Airbnbのキャンペーンにみるシェアビジネスの新たな領域

 欧州内で旅を計画する際、宿探しはもちろんネット頼みである。数あるホテル予約サイトを眺めてみるものの、治安が良さそうで便利なロケーション、部屋は清潔でそれなりの広さが必要、できれば朝食は欲しい、などと条件を入れていくと、安価なローコストキャリアーでの移動コストに比べて宿泊コストが高すぎる。そんなことをぼやいていた約2年前のこと、当時の同僚のスイス人女性から教わったのが、宿泊ネット仲介の「Airbnb」だった。

 当時、日本人にとってはまだ知名度は低く、正直、オーナーの顔がみえる“アットホーム”が売りのペンションのような宿が苦手な筆者にとって、人の家に泊まる(しかも知らない人)というこのサービスは、ややハードルが高いかも、と感じた。 しかし、である。彼女が見せてくれたウェブサイトには、プール付きのコテージやラグジュアリーな邸宅、ツリーハウスやテント風まで、まさにどんなニーズにも対応できるような家が紹介されているだけでなく、体験者によるレビューがあるため、実際の評判も予約する前に確認できる、など先入観が払拭(ふっしょく)されるクオリティーだったのだ。

 実際、仕事で知り合った人々にホリデーの話を聞くと相当な割合で同社を利用していた。Airbnbはこれまで大きな宣伝活動をしてこなかったのに、クチコミだけでこれほどまで認知されているのかと驚くばかりであった。しかしそんなAirbnbが満を持してこの度ブランディングキャンペーンをスタートさせた。

 “Is mankind” というキャッチフレーズの今回のCM(※1)は、おもに欧米でスタートした。

 キャッチコピーには、“人類”と、“人は親切か?”という2つの意味がかけられている。このCMでは、赤ちゃんがゆっくりと扉に向かって歩き出す映像とともに、Airbnbのサービスである、人の家のキッチンを借りて食事をし、人の家のベッドで寝るという行為には、貸す側にも借りる側にも思いやり(親切さ)が必要であると訴えかけている。また、元オリンピック選手であり、先日トランスジェンダーを公表したケイトリン・ジェナーがスピーチを行ったESPNスポーツアワードでは、同CMの特別バージョンとして「men kind, women kind, trans kind, human kind Belong anywhere.」というコピーのCM(※2)を放送した。

 欧米ではすでにその知名度も浸透している同社が、今までのようなyoutubeでのPRだけではなく、テレビCMや屋外広告を展開するには訳がある。新しい取り組みとして、ビジネストラベルプログラムを7月20日から正式にスタートさせたからだ。世界的にみてビジネストラベルの経済効果は年々伸びており、この年末には3千億USドルに上るといわれている(Global Business Travel Association調べ)。現在、Airbnbの利用者のうち約10%がビジネスユースとされており、すでにグーグル社、TBWA社など、アメリカを中心に約250社が顧客として利用しているという。この分野での需要をにらみ、より企業が利用しやすいよう社員の旅行スケジュールや財務報告などを管理するプログラムを充実させているとのこと。どれくらいビジネスユースに普及できるか注目されるところである。

 同社は、日本などアジア諸国において、これからさらにサービスを普及させていきたい考えだ。朝日新聞が4月に行ったインタビューで創業者のネイサン・ブレチャージク氏は、「2020年の東京五輪では、オフィシャルサプライヤーとして宿泊先を提供したい」と語っている。実際、同社は来年のリオデジャネイロ五輪で初めてオフィシャルサプライヤーとなることが発表されている。

 法的な問題など、課題とされている点もあるが、このサービスへのニーズは高まっており、その成長のスピードはますます加速していくだろう。ただし、ここ英国で登録されている家(部屋を含む)は5万件を超えているが、日本では現在1万件に満たない。古来から“おもてなし” という文化がある日本において、今後、“家”のシェアは根付いていくのだろうか。

(朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 金井 文)

(※1)「Is mankind」のCM
(※2)特別バージョンのCM