極めて甘~い生活と ちょっぴりオカシい?課税制度

 英国人は大の甘党である。英国のお菓子といえば、バノフィパイ、ヴィクトリアサンドイッチ、スコーン、ベイクウェルタルト、ショートブレッド、トライフル、イートンメス・・・・・・挙げるとキリがないが、どれもスーパーで気軽に買える伝統的なお菓子である。その他にもオフィスや自宅にはビスケットやチョコレート菓子を常備し、日常的に消費している。ガーディアン紙(2013年9月7日掲載)によると、英国はお菓子類(ビスケット・ケーキなどすべて含む)の売り上げがヨーロッパでトップ、平均すると一世帯あたり年間103箱のビスケットを購入するそうだ。週に2箱のビスケットを消費し、さらにその他のケーキ類も食べることを考えると、英国人がいかに甘い生活を送っているかがわかるだろう。

※画像は拡大表示します。 プレミアフーズ社の発言を報道するデイリーテレグラフ紙 プレミアフーズ社の発言を報道
するデイリーテレグラフ紙

 そんな中、英国を代表するお菓子のブランドのユニークな広告が掲載されていたので紹介したい。広告主はプレミアフーズ社という大手食品メーカーで、「ミスターキプリング」という菓子ブランドを持つ。スーパーに行くと棚にズラリと並ぶ同シリーズは、1967年に誕生してから、「exceedingly good cakes (極めておいしいケーキ)」というキャッチコピーで人気となり、英国人なら誰もが一度は食べたことがある、なじみ深いお菓子だ。

 先日、そんな人気者のお菓子にちょっとした騒ぎが起きた。事の発端はプレミアフーズ社のチーフエグゼクティブが、デイリーテレグラフ紙のインタビューでミスターキプリングのブランディングを一新と発表したことだった。誰もが知っているキャッチコピーの変更をほのめかしたことが大きな話題となり、掲載直後からファンがツイッターで抗議の声をあげ、夕方から翌日にかけて、各新聞やオンラインニュースが事態を大きく取り上げた。ミスターキプリングのキャッチコピーを引っかけた各社の見出しを以下に紹介したい。

デイリーミラー紙 デイリーミラー紙 Exceedingly bad news, Mr Kipling」
(極めて悪いニュース)
メールオンライン メールオンライン Exceedingly sad news ! 」
(極めて悲しいニュース)
デイリーテレグラフ紙 デイリーテレグラフ紙 「Mr Kipling to ditch “exceedingly good cakes” catchphrase.」
(ミスターキプリング”極めておいしいケーキ”のキャッチコピーを捨てる)
ミスターキプリングからの「回答」広告 ミスターキプリングからの
「回答」広告

 思わぬ大反響があった翌日、プレミアフーズ社は急きょ、ミスターキプリングからの回答として新聞広告を掲載した。そのコピーは「Mr Kipling DOESN’T DO RUMOURS, BUT HE DOES MAKE exceedingly GOOD CAKES. (ミスターキプリングはうわさなんて気にしない。彼はただ、極めておいしいケーキをつくるだけだ)」。 

 同社にとって、予想していない反響に、想定外の出費となったが、これもうれしい悲鳴といえる事例である。英国らしい、甘いお菓子への愛と、伝統を重んじるが故の騒ぎなのかもしれない。

 さて、騒ぎといえば日本の消費税増税に絡めて、ここ英国の付加価値税(VAT)について触れておきたい。英国では日本の消費税にあたる、付加価値税(VAT)が導入されている。基本、消費財には20%課税されるが、一律20%ではなく、日本での増税議論でも話題になった軽減税率が採用されており、生活必需品とみなされる食品類については非課税だ。ただし、同じ食品でも生活必需品とみなされない=ぜいたく品には課税されるのが悩ましいところである。ビスケットやケーキは非課税、チョコレートやキャンディーは20%の課税。「ケーキはぜいたく品ではないのか?」と疑問に思うところだが、さらに混乱するのが、チョコレートがかかったビスケットは課税、チョコチップ入りビスケットなら非課税という不思議。

 以前、「ジャファケーキ」という見た目も味もビスケットであるお菓子を販売する食品会社と国が課税根拠をめぐって法廷闘争となったことがある。ビスケット風生地にオレンジジャムとチョコレートをコーティングしてあるジャファケーキは、チョコレートがかかったビスケットというジャンルでぜいたく品となりVATの課税対象となるというのが国の言い分である。しかしジャファケーキを販売するマクビティーズは、これは名前の通りケーキなのでVATの課税対象外と言い張ったのだ。「ケーキは放置しておくと硬くなり、ビスケットはしけてしまう」という持論を持ち出し、ジャファケーキを放置したら硬くなったので正真正銘ケーキであるという主張で、見事勝訴。これを機に、ケーキという名のビスケットが増えたとか。かくいうミスターキプリングのビスケット(に見える)お菓子も、スモールケーキという表記をすることでなぜか非課税である。

課税されるチョコビスケット 課税されるチョコビスケット
「ジャファケーキ」 課税されない「ジャファケーキ」
ミスターキプリングのスモールケーキ 課税されないミスターキプリングの
「スモールケーキ」

 私にとっては、こちらのお菓子類をめぐるVATについては、「exceedingly mysterious」-極めて謎である。しかしながら、工事現場の作業員が休憩時に、ミルクティーとビスケットを食べているのを見かけるととても和む。アフタヌーンティーの文化など、もはや非日常だと英国人は言うが、実際は3段トレーに載っていないだけで十分に甘い食生活を送っているのが、ここ英国である。

 (朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 金井 文)