ここイギリスにおいてサッカーはもちろん人気だが、ラグビーもそれに続く人気のスポーツだ。今年のワールドカップ開催国であるイギリスは、イングランド、ウェールズ、スコットランドのチームがあり、残念ながらホスト国の成績は期待通りではなかったものの、結果的に247万人あまりを集客する大きな盛り上がりをみせた。
国内だけでなく、海外からの観戦者も過去最高の約47万人を突破、それによる直接的な経済効果は1,646億円と大きく貢献し、合計で4兆円の経済効果があったとされている。ロンドンだけでなく、イングランドの11都市・13会場で試合が行われたことにより、地方での経済効果も評価されている点だ。日本対サモア戦が行われたミルトンキーンズなど、普段は観光客が集まらない地方の宿泊施設、飲食店などが大きなにぎわいを見せた。
そして今回のラグビーワールドカップのスポンサー収入は、約17.8億円とされている。スポンサー一覧は以下の通り。
■ワールドワイドパートナーズ
ハイネケン、ランドローバー、ソシエテ ジェネラル、DHL、エミレーツ、マスターカード
■オフィシャルスポンサー
コカ・コーラ、キヤノン、東芝、富士通
■トーナメントサプライヤーズ
ギルバート、カンタベリー、クリフォードチャンス、EY、Dove、Tissot
*その他チームスポンサーとして複数社が契約
では、これらのスポンサーで、最も広告キャンペーンが成功したと思われるのはどこか。業界誌『マーケティングウィーク』の独自調査による集計によると、トップのスコアを獲得したのはマスターカード(動画はこちら)であった。カードの支払いをからめたキャンペーンと、コンテンツの使い方の組み合わせが成功の秘訣(ひけつ)だという。ワールドカップが始まる前には、同社のカードを利用することで、抽選で観戦チケットが当たるキャンペーンを実施。その広告にはニュージーランド代表オールブラックスのキャプテン、リッチー・マコウを出演させたことでも評判となった。
また、引退を発表したダン・カーターが、彼の幼少期のラグビーチームメンバーと再会する機会を同社が提供するという「プライスレス」なプレゼントを贈る感動的な広告(動画はこちら)を実施。さらに、最後の数週間は一般のサポーターから、「自分にとってのプライスレス」を募集。同社UKのツイッターアカウントのフォロワーは約97,000人にも上った。
サポーターに「特別な体験」をプレゼントするキャンペーンを実施した、ハイネケンもまた高く評価された。観戦チケットだけでなく、なんと全試合のスタート時のコイントスの権利をサポーターに与えたのである。
同社はオランダのビールメーカーだが、今回はアイルランドをメインにしたキャンペーンも実施。アイルランドといえばギネスビールが有名で、しかもギネスは地元アイルランドをはじめ、ウェールズ、スコットランドのチームスポンサーである。
そんな競合社にアウェーで挑戦するべく、ハイネケンは、アイルランドを舞台にオールブラックスのレジェンドといわれるジョナ・ロムーをテレビCMに起用した。アイルランドのパブに彼がサプライズで登場するものだ。別のバージョンでは、アイルランドのスーパーマーケットでのキャンペーンの様子を流した。ハカ(マオリ族の伝統的な舞)を披露するマオリ族の前で、一般のお客さんにもハカを踊ってもらい、踊った人にチケットをプレゼントする様子をCM化したものだ(動画はこちら)。
同社は年間の広告予算の約半分を今回のワールドワイドパートナーキャンペーンに使用したとされ、前述の『マーケティングマガジン』によるベストソーシャルメディアキャンペーンにも選ばれている。著名な選手たちが出演する「ハイネケンラグビースタジオ」という番組を定期的にSNS上で放送し、拡散させることにも成功した。番組はどれも1分前後と、ツイッターでシェアをしやすい短さだったことや、ハッシュタグ#it’syourcallで番組に質問を投げかけたりすることもできる仕組みが大きなポイントとなったようだ。
UKのツイッターアカウントのフォロワーは14,000人に上り、3,600のツイートに対して、リツイートなど約30%のエンゲージメント(ブランドへの親密さを獲得すること)に成功したとされている。
さて、日本で開催される2019年のラグビーワールドカップでは、どのような広告キャンペーンが展開されるだろうか。スポンサーシップ専門のエージェンシーのシナジーは、日本での成功を確信していると語る。まずは日本が世界第3位の経済大国であり、ラグビーの一次リーグの中ではトップの位置づけであること、2020年の東京五輪が決定したことで、特に五輪のスポンサーの競合社にとって、ラグビーワールドカップのスポンサードがとても魅力的であることが挙げられるという。また、2011年のラグビーワールドカップのテレビの視聴者数が期間中全体で2500万人だったのに対し、今年は日本対サモア戦だけで、2,500万人を突破したことはとても驚きである。
ドラムドットコムによると、開催地であるイングランドの成績は芳しくなかったものの、それによる広告効果の損失はなかったと、各ブランドは考えているようだ。それほど国民は自国以外の試合にも関心を持ち続けたといえるだろう。日本の活躍に期待しつつ、仮に他国が勝ち進んだとしても、スポンサーにとって大きな成果を出せるまたとない機会になるのは間違いなさそうだ。
(朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 金井 文)