消された文字の謎を解け!?

 突如として見慣れた看板や標識がかわったりすると案外気付くものだ。イタズラで落書きされてしまったものにしろ、普段「かわるはずがない」と思っているものに変化があると人はびっくりする。そしてそのびっくりが大きいほど広告効果も期待されるもの。

「O」が消えたDOWNING STREETの標識(※) 「O」が消えたDOWNING STREETの標識(※)

 今回は、ロンドンの街から「A」「B」と「O」の文字が消えてしまったという話題を紹介したい。

 まるでシャーロック・ホームズか、アガサ・クリスティーかを彷彿させるミステリー小説のような話だが、事実、6月8日、ダウニング ストリート(DOWNING STREET)という英国の首相官邸のある有名な通りの標識から「O」の文字が消え、「D WNING STREET」になっていた。

 また、英国最大手の書店、ウォーターストーンズ(Waterstones)は、「W terst nes」に。いたずらにしては意味不明、あまりにもきれいになくなっているため、新聞やSNSでも騒ぎとなったが、同日のデイリーミラー紙の一面を見てやっと理解できた。これは、英国のNHS(国民保険サービス)が主体で行った世界献血週間のキャンペーンの一環で、これを応援する企業や組織が、現在足りないとされているA型、B型、O型の献血を呼びかけるため、それぞれのブランド名などから「A」「B」「O」を抜くことでアピールしたという。この日のデイリーミラー紙(DAILY Mirror)も、題字から部分的に「A」と「O」が消えていた。他にもチョコレートのブランドや、映画館、BBCまでも賛同している。また、#MissingTypeを使ったソーシャルメディアでのキャンペーンでは1日で約3000人がツイートしている。

「A」と「O」が消えたウォーターストーンズ(Waterstones)(※)
題字から「A」と「O」が消えた6/8付デイリーミラー紙(DAILY Mirror)
「B」と「A」が消えたBBCラジオ1のウェブサイト「BBC Newsbeat」(※)

 NHSによると、英国で献血した人の数は、この10年で40%も減少し、今年だけで20万人分の献血が必要だという。ここロンドンでは、日本のようにあちらこちらで「献血ルーム」を見かける訳でもなく、献血をするきっかけが少ないように思う。もともとボランティア精神も高く、チャリティ活動に熱心な国民性なだけに、今回のキャンペーンで献血利用者が増えることに期待したい。

 ちなみに文字が消えたことで話題になったキャンペーンとして、キットカットとユーチューブがコラボレーションした事例も印象的だった。

キットカットとユーチューブのコラボ商品「You Tube Break」(Grub street online より) キットカットとユーチューブのコラボ商品「You Tube Break」(Grub street online より)

 英国生まれのキットカットは今年で80周年を迎えたことを機に、パッケージデザインから「KITKAT」の文字を消し、かわりに「You Tube Break」とかかれた商品を60万個限定で販売している。また、Googleで「You Tube my break」を検索すると、現在You Tubeで最も見られている動画ランキングを閲覧することができる。そのほか、パッケージデザインのパターンは「Me Time Break」や「Office Break」など、なんと400種類もあり、英国のほかEU圏内で今年いっぱい販売をするとのこと。このキャンペーンに昨年比2倍の約20億円もの広告予算が用意されているという。「KITKAT」 という名前がパッケージから消えても、誰もがそれが“キットカットである”ということが分かるという事実が、そのブランド力の強さを証明している。

 広告を「おもしろい!」と思ってもらえたらまずは成功、その次に行動、消費に結びつけば大成功、という広告マーケットにおいて、これらの事例はまずは成功したといえるだろう。ただ、先に紹介した献血キャンペーンにおいて気がかりなことはひとつ、英国人のほとんどが自分の血液型を知らないということだ。オフィスのイギリス人男性二人に聞いたところ、一人はO型、もう一人は不明だった。O型の彼曰く、イギリス人のほぼ全員がO型だよ、とのこと。しかし実際に調べたところ、英国人はO型とA型がほぼ同じ割合で、このふたつで全体の約8割を占めており、B型やAB型はほんの少数派だった。(Blood Book.com より)。

 今回不足している3つの血液型のうち、A型、O型はそれなりに集まりそうだが、B型は難しそうだ。B型の人に、自分はB型であるという認識があればもっと積極的に献血してもらえそうな気もするが、残念ながら今回のキャンペーンでそこまで訴求できたのかは不明である。ちなみに筆者はB型、ここは一つ行動に移してみようか。

 写真(※)はBBC newsbeatより転載

(朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 金井 文)