「新聞は、もはやただの新聞ではない」。そんなコピーの入った広告が、9月23日から英国全ての主要紙とそのオンラインで掲載が始まった。広告主は「ニュースワークス」という、いわゆる「日本新聞協会」のような団体で、普段は主要ニュースブランド(新聞、ニュースサイト)のマーケティング調査などを行っている。今回のキャンペーンは、新聞(あるいは新聞社が持つニュースサイト)が我々の生活において代替のない役割を持っていることをアピールするためもので、12週間続くという、かなり力の入った展開である。掲載されるメディアごとにそれぞれ少しずつメッセージとデザインが異なっている。
この広告を担当したのは作家兼プロデューサーのジョン・ロイド氏、デザインは「タッピンゴフトン」という、コールドプレイのアルバムなどを手がけたデザインユニット。一見、なんてことのないデザインのようにみえるが、各新聞社のロゴとツイッターや@などのアイコンがミックスされたデザインはとても存在感があり、彼らが言う、「新聞からマルチメディアニュースブランドへの変換」をうまく表現している。
ニュースワークス・チーフエグゼクティブのルーファスオリンス氏は、「このキャンペーンによって、全ての人々に新聞の持つ大きな役割と影響力を今一度思い出してほしかった」と振り返り、「そして、社会に対してたくさんの批判や議論がある中で、その裏には別のストーリーも存在しているということを、伝えたかった」という。ジョン・ロイド氏は、「私はこのキャンペーンが、人々の認識を変え、新聞が刺激的かつ革新的なビジネスであり、献身的で熱意ある人々によるものであると、伝わることを望む」とインタビューで述べている。
私自身はこの広告をみて、現在新聞を購読している読者、またはニュースサイトを見ているユーザーに対してアピールすべきことなのか、最初は疑問に感じた。テレビやSNSで広告を出すべきではないか、そう思ったのである。しかし、現在のロンドンの地下鉄内は、新聞、フリーペーパー、本を読んでいる人ばかりで携帯電話やタブレット端末を出している人はいない。それはよく言われる、英国人は‘紙’が好きな国民性だからなのか、それともまだロンドン市内の地下鉄内では携帯の電波が入らないからなのか、検証はできていない。今後、地下鉄で携帯がつながるようになり、紙離れが進んでも新聞社が持つニュースサイトを見てもらえるよう、今のうちから刷り込みをしておく、というのは良いアイデアなのかもしれない。
最近は、ツイッターやブログをいち早く始めたタレントが「脱SNS」を宣言し、やめてみたら何てことはなかった、などと感想を述べているが、今まで新聞を読む習慣だったのが、やめてみても案外困らなかった、などとならないことを祈る。新聞が持つ情報量と信頼性、影響力は誰もが認識しているものの、人々の習慣はいったん変わると戻せないものだ。どの国の新聞社も今やトータルニュースブランドを持つ企業に変革を遂げ、革新的なビジネスモデルを持たなければならないことを、ここ英国でも感じた。
「新聞のない世の中なんて(言葉に表せないほど)最悪である」
(ニュースワークスのインタビューで語ったジョン・ロイド氏の言葉より)
関係者ではない、一般の人々にそう思われるように我々は頑張らなければならない。
(朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 金井 文)