企業×学校 キャンペーン成功事例

 ここ英国でも子どものためのイベントごとは多く、季節を問わず催しが予定され、親たちも大忙しである。そんな子どもたちがもっとも長い時間を過ごし、影響力の高い場所でもある「学校」を巻き込んだ取り組みを紹介したい。

「Soltan SUN READY」のサイト 「Soltan SUN READY」のサイト

 ヨーロッパでは、バカンスに行ってきたことのアピールやファッションとして、小麦肌がステータスとされている文化があるが、一方で子どもの日焼け防止には熱心である。たしかに子ども用の日焼け止めクリームなどのコーナーが充実している。夏休みを前に、英国大手のドラッグストアチェーン「ブーツ」が5歳から14歳を対象にした日焼け対策キャンペーンを展開している。昨年から、テキスト、日焼け止めクリーム、帽子などがセットになったキットを学校に無料で配布し、今年は大幅に配布する学校を増やしている。配布予定だった千個のキットは、募集スタートから24時間以内に在庫がなくなったという。キットが手に入らなかった学校に対しても、「Soltan SUN READY」のサイトから、それぞれ小学生、中学生向けの教員用プログラムがダウンロードできるようになっており、すでに28,000校、約50万人の生徒が活用しているとのこと。本サイトのサービスは非常に細かく、テーマ別に「国語」「保健体育」「理科」などのカリキュラムにどのように組み込むのが良いかも提案していて、教員が授業に取り入れやすいのが特徴だ。たとえば、「UVって何?」というテーマは理科の授業に、「世界における日焼け対策」というテーマは地理の授業に、といった具合だ。直接的な来店誘導はしていないものの、このプログラムの名称である「Soltan」 はブーツのプライベートブランドであり、そのロゴはいたるところに露出している。同社は、この取り組みは次世代に向けたブランド力向上に役立つとしており、今後もより一層力を入れていくという。

デイリー・テレグラフ紙の「ワールドブックデー」告知 デイリー・テレグラフ紙の「ワールドブックデー」告知

 次は、日本でも行われている、年に一度の「ワールドブックデー」というイベントを紹介する。これは世界100か国以上で行われている、英国が発祥のイベントだ。英国では、学校でも特別授業を行い、子どもたちにとっても大きな催しとなっている。自分の好きな本を一冊選び、その本に出てくる登場人物に扮した仮装をして登校し、その魅力を発表する。このキャンペーンのポイントは、ナショナルブックトークンという団体が特別クーポンを学校に寄付し、生徒たちがそのクーポンで新しい本を買うというところまで徹底されていることだ。この日は大手書店などで「ワールドブックデーコーナー」が設けられており、そのクーポンを使えば対象の児童書が1ポンドで購入できるほか、対象外の本でも1ポンド引きで購入することができる。学校からクーポンを持ち帰ったこどもたちにせかされて書店に出向き、予定外の本まで買ってしまう、と同僚が言っていた。

 英国では小学校に上がると(英国は5歳になる年に入学)、すぐに読書を始めるそうだ。学校にある図書にはすべて色ステッカーがレベル別に貼られ、生徒たちは毎日図書室から本を持ち帰り、読書をする。どのレベルの本を読んでいるか一目でわかるようになっていて、各自が上のレベルを目指していく。それでもゲームなどの普及により、本を読まなくなる子どもが増えているのは英国も同じ。それを防止するためにも、このイベントに力が入っているのだろう。クーポンの配布は小学校から高校までと幅広い。親も子どものためなら、また本を買うのであればなおのこと、ついお財布のひもも緩くなるもの。書店にとって重要なイベントであることに間違いないが、同様に専門店や大型スーパーでも、仮装用の特設コーナーが設けられ、にぎわっている。

ナショナルブックトークンの特別クーポン ナショナルブックトークンの特別クーポン

 学校と企業のタッグは、今後の可能性を秘めていると言える。日本でも教員の忙しさが問題視されているが、企業の力をうまく借りてその負担を減らすことも可能だろう。実際、前出のドラッグストア「ブーツ」が、昨年の日焼け対策プロジェクトを終えて教員にアンケートを取ったところ、この教材を実際に使用した教員の100%がとても良い教材であると評価し、96%がまた利用したいと答えたという。

 Win-win-winなプロジェクトを提案するのは、我々の重要な仕事。日本でも生かせそうな取り組みはたくさんありそうだ。

(朝日新聞社 メディアビジネス局 ロンドン駐在 金井 文)