香水の広告キャンペーンにみる高級紙の「1面」活用事例

 1人あたりの香水消費量が、世界ランキング45位の日本(EURO MONITOR INTERNATIONAL May 2013調べ)からみるとピンとこないかもしれないが、英国では老若男女多くの人が香水を愛用し、日常的になくてはならないアイテムである。知人に聞くと、仕事用や遊び用など何種類かの香水を効果的に使い分けているとのこと。 

 そういう訳で香水はクリスマスプレゼントの定番アイテムでもあり、年末にかけて様々なブランドがキャンペーンを行っていた。この冬、筆者にとって最も印象的だったのは、マリリン・モンローの登場で有名な"伝説"のお披露目をした「シャネル5番」のキャンペーンだ。テレビだけではなく、高級紙各紙で全ページの広告が掲載されていたが、ひときわ目を引いたのが、12月8日のサンデーテレグラフ紙のラッピング広告だ。題字の他には「5」というナンバーだけ。ブランド名も写真も一切ない、モノクロのデザインが潔い。

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2013年12月8日 デイリーテレグラフ ラッピング広告

 英国の新聞ラッピング広告事情を説明しておくと、今回が初めてではない。むしろ、こちらの広告主はラッピング広告(英国ではカバーラップと呼ぶ)が大好きで、タブロイド紙やフリーペーパー、フリーマガジンではよく展開している。(英国で最大部数を誇る大衆紙サンもラッピング広告を掲載したことは前任者がこちらで紹介した通り)。しかし、格式高い英国の高級紙では、編集記事ではなく「広告のラッピング」を実施するのは簡単なことではないはず。新聞の顔である「1面」は各紙こだわりが強く、なかなか"遊び"をきかせることは難しいと聞く。そんな中、数年前に高級紙の中でもいち早くラッピング広告を採り入れたサンデーテレグラフは、「ラッピング広告が新聞の品位を落としたり、記事の邪魔をしたりするものとは捉えていない」と語っている。

 補足をしておくと、ここ英国の新聞は「高級紙」と「大衆紙」に大きく分けられる。「高級紙」とは知的階層向けの新聞で、発行部数は少ないものの国内のみならず世界的にも影響力があり、権威があるとされている。一方で「大衆紙」とは芸能やスポーツの記事が中心の中流・労働者階級向けの新聞のことである。「高級紙」はいずれも発行部数が少なく、最も多いデイリーテレグラフでも、大衆紙サンの2割ほどの部数しかない。

タイムズ紙のラッピング「記事」 タイムズ紙のラッピング「記事」

 そんなお堅いイメージの「高級紙」における最近の広告事情について、ロンドン五輪の時期に連日ラッピング広告を掲載したタイムズ紙の広告担当者に聞いてみたところ意外な答えが返ってきた。「うちではラッピング広告は一度もやっていないし、今後もやるつもりはない」というのだ。五輪紙面を見ましたが、という問いに対しては「あれはラッピング広告ではなく、ラッピング記事。その裏に広告を掲載しただけである」とのこと。なるほど、同紙は広告が表にくるラッピングは受け付けていないという訳だ。

題字下に貼り付けられたサンプル 題字下に貼り付けられたサンプル

 伝統を守るタイムズ紙ならではのこだわりなのかと感心して同紙をめくっていると、1面の題字下に「ヒューゴボス」の香水サンプルが貼り付けられている紙面を発見。再び担当者に問い合わせると、この広告の反響が想像以上で驚いたという。ただし、これは年間の出稿量に応じたクライアントへのサービスであり、初めての試みとのこと。そして今後は一切予定していないとの話だった。 

 各紙、それぞれの伝統を守りながらも、他紙と差別化を図るために知恵を絞っていることがわかる。紙面を大胆に使った新しい試みは大きな収入にも繋がるが、その鮮度を保ち続けることは難しい。どの広告主も「目新しさ」に魅力を感じるもの。今度はどんな技が出てくるのか、高級紙の挑戦は続く。

 (朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 金井 文)