル・システム)テクノロジー企業へ

 2018年11月、2019~23年度までの中期経営計画「東芝Nextプラン」を発表した東芝。リスクを抱えた事業からの撤退や構造改革によって再建のスタートラインに立ち、今後はサイバー技術とフィジカル技術の融合により成長を目指していくという。取締役代表執行役会長CEOの車谷暢昭氏に聞いた。

──どのような決意で会長に就任しましたか。

東芝 取締役 代表執行役会長CEO 車谷暢昭氏 車谷暢昭氏

 突然の依頼だったので驚きましたが、東芝のような日本を代表する企業の再建に貢献できるのなら名誉なこと。天命と受け止め、お引き受けしました。東芝の復活は、日本の製造業の復活ともいえる。人生を賭ける価値があると思いました。

 東芝は1875年の創業から一貫して技術開発に力を注ぎ、独自の製品やサービスを世界に展開してきました。そのDNAは、田中久重、藤岡市助という2人の創業者のベンチャースピリットです。2人は発明家であり技術開発者ですから、テックベンチャーの先駆けといえます。創業者のベンチャースピリットを呼び覚まし、世界有数のCPS(サイバー・フィジカル・システム)テクノロジー企業を目指していきたいと考えています。

──「東芝Nextプラン」(2019~23年度事業計画)を発表しました。

 第三者割当による新株式の発行、ウェスチングハウス社に対する債券の売却等を経て、2018年3月期までに債務超過を解消。東芝メモリの売却(再出資により現在の出資比率は40.2%相当)、さらに海外原子力発電所新規建設事業や液化天然ガス(LNG)事業、BtoC事業からの撤退を決め、バランスシートのクリーンアップを図りました。ちなみに半導体事業の東芝メモリの売却は、収益性が高い一方でボラティリティ-(変動率)が大きく、再建過程で100%の出資を続けることはリスクが高いという判断でした。こうした収益基盤の見直しの結果、約30%の自己資本比率を確保、実質無借金となりました。再建のスタートラインはいい形で整いましたので、今後は収益性の向上と新規成長分野の育成に取り組んでいきます。

──収益性の向上についての取り組みは。

 人員の適正化、生産拠点の再編、原価率の低減、営業活動の強化、ITシステムの刷新など、外部要因によらずにできることから収益性を高めています。こうした構造改革、調達改革、営業改革、プロセス改革を進めると同時に、新規成長分野の市場を拡大することで、3年のうちに営業利益率を業界トップクラスに戻し、5年後には世界トップクラスにまで持ち上げる中・長期計画を立てています。

東芝 取締役 代表執行役会長CEO 車谷暢昭氏

──新規成長分野の育成についての取り組みは。

 東芝は、電力、交通、水処理、流通など、社会インフラの多くを担い、それぞれに膨大な知見とデータを持っています。サイバー技術と実世界(フィジカル)技術の融合により新しい価値を創造するCPSによってこうした社会インフラを進化させ、エネルギー需要増加、資源の枯渇、気候変動、都市への人口集中、物流の拡大、高齢化や労働力不足といった社会課題を解決し、多様な分野で技術革新を起こしていきたいと考えています。

──成長分野の新たな芽として、どんな事業がありますか。

 例えば、高度経済成長期に建設された橋などの社会インフラ構造物は、経年による老朽化が進む一方で、高齢化による人手不足もあり、点検業務などの維持管理をより効率よく行うことが求められています。当社は、コンピューター上に再現した橋梁(きょうりょう)により車両荷重影響を評価する超大規模解析技術を開発し、経年劣化状況の診断や、維持管理業務の効率化、災害時の橋の状況把握を可能にしました。老朽化が進む社会インフラ構造物は橋以外にも無数にあり、世界規模の市場拡大が期待できる技術です。他にも、車載市場で活用が広がるリチウム2次電池や、ゲノム解析技術によって超早期発見や個別化治療を目指す精密医療など、様々な事業が成長しています。

──リーダーとしての信条は。

 コンサルティングファームの理論に従ってかじ取りする経営もありますが、私は助言に耳を傾けはしても、最終的にはオリジナルのモデルを作るというのが信条。前職でも前々職でもそうしてきました。企業の成り立ちや働く人たちはそれぞれ違うはずで、既存の理論に沿う手法が最適解とは限らない。ましてや不確定要素が多い時代においては、実践を通じて学び、状況に応じて軌道修正しながら進化していくことが重要だと思っています。

──愛読書は。

 自分の生き方に最も影響を与えたのは、大学時代に読んだ『経験と思想』です。理論や合理性よりも、経験や実証を大事にしたいと思わされた本です。

車谷暢昭(くるまたに・のぶあき)

東芝 取締役 代表執行役会長CEO

1957年愛媛県生まれ。80年東京大学経済学部卒。同年三井銀行(現・三井住友銀行)入行。2015年三井住友銀行副頭取。17年CVCキャピタル・パートナーズ日本法人会長。18年4月から現職。

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(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

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