ニャンとかしたい時の広告手法?

 筆者は大の猫好きである。猫が登場する広告にはついつい反応してしまう。猫に限らず、動物が登場する広告全般に親しみを感じる性分である。
  そんな筆者ですら「ちょっと多すぎでは?」と感じるくらい、ここ英国では「動物もの」の広告が多い。動物の種類は犬、猫が多数を占めるものの、お国柄で、馬やリス、はりねずみなども登場する。また、「動物もの」と言っても、リアルな動物が登場するパターン、CGで少し加工されたハイブリッドパターン、ぬいぐるみやパペットを用いたアニメーションパターンなど様々だ。

 通信や保険、銀行、食品、自動車など主要な業態の広告主がこうした動物をメーンキャラクターに起用し、A社が動物を起用したCMを流せば、競合するB社もすぐに動物を起用するなど、節度がないようにも見える戦いを日々繰り広げている。業界誌(オンライン版・キャンペーン・アドバタイジング・ニュース)でも「かわいい動物はマーケットを制するか」という特集が組まれているほどである。「動物もの」の広告手法はどれほど効果的なのだろうか?

コンペアザマーケットドットコム社が「起用」したミーアキャットのアレクサンドル コンペアザマーケットドットコム社の
ミーアキャットのアレクサンドル

 確かに2009年ごろ、保険の比較サイトを運用するコンペアザマーケットドットコム社が、アレクサンドルという名のミーアキャットキャラクターを起用してから一年以内に業界のシェア7割を確保したことは伝説となっている。
  キャラクターのアレクサンドルは企業名とは別に、自身のツイッターアカウントを持ち、現在フォロワーの数は65万6千余り、朝日新聞のフォロワー数とほぼ同じである。その後、競合社のマネースーパーマーケット社も猫を起用したキャンペーンをスタートしたものの、シェア奪回はできなかった。動物を起用すればよいということでもないようだ。

 最近、注目を浴びているのが通信プロバイダー大手2社による「猫 vs 猫」の戦いだろう。
  スリー社は昨年末、ポニーがスコットランドの美しい風景の中で80年代の音楽に合わせてムーンウオークを披露する「ダンシングポニー」というCMがヒット。5日間で14万ツイート、ユーチューブでは800万回再生された。今年に入ってスタートさせた、少女がロックを歌う「Sing It Kitty」キャンペーンも前回同様、「80年代音楽×動物」だが、ユーチューブでは10日間で400万回の再生と、「ポニー」に比べると勢いは控えめだ。

※画像をクリックすると動画が再生されます。

スリー社のCM

「ダンシングポニー」編
「Sing It Kitty」編

 その理由は、ライバルのオーツー社の「Be more dog」というキャンペーンの印象が強かったからだろう。スリー社よりも先に「猫」を起用したキャンペーンで、主役の「犬に憧れる猫」は、テレビだけでなく新聞や店頭にも登場したため大きな話題となった。さらにソーシャルメディアでのゲーム機能も充実させて新規顧客の獲得に成功した。既存顧客の囲い込みのため、ツイッターを通じて顧客の通話時間や料金などの情報をやりとりするサービスもスタートするなど、顧客との対話は前年の5倍以上も増え、最近で最も成功したクロスメディアキャンペーンと言われている。
  両社に共通しているのは「80年代音楽×動物」だ。これが黄金パターンなのだろうか。

オーツー社の「Be more dog」キャンペーン

※画像をクリックすると拡大して表示されます。 オーツー社「Be more dog」新聞広告 新聞広告
テレビCM

 英ユーチューブが発表した2013年の人気CMトップ5社のうち、3社が上記を含む動物もののCMだった。確かにここ英国では、毎日380万もの猫の写真や動画をシェアされているというから、動物たちの持つパワーは計り知れない。では、動物を起用すれば何でもソーシャルメディアで拡散されるかというと、もちろんそう簡単なことではない。「動物を起用した広告手法は昔からあり、手法によってはオールドファッションで我々の想像の範囲内のつまらないものになりがちである。よりエモーショナルに、そしてフレッシュさを出せるかが勝負だ」とは業界誌のブランド・リパブリック・オンラインのコメントだが、その通りかもしれない。また、内容によっては動物愛護団体からの抗議も予想されるため、簡単に思えて実はとても難しい手法のようだ。我々は猫の手を借りることはできても、彼らに知恵を絞ってもらうことはできないのだ。

 (朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 金井 文)