学生の頃から培った、デジタルネイティブに足りない経験値

 武蔵野美術大学に在学中から自ら営業をして映像制作の仕事を手掛け、頭角を現してきた清水良広さん。大学を卒業した現在は、映像作家としてフリーランスで活動しながら、AV機器メーカーで表現技法の開発にも携わっている。そんな活躍の背景には、デジタルネイティブである自分に足りない経験値を積み上げようとする行動力と、失敗は将来の糧になると何事もポジティブに取り組む姿勢があった。

──大学に在学中に、超高解像度の360度カメラでオーロラを撮影する「TDKオーロラプロジェクト」に技術スタッフとして参加しました。

南西の夜空に輝く月とオーロラ

 TDKのプロジェクトに参加したきっかけは、大学の教養科目の一つ、宇宙の科学を勉強する授業までさかのぼります。まず、その授業の先生が、NASAの実験用バルーンにアクションカメラ「GoPro」(ゴープロ)を搭載して宇宙に打ち上げるというプロジェクトに参加する学生を募っていました。僕はそのプロジェクトに参加したのですが、それをきっかけにオーロラ研究の第一人者である国立極地研究所の片岡龍峰准教授に技術面で協業する機会をいただきました。その後、次回のアラスカでのオーロラ撮影に参加して欲しいというご依頼をいただき、技術スタッフとして帯同することになったんです。それがこのTDKのプロジェクトでした。

 TDKのプロジェクトでは、ソニーのα7RⅡというカメラを6台組み合わせて360度カメラを自作し、撮影しました。僕が担当したのは、個体ごとに微妙に異なる6台のカメラで撮影した画像をソフト側で調整、合成する作業です。普段から僕はソニーのα7シリーズを使っており、360度映像を合成した経験もあった。それで、アラスカ現地でのカメラの撮影ディレクションやマニュアル作成でもサポートすることになり、さらに国内での360度映像のデータ加工も担当しました。

「TDKオーロラプロジェクト」スナップ写真

──自らの意思で参加した現場で活躍し、着実に次の仕事につなげています。現場で心掛けていることは。

 自分の主張は、しっかりと伝えるようにしています。黙っていると嫌われることはありませんが、好かれることもありません。だけど、きちんと自分の意見を伝えると、嫌われる可能性はありますが、好かれることもあるんです。そんな僕に興味を持ってくれる人たちと、また何か一緒に仕事ができることが理想だと思っています。

──映像制作はいつから始めたのですか?

 中学生の頃から映像には関心がありました。自ら撮影するようになったのは高校生になってからです。最初の機材は、iPhone5とフリーの編集ソフト。文化祭を盛り上げるための映像や中学生と保護者の方向けの高校説明会、新入生歓迎会のオープニング映像などを撮影し、家族共用のパソコンで編集していました。

 先生のすすめで、地元のIT企業が主催したCMコンテストにも応募したら、高校・大学部門で最優秀賞を受賞したこともあります。その会社のことだけを伝える内容だと、興味のない人は見てくれないと思い、働く環境である地域の魅力も含めて紹介する30秒ほどのCMを制作しました。

──技術と同時に感性はどうやって磨いていったのでしょうか。

清水良広氏

 何をきっかけに、そうしていたのかは分からないのですが、小さい頃から「なぜそれが面白いと思うのか」「なぜ皆が興味をもつのか」「なぜ違和感があるのか」など、自分の言葉で感覚的な部分を具体的に説明できるようにしていました。自分の言葉で説明できることは、映像にできるんです。面白いものや好きなものの理由が分かっているので、それを繋いでいけば自然と自分がいいと思える映像になります。

 好きなことは、既にあるものを単に記録するのではなく、何かが動き始めるきっかけになるものに携わること。オーロラの撮影も、世界最高レベルである2億ピクセルの画像を「つくる瞬間」に立ち会えたことに喜びを感じていました。

プロの現場で打ちのめされることは最高の経験

──大学生の頃から企業に営業活動もされていたそうですね。

 デジタルネイティブである僕らは、常に素晴らしい映像に触れ、情報を得ることが当たり前のこととなっています。それはとても恵まれていて良いことです。ただ、経験よりも知識が先行し、具体的に形にする力を磨くのではなく主張ばかりしてしまう傾向がある。それは、僕を含めたデジタルネイティブの弱い部分だと感じています。

