クリスマスを制すものが英国のマーケットを制す

 渡英して初めてのクリスマスが近づいてきた。街のイルミネーションは華やかさを増し、ロンドンの各所でカウントダウンイベントが目白押しである。米国などのように、クリスマス同様、家族で祝宴を囲む「感謝祭」の慣習がないこともあり、多くの英国人は11月初旬から準備に追われている。下旬からはどこの家庭でも連日クリスマスパーティーで盛り上がるため、財布のひもはゆるむ一方だ。この機に乗じて流通業界は熱い商戦を繰り広げることとなる。

ジョン・ルイスの新聞折り込みカタログ ジョン・ルイスの
新聞折り込みカタログ

 このクリスマス商戦、百貨店、スーパーマーケット各社は毎年、数百億円の広告宣伝費を投下し、趣向を凝らした広告キャンペーンにしのぎを削る。今年はそろって長尺ドラマ仕立てのコマーシャルを制作。テレビでのオンエアと同時に、ウェブでもコマーシャルに連動するプロモーションを展開する。また、各新聞の週末版には豪華なクリスマスカタログを同封し、オンラインショッピングへの誘導も巧みに図る。通常のブランディング広告よりも売り上げに直結するだけに、この勝負は短距離レースの様相だ。

 なかでも、百貨店の「ジョン・ルイス」と「マークス&スペンサー」のキャンペーンは、話題性、クオリティーの高さでそのインパクトは群を抜く。「ジョン・ルイス」はディズニーのアニメーターを起用し、あえてレトロ感を出したという手書きによる2Dのアニメーションコマーシャル「The Bear and Hare」を制作。そのキャラクターは店頭販促にも幅広く2次使用されているほか、CMソングを歌った人気歌手リリー・アレンのアルバムも同時にリリースして話題を集めている。一方で「Believe in magic and sparkle」と銘打った「マークス&スペンサー」のコマーシャルは、シネマティックなビジュアルと、大物女優ヘレナ・ボナム=カーターなどセレブリティの出演で注目を集めている。

ジョン・ルイスのCM
「The Bear and Hare」

「マークス&スペンサー」のCM
「Believe in magic and sparkle」

 広告キャンペーンが出そろった11月下旬には、各社のキャンペーンについて、各メディアが採点を行うなど、今後の予想について、シビアな論評も見受けられるようになった。昨年売り上げを大きく伸ばした「ジョン・ルイス」は、今年は昨年同時期からさらに10%の売り上げ増を達成したと発表。涙腺を緩ませるほどの感動で期待に応える広告キャンペーンに、今年の評価も極めて高いようだ。このまま逃げ切ることができるか、それとも昨年は評判、業績ともに辛酸をなめた「マークス&スペンサー」がそのキャンペーンコピー通り、「magic and sparkle」を実現できるのだろうか。ドラマチックな舞台の裏で繰り広げられる厳しいレースの勝者のもとにだけ、サンタクロースはやってくる。

 (朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 金井 文)