「シェア」の力を証明した年末商戦

 毎年恒例のことだが、イギリスの広告業界は、年末商戦の勝者がどこであったかで盛り上がる。その中心になるのは流通大手であるスーパーマーケットだ。プレゼントやクリスマス料理の準備など、一年で最も消費意欲が高い年末には、各社が広告費をかけて勝負に出る。今回、例年と異なっていたと感じたのは、SNSでの「シェア」が注目されていたところだ。

ドイツのスーパーマーケット「EDEKA」

 今回、英国に一店舗もないドイツのスーパーマーケット「EDEKA」がフェイスブックで話題となった。11月末からスタートし、英国で最もシェアされたコマーシャルとなった。現在4,500万回以上も再生され、一気にその名を広めたこのコマーシャルの内容を簡単に紹介したい。

 ドイツのある町で、高齢の男性が一人でさみしくクリスマスを迎えようとしている。そこで、クリスマス当日、その男性は自分が亡くなったとうその電報を子供たちに送る。驚きと悲しみで急いで集まった子供たちや親戚が見つけたのは、テーブルに並べられたごちそうと、そこに座ってみんなを迎えるその男性。悲しい出来事が一気に楽しいものへとかわり、そのうそのおかげでみんなそろって楽しくクリスマスを過ごすことができた、という内容である。このコマーシャルの背景には、ドイツで深刻化されている高齢化問題があるという。一部の専門家からは「死んだことにする」という内容を問題視する声もあったものの、全体的には高評価だったようだ。

「ジョンルイス」

 例年話題になる地元英国の流通大手、「ジョンルイス」は残念ながらEDEKAには及ばなかったものの、年末までにコマーシャルが2300万回再生された。「Man On The Moon」というタイトルのこの動画もまた、独りぼっちの老人が出てくる感動的なストーリーである。この中で登場する望遠鏡は、実際にジョンルイスで販売されており、放送後即座に完売したという。

 これまではテレビでコマーシャルをしても、放送している地区でしか見られず、それを見た人以外には「クチコミ」というかたちでしか広まることがなかった。しかし今回のように、何のお店かもわからないコマーシャルが他国で視聴されるということが実現したのは、ほかでもないインターネット上の「シェア」の力である。

 マーケティング的には、どんなコンテンツがより多くシェアされるのかを知ることが成功のカギともいえるだろう。ラディウムワンの調査によると、写真(シェアしている人の63%)、プレゼントのアイデア(45%)、動画(44%)、お得なセール情報(41%)、レシピ(39%)、ほしいものリスト(30%)、旅行関連(20%)が挙がる。これらのコンテンツは、フェイスブックやツイッターなどのソーシャルネットワークか、ダークソーシャル(経路が不明なソーシャル情報)と言われる、LINEやメッセンジャー、WhatsAppなどでシェアされる。ダークソーシャルは、主にとても親しい友人や家族などとのコミュニケーションがベースとなっているため、より感情を動かすのに有効だという意見もあるようだ。しかし、今回のEDEKAの例では、ソーシャルネットワークで主にシェアされていた。具体的な商品やサービスではない、エモーショナルな動画を使ったブランディング広告を広めるには、ソーシャルネットワーキングが有効だといえる事例かもしれない。

 今年はどんな広告が話題になるか、引き続きここ英国でウォッチし、紹介していきたい。

(朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 金井 文)