 だから僕は、形にする力を養うために、大学の課題はクライアントワークのような感覚で真剣に取り組んでいました。その一方で、大学2年次から一般企業やスタートアップに向けて営業も始めました。関わった人たち全てが幸せになるようなプロジェクトを手掛けていて、映像を活用したらもっと良くなりそうだと思う企業に、直接アプローチしていきました。1社ごと「なぜ映像が必要か」を文章にまとめ、自分のポートフォリオと一緒に50社以上にメールを送りました。反応があったのは10社。この時は、最終的に2つの会社と仕事をしました。

──すごい行動力ですね。原動力は。

 当たり前のことですが、企業は命がけでシステムや商品を開発しています。その道のプロフェッショナルな方々が必死につくったものに、映像という切り口で僕も本気で携わりたいと思っていました。

 あと、自分が一番下っ端となる場所で泥臭く活動したいという思いもありました。社会人のすごい人たちの中で打ちのめされるのって、最高なんですよ(笑)。自分の未熟さを改めて自覚できるし、もっと成長したいと意欲が湧いてくる。視野もぐっと広がります。もちろん失敗したこともたくさんあります。だけど、失敗も最高だと思っていました。この失敗から学んだ経験は、将来役に立つときが来るはずだから。そのとき、今のことを思い出すんだろう、と前向きに捉えていました。

──日本マイクロソフトのMicrosoft Surfaceウェブ動画広告「大学生にノートPCはいらない? Surfaceが贈るリアルなキャンパスライフ」を一部演出し、自ら出演もしています。

 この仕事は、広告代理店の方からキャスティング会社経由でオファーをいただきました。メールに「出演してください」と書いてあったのですが、「演出してください」の間違いだろうと思っていました。だけど、本当に出演だった(笑)。ストーリーと大まかなフレームは決まっていて、それをどのように演出して味付けしていくかという段階から携わり、一部演出も担当することになりました。ターゲットは大学生で、自分も現役大学生だったので、例えば、メッセージは「おーい、今日一限あるけど来ないの?」など長文ではなく「1限来ないの??」「おーい」のように短めに出すことが多いことなど、細かい部分もコピーライターの方と相談しながら決めていきました。「大学生にノートパソコンはいらない」というインパクトのある内容がSNSで話題になることを狙った広告戦略も面白い。広告業界の一流のクリエーターと一緒に仕事ができたことは学びも多く、とても刺激的でした。

──「武蔵野美術大学芸術祭2017 美術館プロジェクションマッピング」も話題になりました。

「武蔵野美術大学芸術祭2017 美術館プロジェクションマッピング」

 芸術祭は大学の一大イベントです。そのグランドフィナーレで披露する作品は、まさに武蔵美の誇りと伝統を次代につなげる集大成といったもの。これまでも、外部のクリエーターともコラボして、たいへんクオリティーが高いものを制作してきました。ただ、2017年は、外部のクリエーターの力を借りずに自分たちの力だけでできる限りのことをしてみよう、との思いがあり、武蔵美生だけで制作することにしました。新たな取り組みである芸術祭の様子を伝える実写部分は、グランドフィナーレの前日までに撮影し、投影日の朝から編集するというスケジュールを強行。台風も直撃してギリギリのスケジュール感でしたが、時間を表示する演出も含めてリスクを負ってでもやるべきだと判断しました。

動作確認も全て学生で行う
Adobe aftereffects、3ds Max、cinema4Dなどのソフトを駆使し、モデリング、モーションデザイン、BGMなどを全て学生自身が制作

──今春、大学を卒業し、現在は映像作家としてフリーランスで活動しながら、AV機器メーカーで表現技法の開発にも携わっています。今、注目していることは。

 映像技術に関すること。僕が大学生の時に映像を作ることができたのもカメラやソフトが進歩してきたからこそ。そんな誰もが使える新しい技術を生み出したり、それを活用してみんなが楽しめるサービスをアップデートする、映像にまつわる事業に関心があります。

清水良広(しみず・よしひろ)

映像作家/コミュニケーションデザイナー

1996年岐阜県生まれ。2019年武蔵野美術大学映像学科卒業。2017年「TDKオーロラプロジェクト」に技術スタッフとして参加。2019年日本マイクロソフトのMicrosoft Surfaceウェブ動画広告「大学生にノートPCはいらない?Surfaceが贈るリアルなキャンパスライフ」を一部演出し、自ら出演もしている。