自由に発想できる余白と心地良い違和感で魅了するコラージュ作品

 アートディレクターであり、コラージュアーティストとしても活動しているQ-TA氏。作家活動の始まりは、インスタグラムでの投稿がきっかけだ。ファッションブランドのGUCCIが2015年と2016年に実施したアートプロジェクト「#GucciGram(グッチグラム)」では、2年連続でアーティストとして選出された。新進気鋭のアーティストとして注目を集めている。

二択の繰り返しで導かれていく想像を超える表現

──広告朝日26号の表紙で掲載したビジュアルは、SF小説『パラドックス・メン』(竹書房)の表紙用に制作したコラージュ作品です。

SF小説「パラドックス・メン」(竹書房)の表紙用に制作したコラージュ作品 SF小説『パラドックス・メン』(竹書房)の表紙用に制作したコラージュ作品
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 『パラドックス・メン』は70年前に出版された小説で、その文庫版の表紙用にコラージュを制作しました。目指したことは、パラドックス(逆説、真理と認められる事柄に反する説)という概念を念頭に、懐かしさや古さではなく、新しさを感じる表現です。70年前の小説を今、読むからこそ新鮮だったり面白かったりもするんです。そんな新しさと古さが入り交じった70年前のSF小説と、モチーフを組み合わせて混沌(こんとん)とした違和感をつくるコラージュは、現実にないものを想像してワクワクするという共通点があることに気付きました。

──いくつものモチーフを組み合わせたシュールなビジュアルは、具体的にどのように制作されたのでしょうか。

 この作品は、これまでとは異なる方法で制作しました。通常は、本の内容から思いつく何十パターンのアイデアを基に考えていきます。しかし、今回はその何十パターンのアイデアを全てボツにして、頭の中を空っぽにした状態から改めて考え始めました。自分のアイデアを否定することになるので、とても苦しく、何度も妥協しそうになりました。なんとか乗り切れたのには、理由があります。それは近年、表現の方向性やイメージがある程度、固まった状態で仕事を依頼されることが少なくなく、見据えたゴールに向かってコラージュを制作することに疑問を感じていたからです。コラージュは、モチーフを組み合わせる「二択」を繰り返しながら、制作していきます。その二択によって、自分でも想像していなかった表現に導かれていくことがコラージュの面白さの一つです。そんな制作の原点に立ち返る、いい機会になりました。

 一般的に、本の表紙のビジュアルに求められることの一つは、本の内容をイメージさせる表現です。それに対して僕は、読んでみたいと興味を持たせるためにも、あまり説明的すぎないほうがいいと思っています。『パラドックス・メン』の表紙も、70年前の古い本には見えないですよね。表紙にはさまざまなモチーフを盛り込み、読み終わってから改めて見直すと、こういうことだったのかな、と発見があるはず。説明的でないからこそ、見る人が自由に想像したり解釈できたりするのだと思っています。そもそも、コラージュのモチーフを一つひとつ説明すると作品が陳腐化してしまう気がするんです。だから、説明は必要ないと思っています。

──Q-TAさんのコラージュ作品にはタイトルがなく、展覧会でも説明書きを添えていません。説明的でないことは、作品の特徴の一つなんですね。

 作品にタイトルをつけると、見る人の印象に影響を与えてしまいます。アート作品は「見ること」が目的ではなく、見て「何を感じるか」。それに正解はなく、見たまま、感じたままでいいと思っています。そうした考えから、僕は作品をつくるとき、見る人が自由に発想できる余白があることや、違和感をもたらすことを意識しています。余白といってもホワイトスペースのことではなく、説明的すぎないという意味合いです。余白があることで、見るタイミングによって作品に対する印象が変わったり、気持ち良さにつながったりすると考えています。

