ロンドンのナイトトレインとストライキ

 ヨーロッパはとにかくストライキが多いと言われているが、ロンドンではチューブ(地下鉄)のストライキがしょっちゅうある。最近では、7月8日から約3日間、8月5日から約2日間のストライキが行われた。もちろんその時々で理由は違うが、今回はボリス・ロンドン市長が「チューブのメイン5路線で、毎週金曜と土曜の夜、ナイトトレインを走らせて24時間運行にする」と発表したことから勃発した。彼は9月12日からのスタートを市民に約束してしまったものの、地下鉄の労働組合との話し合いがまだ決着していなかったのだ。

 人口密度が高く、さらに世界で一番観光客が多いとされるここロンドンにおいて、交通の要であるチューブがマヒしてしまうと都心の道路は渋滞で完全に機能しなくなってしまう。オフィスワーカーの通勤は滞り、自宅勤務を強いられるうえに、仕事の後のお楽しみ、夜のお付き合いもままならなくなる。ロンドナーのナイトライフの強い味方となるはずのチューブの深夜運行が今回のストライキの原因とは、なんとも皮肉な出来事ではある。

ストライキで混雑する駅周辺 ストライキで混雑する駅周辺

 通常チューブは24時頃で終電となるが、その後は、深夜運行しているナイトバスが利用できるので筆者自身はそれほど困った覚えはない。ただ、ロンドン交通局によると、ナイトトレインが走ることで、今までナイトバスを利用していた人の移動時間が平均で20分短くなるほか、街中の消費が増えることも見込まれ、経済効果はこの先30年間で3億ポンドと言われている。しかしながら、今回の、たった一日のストライキによる経済損失はというと、偶然にもほぼ同額の約3億ポンドとも言われており、市長にとっても大きなダメージとなっただろう。

 市民の反応はどうなのか。同僚のイギリス人曰く、「チューブの運転士の給与は非常に高く、彼らの労働条件は最高に良いはずだ。その上にストライキまでするのは考えられない。すでにDLRという無人電車があるが、チューブも同様に無人運転にしたら良い」と憤っていた。

 さて、メディアの面での影響を調べてみた。チューブが運行しないとなると、駅前で配布されるフリーペーパーはどうなるのだろう。基本的には普段通り配布はするものの、受け取る人は通常より少なくなってしまうのは避けられないようだ。ロンドン最大のフリーペーパーであるMETROに対し、広告主から苦情は出ないのかどうかを確認してみたところ、ストライキは彼らも予期せぬ事態のため、基本的には再掲載などの措置はとっていないとのこと。同じ広告掲載料金を出してリーチが少ないとなればやはり問題になるのでは、と再度突っ込んでみたが、「広告主との相談によって検討する」という模範回答しかもらえず、少しもやもやした気分になった。

配布されたMETRO特製チョコレート 配布されたMETRO特製チョコレート

 しかし、その後のストライキの際、METRO特製のチョコレートやミネラルウォーターとともに、フリーペーパーを配布するスタッフをたびたび見かけた。少しでも多くの人に受け取ってもらえるよう、努力する姿を見て、私のもやもやは解消された。

 さて、9月12日からとされていたナイトトレインのスタートは結果的に見送りとなり、現在は年内でのスタートに向けて調整をしているところである。クリスマス休暇に向けて、観光客による増収を狙うボリス市長はなんとか決着させたいところだが、クリスマスはチューブで働くスタッフのプライベートにとっても、一年でもっとも大切な季節。これまた一筋縄には行かなそうである。年末に“ストライキ”という、最悪な事態になることだけは避けて欲しいところだ。

(朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 金井 文)