子どもたちの自尊感情を促し、自己実現を後押しする

 「誰でも才能を持っている」という理念を掲げ、大学受験の予備校を中心とした四谷学院を運営するブレーンバンク。全国に31校舎を運営し、大学受験予備校を始め、小学・中学・高校・浪人生までを対象にした個人指導塾、高卒認定試験対策、社会人向けの通信講座、自閉症の子どもたちのための家庭でできる療育プログラムなどを提供している。代表取締役で四谷学院理事長の植野治彦氏に聞いた。

──「誰でも才能を持っている」という理念に込めた思いについて。

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植野氏

 教育の英訳は“education”。その語源はラテン語の「educare」(引き出す)だという説があります。つまり、潜在能力を引き出して露(あら)わにすること。なりたい自分になれると気づかせてあげること。それこそがあるべき教育の姿だと考え、「誰でも才能を持っている」という理念を掲げています。才能を引き出せるかどうかは先生の教え方にかかっています。とりわけ小学校教諭の責任は重大です。小学校教諭は1人で国語も算数も理科も社会も教えますから、人によっては不得意な教科を教えるケースが出てきます。それぞれ得意な教科を担当した方が授業の質は高まるはずですが、残念ながら現実はそうなっていません。結果的に要領を得ない授業が生じ、それについていけない生徒は、「算数が苦手」「国語が嫌い」などと思い込んでしまう。親御さんも、「自分も数学が苦手だから、遺伝的に理系は無理だよ」などと追い打ちをかけてしまう。これは大変不幸なことだと思っています。

──四谷学院が提供する教育の価値や目的について。

 四谷学院では、受講生一人ひとりが自分にとって本当に価値のある夢や目標を思い描き、内在する才能を高めることで自己実現できるような教育を目指しています。単に志望校に受かるための勉強ではなく、その先の未来に希望が持てて、良き社会人に必要なEQ(感情をコントロールする能力)やSQ(社会性や対人能力)をも培えるような学びの場でありたい。そのために講師陣に徹底してもらっているのは、子どもたちの「自尊感情」を高めるような授業です。私がよく言うのは、やる気があるからできるのではなく、できるからやる気が出る。「できた!」という達成感が自尊感情につながり、学習意欲へとつながると思うからです。

──コミュニケーション活動において合格者数を出さない方針を掲げています。その理由は。

 合格者数を強調しないと受講者が集まらないという意識は、予備校業界に根強くあります。そしてその対策として、ほとんどの予備校が、難関校に合格する可能性が高い生徒の学費を免除する特待生制度を取り入れています。しかし本学院では、特待生制度を設けていません。なぜなら“誰でも才能を持っている”からです。才能を伸ばすために予備校に通うのですから、通い始めた時点の学力の高低は合格に関係がないというのが私たちのスタンスです。

──四谷学院の特徴である「ダブル教育」とは。

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 科目別能力別のクラス授業と、55段階の個別指導を組み合わせた「ダブル教育」という独自の学習システムを提供しています。科目別能力別授業というのは、例えば国語の場合、大きく「国語」と教科で括(くく)るのではなく、「現代文」「古文」「漢文」と科目別に分け、それぞれ学力のレベルをチェックした上で「現代文」は選抜クラス、「古文」は基礎クラス、「漢文」は標準クラスなどと、レベルに応じたクラス編成をしています。レベル診断テストは毎月あり、学力の伸びに応じてクラスを移ることができます。志望校別にクラスを分ける予備校が多い中、本学院は志望校別ではなく各自のレベルに最適のクラスで学べるシステムになっているのです。
 55段階の個別指導というのは、基礎から無駄なく学べるように体系化した学習プログラムに基づき、プロの講師が個別指導をします。どんな問題もその根底にある基礎の理解がとても重要で、中1レベルから基礎の理解を促し、得意科目はどんどん先に、苦手科目はじっくり進めて確実な学力をつけていきます。ダブル教育の最大の特徴は、講師とのやりとりで授業が展開していくことです。人には教えたい、教わりたいという本能があります。講師に質問されて答える、わからないことを質問する。このやりとりこそが本質への理解を深め、思考力と表現力を養います。

──受講生たちからはどのような声が届いていますか?