人と違うことがしたい、夏休みの宿題は1点集中型

──2011年から、インスタグラムでコラージュ作品を投稿しています。それがアーティストとして活動するきっかけになりました。

 当初、インスタグラムは趣味の一つで、本業はアートディレクターでした。インスタグラムでは、多くの人がおしゃれなカフェでケーキを撮ったり、美しい風景をアップしたりしていたので、みんなと違うことをしようと考えました。そのとき思いついたのがコラージュ作品だったんです。日頃から仕事で、アパレルブランドや美容系の広告やカタログを制作していて、そのラフはコラージュのように雑誌や本を切り貼りしてつくっていました。その切り貼り作業が得意で、楽しかったんです。そこで、インスタではコラージュを制作してアップしてみることにしました。すると、思いがけず反応が良かった。次第に「いいね」がたくさんつくようになり、世界中の人がフォローしてくれて、気づいたら何万人という数になっていました。その後、インスタを見たファッションブランドや企業の方からアーティストとして仕事を依頼されるようになり、グッズを一緒につくったり、本を制作したりするようになったんです。そうした状況から、コラージュアーティストという肩書でも活動するようになりました。

──ターニングポイントとなった出来事は。

 ファッションブランドのGUCCIが2015年と2016年に実施したアートプロジェクト「#GucciGram(グッチグラム)」に2年連続で参加したことです。インスタグラムで活躍している世界中のアーティスト20名の1人として選出され、GUCCIが提供したモチーフをつかって作品を制作しました。それをきっかけに日本をはじめ、海外のファッション誌やカルチャー誌から仕事を依頼されることが多くなり、コラージュアーティストとしての活動の領域が一気に広がった感がありますね。

──作品制作をする上で工夫していることは。

 押しつけがましい作品にならないように気をつけています。日常の中でふと目にして思わず二度見してしまうような表現で、気になるけどすぐに日常に戻っていく。それくらいの「心地良い違和感」をもたらすことが理想です。

 10代の終わりからクラブでDJをやっているのですが、誰もが盛り上がる曲をかけ続ければ、みんなが喜ぶとは限らないし、そういう王道な選曲は好みじゃない。淡々とした曲でもスピードを変えたり、他の曲とうまく混ぜたりして違和感やズレをつくることで、それがフックになって気持ちよいグルーヴを生み出すこともできるんです。そんなDJに対する考えも、コラージュ作品に反映されているのかもしれません。

 子供の頃から人と違うことするのが好きでした。たとえば、夏休みの宿題は一点集中型。自由研究は、誰もがやらないものすごいことに挑戦する。そこに時間を費やしたから、他の宿題は一切できなかったと先生に堂々と言う(笑)。そんな小学生でした。

──今後やってみたいことなどあれば、教えてください。

 画家やイラストレーターのように、真っ白なキャンバスに絵を描くことはできません。僕ができるのは、既存の絵を消しながら、新しい形を見つけ出すこと。DJも音楽をゼロからつくるのではなく、既存の音楽をつないでいくものですよね。あるものとあるものを組み合わせてつくるコラージュは、すごく自分に向いているクリエーティブだと思っています。

 今後は、自分の世界観を映像や空間で表現してみたい。いわゆる「インスタレーション」ではない、何か新しい表現ができないか考えています。あとは、これまで培ってきた発想力や企画力を活用し、企業の力になりたいという思いもあります。コラージュをつくるとき、既にあるゴールをどうスタートに見せるか発想したり、そもそも「ないもの」ってなんだろうってアイデアをゼロベースで考えたりしています。たとえばペットボトルのお茶のラベルをデザインするとき、お茶が当たり前に存在していない世界を仮定し、どう表現すれば驚きや魅力が伝えられるか掘りさげてみるんです。そうすると、既成概念から徐々に解放され、これまでの記憶の輪郭がぼやけてくる。その結果、今までにない新しいアイデアにたどり着ける可能性があるんです。そんなディレクターとしての能力を生かせる仕事にも挑戦してみたいですね。

Q-TA(キュータ)

アートディレクター / デザイナー / コラージュアーティスト

シュールレアリスムを独自の解釈で表現するファッション性の高いポップなコラージュ&ビジュアル作品で、GUCCIやViktor & Rolfなど世界的に有名なアパレルブランドとのビジュアルコラボレーションをはじめ、広告、CM、MV、CD、 装丁、装飾デザインなど幅広く国内外で活躍する。

Web:https://www.q-ta.com/
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