名古屋近郊の豊明市にある藤田医科大学(旧・藤田保健衛生大学)や、藤田医科大学病院など3つの教育病院を運営する藤田学園。2019年9月末に発表された「THE 世界大学ランキング」では、昨年に続いて国内の私立大学ではトップレベルの評価を受けている。具体的な取り組みについて、理事長の星長清隆氏に聞いた。
──藤田学園の歩みについて。
藤田学園は1964年に創立、一人ひとりの創造力を重んじる「獨創一理」の建学理念を掲げています。創設者の故・藤田啓介総長は医師であり、サイエンティストでした。68年には藤田医科大学の前身である名古屋保健衛生大学を設立、72年の医学部創設の折には、基礎研究や臨床医学を推進する総合医科学研究所を併設しています。30名の研究者が研究だけに専念する機関で、当時、私立学校がそうした機関を作るというのは非常にめずらしいことでした。
また、藤田先生は、「我等、弱き人々への無限の同情心をもて、片時も自己に驕(おご)ることなく医を行わん」という病院理念を掲げ、「患者さん中心」を徹底しました。これも「病院主導・医師主導」の時代にあって、極めて先進的な考え方でした。
──教育の特徴について。
昨年開学50周年を機に藤田保健衛生大学から藤田医科大学へと校名を変更しました。看護学校からのスタートでしたので、その色合いが強い学名でしたが、最先端の医学・医療を長く実践してきた大学であることを、校名の変更を通じて改めて表明しました。
藤田医科大学の学部は、医学部、医療科学部、保健衛生学部の3学部。その特徴は、医師、看護師、技師、理学療法士などが学部や学科の垣根を越えてチーム医療を学ぶ「アセンブリ教育」。3つの教育病院での実習や研修を通じ、高度先端医療から一般急性期医療、リハビリ、終末期医療までのすべてを網羅できるのも大きな強みです。
今年9月末に発表された英教育専門誌『Times Higher Education(THE)』が発表する「世界大学ランキング」では、国内では九州大学、北海道大学、筑波大学などと並ぶ8位となりました。高評価のポイントは、研究論文の引用件数の多さです。今後は、研究力、教育力、産学連携などの分野でも実績を伸ばしていきたいと考えています。
また、来年6月には、「THE Asia Universities Summit 2020」を日本で初めてホスト大学として開催します。本学に世界50カ国、500名以上の大学関係者が参集し、ディスカッションを行います。ノーベル賞受賞者や国際的リーダーの登壇を予定しています。
──医療の特徴について。
名古屋市近郊の豊明市にある1,435床の藤田医科大学病院、名古屋市の中心部に位置する370床の藤田医科大学 ばんたね病院、三重県津市郊外にある回復期リハビリテーションや緩和医療を主体とする218床の藤田医科大学 七栗記念病院において医療活動を行っています。
また、藤田医科大学は今年5月、次世代の再生医療の研究の一翼を担うべく、世界レベルの設備を整えた研究施設「国際再生医療センター」を開設。細胞の培養から加工、投与まで一貫して学内で行える国内の大学では随一の施設として、遺伝子治療や患者さん一人ひとりに合わせた個別化がん免疫細胞治療の実用化を目指します。
治療分野においては、手術支援ロボット「ダビンチ」を積極導入。より精度が高く、患者さんへの負担が少ない手術を可能にするもので、国内トップクラスの手術数を実施しています。また、屋上ヘリポートとともに、災害対応・救命救急医療の機能を有し、愛知県に2カ所しかない基幹災害医療センターの一つに指定されています。
──2013年に地域包括ケア中核センターを設置するなど、地域医療に貢献しています。
医療系大学では全国で初めて文科省より介護福祉事業を行う認可を受け、医療とケア・福祉の密接な連携を目指した地域包括ケアモデルを構築しました。現在、居宅介護支援事業所、24時間巡回訪問事業所、訪問看護・介護・リハビリステーション、24時間薬局、24時間在宅医療介護相談窓口などを展開。正職員や兼務職員が月1,000件近い訪問活動を行っています。
また、学園近くの団地内に、看護師や理学療法士など医療・福祉の専門家が常駐する「まちかど保健室」を設置。エレベーターのない団地の上層階を教員や学生の住まいとし、買い物支援やイベントなどを通じて地域住民との交流を図っています。本学の取り組みを参考にしたいと、医療関係者や自治体からの見学が増えており、最近は国外からも見学に来られています。
2017年には、地域医療連携推進法人「尾三会」を設立。急性期医療から介護までのきめ細やかな地域連携を目指し、在宅医療・介護を含めた新しい医療・ケアモデルの広域展開を進めています。具体的には、退院した患者さんが安心して地域医療を受けられるように、「尾三会」に参加する病院の看護師にノウハウを提供するなどの取り組みや、結婚・出産により現場から離れた看護師向けの勉強会などを行っています。将来的には「どんな病気も診られる家庭医」を増やすような取り組みもできたらいいなと考えています。
──経営信条は。
医師として何より大事にしてきたのは、for the Patient(患者さんのために)/for the Public(社会のために)。「患者さん中心」を徹底した創設者の藤田啓介先生と志は同じです。例えば、我々の病院に運ばれてきた救急患者さんは、すべて受け入れるように現場に指示しています。その一方で、現場が疲弊しないための働き方改革も進めています。
私のモットーは、「クリーン(清く)・オネスト(正しく)・コンフィデント(自信を持って)」。役員や教授陣にも、「嘘や不正なく、自信を持って教育や医療に邁進しよう」と折に触れて語っています。
──愛読書は。
『負けてたまるか! 若者のための仕事論』など、丹羽宇一郎さんの著書群です。丹羽さんは、伊藤忠商事の社長に就任後、約4,000億円もの特別損失を処理して業績のV字回復に成功しました。私が病院長に就任したのはリーマン・ショック直後の経営環境が厳しい時期でしたので、丹羽さんの著書に励まされ、その人生哲学に学ぶことも多くありました。
藤田学園 理事長
1950年兵庫県生まれ。75年慶應義塾大学医学部卒。医学博士。国立大蔵病院、東京都立清瀬小児病院、米国バージニア医科大などに勤務。2000年藤田医科大学(旧・藤田保健衛生大学)泌尿器科教授。09年同大病院長。14年同大学長・藤田学園専務理事。18年から現職。
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(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)
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