今日のビルボードアドに見る進化の真価

※画像は拡大表示します。 ドバイの幹線道路にある長~いビルボードアド ドバイの幹線道路にある
長~いビルボードアド

 異国を訪れてまず目にするのが、「ビルボードアド」と呼ばれる屋外広告だ。先日、ドバイに出張した際に車から目にした道路際のアップル社のiPhoneの広告は、かなりのスピードで走っていても途切れることなくしばらく見ていられることができるほどの大きさだった。夜になると下から照明をあてる旧式のビルボードだが、そのスケールはすごい。思わず携帯カメラで写真を撮っていると、同乗していた現地のメディア関係者が、ここは1日に20万台の交通量があり、1台あたり1.5人乗っているとして約30万人が見ている計算だと教えてくれた。

 広告料金は一カ月36.5万ディルハムというから日本円で約1,200万円。 外を歩けないほど暑い時期が長く続く車社会の中東では、ビルボードが有力な広告媒体であるらしい。ユニークでバブリーな超高層ビルが立ち並ぶドバイにあって、ビルボードに関してはハイテクさよりもまずはスケールで勝負しているような印象だ。世界で最も「長い」ビルボードはサウジアラビアにあって、250メートルもあるという。

※画像は拡大表示します。 ピカデリーサーカスのビルボードアド ピカデリーサーカスのビルボードアド

 ところ変わって古い街並みが美しいロンドン。ここに場違いなほどネオンのビルボードが輝く場所がある。ピカデリーサーカスだ。有名な観光スポット「エロスの像」がある街の中心部で、百貨店や劇場が密集した大通りの起点なので24時間観光客であふれている。その中でも顔ともいえる「TDK」の広告がその24年の歴史にピリオドを打つことが発表され話題になった。週に200万人が通るといわれるピカデリーサーカスは、その約7割が歩行者で、ビルボード前での滞在時間が長いのが売りだ。競合社が文字通り競って枠を取り合ってきた人気のビルボードであり、この100年で50ブランドが入れ替わった。最も長い広告主は1955年にスタートしたコカコーラで来年で60年になる。どの枠も有名企業ばかり。TDKのスペースの後をどの広告主が引き継ぐのかも注目されている。

 ビルボードはその街の顔であり、景観を損なうことなく人々を引きつけなければならない。 また他のメディア同様、その環境の変化に対応しうる進化が求められる。時代とともにスケールからハイテク、歴史や伝統から新しさ、知名度向上から話題性や好感度の向上へ、進化を続けているビルボードアド。今年筆者が気になった、趣向をこらしたユニークな事例を紹介したい。どちらも屋外という環境を効果的に利用した事例で、見る人に驚きを与える。

 ブリティッシュ・エアウェイズの広告は、上空を飛ぶ同社の飛行機とリンクして動き出すビルボード。今年のカンヌでも評価されたアイデアだ。また、スウェーデンのヘアケアメーカー、Apotec社の広告は、駅のホームに入ってくる電車と広告のモデルが連動しているというアイデア。どちらも進化したビルボードといえるだろう。

ブリティッシュ・エアウェイズ
Apotec社

 関西人の筆者にとって、ビルボードアドといえば大阪ミナミの「グリコ」だろうか。今年完成した6代目は、14万個のLEDを使用したハイテクデジタルビルボードに生まれ変わったとか。ランナーが通天閣だけでなく、パリのエッフェル塔やロンドンのエリザベスタワー(通称ビッグベン)を走るというから面白い。「歴史」「ハイテク」「好感度」のすべてを備え持つハイブリッド型ビルボードアドの好事例だろう。

 東京五輪を前に、これから東京の街もユニークなビルボードでにぎやかになるのだろうか。

 (朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 金井 文)