もう「低価格だけど不便」じゃない!? 欧州LCCはサービスも進化中

 欧州ではきっちりバカンスを楽しむイメージがあるが、ここ英国でも、年間8日と日本の半分程度しかない祝日を利用して空の旅に出ることは、国民の一大関心事といっても過言ではない。

ライアンエアー(手前)とイージージェット ライアンエアー(手前)とイージージェット

 欧州大陸はもちろん、北アフリカなど異文化を味わえる国々へたった2、3時間で行けるという気軽さもある。その「気軽さ」に大きく貢献しているのが格安航空会社(ローコストキャリア=LCC)の存在だろう。鉄道よりも安い場合が少なくないLCCは今や欧州域内での移動には欠かせない交通手段だ。とはいえ、欧州ではLCCは「安かろう、悪かろう」のイメージを持つ人もまだ存在する。運賃を安く設定する代わりに、様々なオプションを設けて追加料金を負担させる仕組みなのだが、その度合いにげんなりすることもある。

 アイルランドの首都ダブリンを本拠にする「ライアンエアー」は、欧州でのLCC市場でシェア25%を持つ。その価格の安さとともに、徹底的なコストカットでも知られる。座席指定、預け荷物などが有料なのは他社も同様だが、オンライン予約の際、いつの間にかこれらが加算されるといったやや乱暴なブッキングシステムで話題にもなった。トイレの有料化や立席のアイデアも検討されたという話もあるそうだ。

 実は筆者も先日、あまりの低価格にひかれて、ライアンエアーを利用してイタリアに行ってきた。オンライン予約では最低料金をキープするように細心の注意を払ったが、以前より「仕掛け」は改善されていた。ほっとしたのもつかの間、本来は自分でPCから出力した紙の搭乗券がチェックイン時に必要なのだが、日数の関係で帰国便の出力ができない。出力しないと15ポンド(約2,670円)の追加料金がかかるので一大事だ。同社のアプリを使えば搭乗券代わりになる、という説明を読んで早速ダウンロードするも、これがうまく機能せずエラー通知が表れる。最終的に、復路では空港にある有料PC&プリンターで出力して乗り切った。

ライアンエアーのコーポレートカラーと、広告でカラフルな機内 ライアンエアーのコーポレートカラーと
広告でカラフルな機内

 この搭乗券、そうまでして出力しなければならないのには理由があった。搭乗券には「広告」が掲載されているからだ。これは英国に本社を置く競合のイージージェットも同様で、両社の「広告料金表」によると、搭乗券1千枚あたり230ポンド前後(約41,000円)が定価のようだ。昨年より両社とも広告料を値上げしているのはうらやましい限り。ただライアンエアーがすごいのは搭乗券だけでなく、座席の上の荷物棚や座席のテーブルにも広告枠を設けているところにある。これだけでも企業努力をひしひしと感じるが、前述のように乗客にも不便さを感じさせたためか、最近は客足が遠のき業績を落としていた。

 そこで、同社はブランディングを一新。2013年から、予約サイトの改善や機内持ち込み荷物の制限緩和などに取り組み(グラフ参照)、2014年にはこれらを広告でアピールし、イメージアップキャンペーンを展開したのだ。そのおかげか、この年末の利用状況は好調だったようだ。前年同期に比べ、旅客数は100万人増の600万人、搭乗率も81%から88%まで飛躍したという(14年12月統計/15年1月5日付ガーディアン紙)。この旅客数はフラッグキャリアのブリティッシュ・エアウェイズのほぼ倍にあたる。

   

 さらなるサービス向上のため、今年の夏からアイルランド・ダブリン発着便において、映画やドラマ、音楽などのエンターテインメントを無料で提供すると発表した。機内に液晶モニターはなく、使用するのは、スマホやタブレットなど搭乗者自身の端末で見る。欧州のLCCは基本的に近・中距離のみのため、機内エンターテインメントがどれほど求められているかは不明だが、他社との差別化を図るために「無料サービス」としているところがポイントだ。もちろん配信するにあたっては広告主を募集し、利用者にCMを複数回見てもらう戦略だ。

 ライアンエアーもイージージェットも、ロンドン中心部に近いヒースロー空港ではなく、バスや電車で1時間以上かかるロンドン郊外の空港の利用している。特に割安便が飛ぶ早朝や深夜発着便を利用するには、空港近くのホテルに宿泊するか、マイカーを利用せざるを得ない。

 聞くところによると、日本では近々ピーチ・アビエーションが国内LCC初の羽田発着便を就航する予定という。都心に近い羽田空港が利用できるようになれば、さらに多くの利用が見込め、競争も激しくなるはずだ。日本での激烈な戦いに負けず劣らずの欧州LCC各社の競争を眺めつつ、次のホリデーの行方に思いをはせる2015年のスタートである。

   

 (朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 金井 文)