英国で毎日必ず目にする広告といえば、通信会社かスーパーマーケットだろう。新聞はもちろん、テレビ、屋外、ウェブまでまんべんなく露出している。今回は生活者に最も密接したスーパーマーケットの広告事情についてご紹介したい。ちなみに日本ではスーパーといえばチラシは欠かせないが、新聞の宅配率が一割を切っているロンドンでは、折り込みチラシは存在しない。
まずは英国を代表する大手スーパーをご紹介しよう。高級・高品質の代名詞である「ウエイトローズ」。ロイヤルワラント(王室御用達)の称号を持つスーパーで、主に高級住宅街を中心に出店しているが、オフィス街にも「リトル ウエイトローズ」という小型店を出店している。高級という点では負けていない「マークス&スペンサー」は、スーパーというよりは百貨店に近いくらいの大型店も多く、衣料品なども売られている。ここの特徴は商品の9割以上がPB(プライベートブランド)で、値段も少し高め。なかでも「レディミール」と呼ばれる、レンジでチンしてすぐに食べられる商品のレベルの高さは誰もが認めており、筆者も引っ越してきたばかりの時は連日お世話になっていた。そして、庶民派スーパーの一つであり、昨年のロンドン・パラリンピックのスポンサーでもあった「セインズベリー」(ちなみに本社は朝日新聞ヨーロッパ総局のすぐ横)。そしてそのセインズベリーと客層のかぶる「テスコ」は、ガソリンスタンドや銀行もやっている、国内最大手のスーパーだ。(テスコが馬肉を牛肉と偽って商品化して問題になったことは、前任の林田の記事にもあった通り。)
これら英国のスーパーに共通しているのは、マークス&スペンサーほどではないにしろ、NB(ナショナルブランド)が少なく、PBが多いということだろう。ちょっとしたキャンディーから牛乳、洗剤、洋服にいたるまで商品には各スーパーのロゴが入っている。従って、どこで買うかによってその質や値段は大きく変わるのだ。そのためだろう、こちらでは自分たちがひいきにしているスーパーが大体決まっていて、“浮気”をする人は少ない。ウエイトローズかマークス&スペンサーしか利用しないという人が多く、もちろんその逆にテスコしか行かない人もたくさんいる。日本のように、「今日は卵が安いからあのスーパーに行こうかしら」、という発想はほとんどない。そのため宣伝はもっぱらブランディング広告が多く占めているのだが、よりたくさんの人たちに自分のお店を“ひいき”にしてもらおうと、各社差別化を図るために紙面では熱い戦いを繰り広げている。
右は、7月31日のディリーテレグラフ紙に掲載されたページ送りのセインズベリーの広告。「見た目も値段も同じバナナ、その価値は違います」といったコピーがついており、本文には、自社のバナナはフェアトレードのものだが、もう一方はテスコの扱う商品で、もちろんフェアトレードではない、とうたっている。質の違いをアピールし、差別化を図るブランディング広告だ。
次は8月13日にフリーペーパーの「メトロ」に掲載された、テスコの広告。「もしもあなたのカゴに、アスダ、セインズベリー、モリソンズよりも高いものがあったら、その分の割引券を差し上げています」というもの(ちなみに「アスダ」、「モリソンズ」はテスコよりも低価格が売りのスーパー)。客層がかぶっている両社でも、より「安さ」か、「質」か、そのアピールの仕方は全く異なっている。
最後に7月19日にディリーテレグラフ紙に掲載されたウエイトローズの、新聞と絡めたユニークなサービスの広告を紹介したい。宅配率が一割を切るロンドンでは朝食やコーヒーとともに新聞を買って出勤、というスタイルが定着している。駅のキオスクでの購入が多いが、この広告によると、同社のカード会員になると、朝食や新聞など5ポンド分買い物をしたら、新聞代の1.2ポンド分を値引き、さらにコーヒーまで無料になるという。実質、こちらで買い物するだけで新聞とコーヒーがサービスされるということだ。ちなみにウエイトローズはディリーテレグラフ紙だけでなく、ガーディアン紙とも同様の提携をしており、同紙の販売価格1.4ポンド分を値引くそうだ。こうなると新聞社はウエイトローズのネガティブ記事は書きづらくならないのだろうかと思ってしまう。
新聞紙面で繰り広げられるスーパーマーケットの熾(し)烈な戦いは、今後の英国民の生活にどう影響してくるのだろうか。ちなみに私はというと、近所の八百屋さんを入れると、現在四股中だ。
(朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 金井 文)