厨房(ちゅうぼう)機器、給湯機器、暖房機器などの熱エネルギー機器の開発・製造・販売会社として100年の伝統を持つリンナイ。その商品開発力で多くのヒット商品も生まれている。アメリカや中国など海外市場も好調だ。代表取締役社長の内藤弘康氏に聞いた。
──衣類乾燥機「乾太くん」やバス製品「マイクロバブルバスユニット」の売り上げが好調です。
「乾太くん」は1992年に発売を開始した商品ですが、ニーズを反映しながら改良を重ね、家庭用、業務用ともに売り上げを伸ばし続けています。「マイクロバブルバスユニット」は昨年4月に販売を開始した新製品で、従来にない入浴体験が評判を呼んでいます。
私が常々社員に伝えているのは、商品すべてが驚きと感動を提供するものでなければならないということです。当社は創業100年となる2020年度を最終年度とする中期経営計画「G-shift2020」を推進してきました。Global(グループネットワークを生かした戦略推進と世界に通用するブランドへのシフト)、Generation(100年培った伝統を継承しつつ常識を打ち破る新たな世代へのシフト)、Governance(時代に沿った経営体制と企業成長を促す組織構成へのシフト)という3つの「G」を柱とする取り組みです。
商品開発においても「100年培った伝統を継承しつつ常識を打ち破る」ような驚きと感動の提供を目指していかなければならないと思っています。「乾太くん」や「マイクロバブルバスユニット」のヒットはその成果ともいえ、手応えを感じています。
──人々のライフスタイルの変化も商品のヒットに関係しているのでしょうか。
そう思います。例えば「乾太くん」は、ガス式ならではのパワーが特長で、電気式に比べて短い乾燥時間で済み、ふんわりシワの少ない仕上がりなのでアイロンがけの手間を軽減できます。そうしたことから、家事にかける時間と手間をなるべく減らしたい共働き世帯を中心にニーズが拡大しています。天日干しと違って大気汚染や花粉にさらされる心配もないので、そのメリットも評価につながっています。また、業務用「乾太くん」のニーズも拡大しており、高齢化が進む中で医療・介護施設の現場から多くの支持をいただいています。
「マイクロバブルバスユニット」の好調は、コロナ下の巣ごもり需要もあると思います。マイクロバブルバス自体は新しいものではありませんが、当社の製品は、医学研究者と共同検証を行い、その温浴効果、洗浄効果、保湿効果、リラックス効果などについて、実証データを得ています。実は私自身、この製品を使うようなってから肌の具合がいいんです。ユーザーからも「効果に驚き、感動した」という声が多数届いています。
──海外でも商品やサービスを展開しています。
アメリカ、中国、オーストラリア、韓国、インドネシア、ブラジル、イタリアなど世界各国で、それぞれの生活文化・気象条件・エネルギー事情に合った最適なソリューションを提供しています。成長著しいのは瞬間湯沸器で、日本では当たり前のことですが、「故障が少なくて温度調節の性能が良い」と評価が高く、特にアメリカと中国で伸びています。
アメリカは貯湯式湯沸器が普及している国ですが、貯湯式湯沸器と違って瞬間湯沸器は湯切れの心配がありません。同地ではコロナ禍の影響でセカンドハウスの購入や改築が増えており、便利な瞬間湯沸器を備えたいというニーズが高まっています。
中国では、一日で数兆円の売り上げがあるという大規模ネット通販の日「独身の日」に、当社の瞬間湯沸器がガス給湯器の売上額で1位となりました。販売台数は5番手でしたので、たとえ高額でも当社の商品が強く支持されていることがわかります。
──今後の注力分野は。
環境対応商品に力を入れています。例えば「エコワン」という商品は、ガスと電気のメリットを組み合わせることで、エネルギー消費量の削減ができるハイブリッド給湯・暖房システムです。省エネ性能と快適な暮らしを両立するこうした商品の提案を積極的に行っています。
──心に残っている職務経験について聞かせてください。
入社は1983年、最初は営業担当でした。折しもガスコンロの変革期で、押し回し式の点火方式に代わってプッシュ式が売れ始め、電子制御技術も日々進化していました。一方で新機能に関するクレームが発生、営業もその対応に追われました。私はそのあと生産技術部に移りましたが、営業現場の危機感が開発部門に伝わっていないと感じました。そこでクレームがあった商品の製造番号、故障した年月日や故障の現象、取り替えた部品などのデータ化を推進。手間のかかることなので敬遠する販売店もあって苦労しましたが、根気よく説得してデータを積み重ね、それを開発部門にフィードバックする品質保証の体制を整えました。品質向上に欠かせないプロセスだったと思います。
──工学系のご出身です。製品開発には厳しい目をお持ちかと思いますが、開発部にはどのような声をかけていますか。
私は工学部を卒業後、日産自動車で4年間働きました。その経験は当社に入ってもいろいろと役に立ったと思います。社長就任は2005年。開発部門に「他社の後追いや安売りはやめ、品質・デザインともに練り上げた商品を」と呼びかけました。結果として新製品の数は減りましたが、高付加価値商品に絞ることで、ブランドの存在価値が高まりました。ビルトインコンロで初めて両端のエンドピースという部材を取り去ったデザイン性の高い「デリシア」のような商品も生まれました。「デリシア」の販売開始は2007年、高価格ながら人気ブランドに育っています。
──リーダーとしての信条は。
社員の自主性や創造性を尊重すると同時に、皆が同じ目標に向かっているか、視線のベクトルが合っているかを常に意識しています。社内コミュニケーションも徹底し、海外のグループ各社とも経営指針やコンプライアンスを共有しています。
──愛読書は。
幕末から明治にかけての歴史小説が好きで、特に吉村昭の作品をよく読んでいます。『ポーツマスの旗』や『大黒屋光太夫』が心に残っています。アーネスト・サトウがつづった記録『一外交官の見た明治維新』、『遠い崖 アーネスト・サトウ日記抄』なども興味深く読みました。
リンナイ 代表取締役社長
1955年兵庫県生まれ。79年東京大学工学部卒。同年日産自動車入社。83年4月リンナイ入社。98年取締役開発本部長。2003年常務取締役経営企画部長兼総務部長。05年11月から現職。
※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、内藤弘康氏が登場しました。
(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)
広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.133(2021年3月26日付朝刊 東京本社版)282KB
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