火のないところに煙を立てるぞ! 盛り上がる英国のイーシガレット

 今話題のスポットがあると聞いて出かけた先は、今春オープンした「The VAPE Lab」というカフェ。イーストロンドンにあるというだけでおしゃれ感が漂うが、行ってみると「LAB(研究室)」というだけあって、ビーカーや試験管が並ぶ不思議な店内。入ってみると人がよく見えないくらいに白く煙っていて、甘い香りが漂ってくる。シーシャ(水タバコ)の香りのようだ。そう、ここは英国初の「e-Cigarette(イーシガレット/電子タバコ)」のカフェなのだ。

 2007年に公共の屋内での喫煙が法律で禁止された紙巻きタバコと違い、イーシガレットは副流煙が出ないということで現在は禁止されていない。だが、その可否についてはここ数年議論になっている。健康被害への影響についても、全くないとは言い切れないことも理由の一つだ。そのためレストランやパブでは、通常のタバコと見まちがえることやフレーバーの香りの影響などを理由に「禁煙」にしているところも少なくない。そうした状況でも、英国でのイーシガレット使用者は約210万人(action on smoking and health 14年7月調べ)とされ、13年には前年の売り上げに対して、3.4倍にあたる1.9億ポンドと売り上げが急激に伸びている。

 The VAPE Labの客層は、おしゃれなビジネスパーソン、アーティスト風の若者などで決して暗いイメージではなく、むしろクールな雰囲気だ。何十種類もあるフレーバーから選んで、筆者もキットを借りて試してみた。小さなスイッチを押しながら吸うと火の代わりにLEDが点灯する。「火のないところにも煙は立つ」などというジョークが頭に浮かぶ。

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The VAPE Lab  外観 The VAPE Lab  外観
甘い香りの煙に満ちた店内 甘い香りの煙に満ちた店内
流行に敏感な若い客が多い印象 流行に敏感な若い客が多い印象
豊富なフレーバーが並ぶ 10ml で7ポンド(約1,200円) 豊富なフレーバーが並ぶ 10ml で7ポンド(約1,200円)

 イーシガレットの普及に一役買っているのがマス広告である。テレビではいわゆるイメージ広告しか流すことができないなど掲載基準にかなり制限があるものの、新聞、雑誌では商品広告の掲載が可能で、積極的な出稿が見受けられる。中にはセクシーすぎるために深夜11時より前には放送禁止になったCMや、差別的だと非難され、中止を余儀なくされた広告など様々である。業界大手のブルー社の「フリーダム」という商品のCMは約2千万ポンドを投入し、衛星放送で連日夜10時以降、半年間放送し、計算上、終了する頃にはターゲットである25~44歳の喫煙者の90%にリーチしたという大規模なプロモーションとなった。

 ちなみにイーシガレットメーカーの業界団体は広告慣行委員会(CAP)と長い間協議を重ねているが、広告表現で主に以下のことを禁止している。
  1.MHRA(医薬品およびヘルスケア製品規制庁)の許可を受けずに、通常のタバコに比べて健康への被害がないことをほのめかすこと
  2.安心、安全を呼びかけること(証明する資料が出せない場合)
  3.禁煙を補助する作用があることをほのめかすこと
  4.18歳未満に見えるモデルによる同商品の使用をイメージさせること
  5.テレビコマーシャルでの電子タバコそのものの露出

 そして、11月10日からイーシガレットはテレビCMでも商品を見せることが可能になる。「大きな一歩」とThe VAPE Labもフェイスブックで喜びのコメントをアップした。各社は宣伝合戦ののろしを上げているが、「健康への影響」に関しては煙に巻かず、クリアに説明をしてほしいところだ。

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「人種」「年齢」で差別的と判断され中止になった「nicofresh」の屋外広告 「人種」「年齢」で差別的と判断され中止になった「nicofresh」の屋外広告
ガーディアン紙に掲載された「puritane」の広告 ガーディアン紙に掲載された「puritane」の広告

 (朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 金井 文)