 「苦手だと思い込んでいた科目の問題が面白いほど解けるようになった」「四谷学院での勉強体験が楽しい」「受かると思っていなかった難関大学に入れた」という声をたくさんいただいています。受講生は若い方だけでなく、中には「第二の人生は医師の道に進む」と一念発起し、中1レベルから勉強し直して50歳で国立医大に合格した方もいます。合格者数を出さない代わりにこうした体験記をウェブサイトなどに載せており、それが本学院への信頼につながっています。また、親御さんや兄弟姉妹、ご友人、大学の教授陣などの口コミを通じて本学院を信頼してくださる方も非常に多く、そうした信頼関係を大事にしていきたいと思っています。

──31歳の時に創業されました。その背景について。

 私の考える最大の幸福は、行動、思想、経済活動など、あらゆることにおいて自由であること。その思いは10代から持っていて、より自由に生きるなら会社員よりも経営者だと考えて大学は商学部に入りました。そこで食堂業界に関心を持ちました。利益率が高いと同時に、日本では未開拓の業界だったからです。卒業して銀座のレストランに入社し、調理から労務・数値管理まで様々なノウハウを学びました。3年後には副社長の立場になりましたが、新たなキャリアを身につけたいと思って退職しました。飲食分野から教育分野に路線を変えたのは、大学時代の貴重な経験があったからです。学費を稼ぐため、園児が帰ったあとの幼稚園の教室を借りて塾を開いていたのです。中学生を相手に英語と数学を教えていました。「誰でも才能を持っている」という思いはこの時に芽生えたもので、社会に出て仕事をしていく中で、その思いは強まりました。そして、「誰でもなりたい自分になれる。より多くの人とその喜びを分かち合いたい」という信念のもと、四谷にて創業。教材開発からスタートし、「教材を使って直接指導を受けたい」というニーズに応じるべく予備校の創設に至りました。

──リーダーとしての信条は。

 全力を尽くすと幸運の出会い、流れが出てきます。四谷の教室が手狭になった際、中野の入札物件を購入しようとしました。金額は1位でしたが入札に参加しなかった他社に決まってしまった。その結果、四谷駅前のビルを購入できました。これは一例で、成功が成功じゃない、失敗が失敗じゃないという体験を重ねてきました。目の前のことにベストを尽くすこと、コミットメントが大事だと考えています。
 そのために現在取り組んでいるのが、自己実現の場を提供することです。受講生、そして社員一人ひとりが夢をもち、考え、工夫し、行動し、自分の中に豊かな資産を築きながら夢を成し遂げていく。その結果が会社の成長につながると考えています。社員と理念や価値観を共有し、子どもたちとともに成長する喜びや、人や社会に貢献する幸せを分かち合っていきたい。時代の変化に対応していける人材、ボトムアップで事業を推進できる人材、戦略能力のある人材の育成にも力を入れていきたいと思っています。

──愛読書は。

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 精神病理学の草分けである島崎敏樹の著書『感情の世界』は、大学時代に読んで大きな影響を受けました。「愛」や「希望」といった感情との向き合い方を教えてくれて、人生の指針となった書です。同じく大学時代に読んだ『ジャン・クリストフ』は、主人公の不屈の精神と音楽的感性に胸打たれた作品で、最近読み返して感動を新たにしました。
 そして、自分の経営哲学に最も影響を与えたのは、阿川弘之の『暗い波濤』です。緊迫した戦時下、予備学生講師がエリート軍人養成の海軍兵学校で勉強の楽しさを教えます。そんな中で若い優秀な学生たちがやりたいことができずに死んでいく。幸福感や困難さに対するハードルが下がりました。今の時代はやりたいことがやれる時代です。いかに今を生き抜くか。私のIQ、EQ、SQを高めてくれた貴重な一冊です。

植野治彦(うえの・はるひこ)

ブレーンバンク 代表取締役/四谷学院 理事長


1943年神奈川県生まれ。早稲田大学商学部卒。74年新宿区四谷で創業。四谷学院理事長。

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(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

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