「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーへ」という経営ビジョンのもと、「新価値創造による事業の拡張・進化」「グローカライゼーションによる海外事業の成長加速」「事業構造改革による経営基盤の強化」「変革に向けたダイナミズムの創出」という4つの基本戦略を推進しているライオン。具体的な内容について、代表取締役 社長執行役員 最高執行責任者の掬川正純氏に聞いた。
──2030年に向けた経営ビジョン「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーへ」に込めた思いについて。
健康寿命の延伸はもとより、人々の生活習慣を楽しく前向きなものへと「リ・デザイン」することで、心と身体のヘルスケアを実現する。そんな思いを込めた経営ビジョンです。当社はこれまで、「食べたら歯をみがきましょう」「デンタルフロスを使いましょう」などと働きかけ、ヘルスケアの大切さを訴えてきました。啓発はもちろん必要ですが、歯みがきを通して親子の触れ合いが増える楽しさや、口臭を気にせず話せる喜びなど、「義務」を超えたヘルスケアの価値を示していきたいと思います。
──中期経営計画「LIVE計画」と「4つの基本戦略」を掲げました。この遂行によって目指す企業像は。
グローバルに強いプレーヤーが存在する業界において、当社の独自性と優位性が際立っているのは、メイド・イン・ジャパンの品質です。その強みをこれまで以上に前面に出していくことで、「日本生まれ、アジア育ちの世界企業」を目指していきます。
──4つの基本戦略の一つである「新価値創造による事業の拡張・進化」のトピックについてはいかがでしょう。
この3月に「越境事業推進室」を新設しました。これまで各部署に分散していた越境事業を社長直下の専任部門に結集させることで、事業のスピード感や統一感を高めるねらいです。
──同じく「グローカライゼーションによる海外事業の成長加速」のトピックについては。
グローバルイメージを醸成しつつ、国・地域の事情に合わせていく「グローカライゼーション」による海外事業の加速を目指していきます。例えば、当社は歯科医院と連携して予防歯科運動を長く行っています。これを海外で展開する場合、歯科医院の数や歯科医にかかる頻度は国ごとに違い、日本と同じようにはいきません。「歯周病」の怖さの認知が広まっていない国もあります。アイケアにしても、日本における目薬の市場は800億円規模ですが、アジア地域でこれだけの市場規模を持つ国は他にありません。
清潔衛生習慣の啓発活動を通じて、商品だけでなく生活習慣も合わせて輸出し、中国、マレーシア、タイなどアジア全域で裾野を広げていきたいと考えています。具体的な取り組みも始まっており、昨年はマレーシアにおいて「システマ」ブランドのハミガキの販売に合わせ、流通小売りと歯科医院とのタイアップキャンペーンを実施し、大変好評を得ました。
──同じく「事業構造改革による経営基盤の強化」のトピックについては。
越境需要を支えるメイド・イン・ジャパン商品の生産体制の強化を進めています。この4月には兵庫・明石工場で洗口液の新工場がスタート。昨年11月にハブラシの生産を開始した香川・坂出工場には400億円規模の投資をしてハミガキ工場を新設、2021年に稼働を予定しています。
──同じく「変革に向けたダイナミズムの創出」のトピックについては。
働き方改革の推進とともに、社員のモチベーションをいかに上げ、組織のダイナミズムをいかに高めていくか。これは就任時からの私の大きなテーマです。そこで4月1日、当社及び国内関係会社の従業員を対象に、新しい価値を有する事業を生み出すプログラム「NOIL(ノイル)」を始動しました。具体的には、「ヘルスケアの常識を破る事業」をテーマにアイデアを募集し、採用された案の提案者がリーダーとなってプロジェクトをけん引。インキュベーションに長けた外部会社の協力も得てアイデアのブラッシュアップをはかり、具現化を目指す試みです。
──研究開発における強みとは。
1つは、トイレタリーからOTC医薬品まで幅広い事業領域を有し、相互に技術交流ができることです。例えば解熱鎮痛薬の「バファリン」は、胃の中で早く溶ける特長がありますが、これには粉末洗剤の技術が生かされています。
もう1つは、品質追求における技術陣の真面目さです。例えば、ハミガキの重要な成分であるミントは、研究者がアメリカの畑まで足を運び、実際に味見をして選んでいます。ハミガキにおいて重要な味の追求に最大限の労力とコストをかける。こうした真面目さこそが当社の財産です。
──企業が果たすべき社会課題としてSDGsへの貢献を掲げています。
主力製品の一つである洗剤類は使用中に水を使うものなので、古くは無リン化など、当社には環境対策に取り組んできた長い歴史があります。高い環境意識を維持しながら、プラスチックごみの軽減を目指した容器の開発なども進めています。何よりもヘルスケアに寄与する企業活動そのものがSDGsへの貢献と考えています。
──仕事上の転機や、今も心に残っている職務経験は。
30歳そこそこの時に小さなプロジェクトを任され、技術開発から製品化までのあらゆる工程に携わり、原価計算、工場の労務管理、試験生産の設備の組み立てや電気配線までやり、おかげで経験値の幅が一気に広がりました。研究所の中にいるだけではわからないことばかりでしたね。
──リーダー信条は。
長いタームの仕事も多いので、節目節目で社員に声をかけ、時には一緒に飲んで労(ねぎら)う。それが社員の励みになると思いますし、私自身も楽しい。竃(かまど)の薪を扇(あお)ぐように、社内にいい風を送って社員の情熱の火を大きくすることが、自分の役割だと思っています。
──愛読書は。
入社5年目ぐらいの頃に読んだ『シリカと私』です。デュポン社で商品化につながる成分を開発しているシリカ研究者の日々の記録で、当時私はまさにシリカを研究していたので、自分の境遇に重ねて興味深く読みました。
ライオン 代表取締役 社長執行役員 最高執行責任者
1959年神奈川県生まれ。84年東京大学農学部卒。同年ライオン入社。執行役員ヘルス&ホームケア事業本部長、代表取締役専務執行役員(企業倫理担当、ウェルネス・ダイレクト事業本部分担、国際事業本部分担、化学品事業全般担当)などを経て、2019年1月から現職。
※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、掬川正純氏が登場しました。
(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)
広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.120(2019年5月26日付朝刊 東京本社版)1.3MB
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