2年前に本コラムでも紹介したロンドン随一の繁華街、ピカデリーサーカスにあるビッグスクリーン「ピカデリーライツ」が来年の1月にその長い歴史に終止符を打ち、消灯へというニュースがBBCで報道された。しかし実は、初めて大きな衣替えをするために消灯をする、ということだった。ネオンの少ないロンドンにおいてこの場所はとても目立ち、夜にこの場所が暗くなる、ということが想像できない。
調べてみると、実は過去に数回「消灯」したことがあったようだ。最初は第2次世界大戦で、1939年から10年間、その後はチャーチル元首相とダイアナ妃の葬儀当日だ。あとは英国では珍しくない電気系統の不具合で、1970年代に3日間消灯したというだけで、ほとんどの人がこの場所が暗くなっているのを見たことがない。
来年の1月から秋までかけて新しく生まれ変わる「ピカデリーライツ」はサムスン製のスクリーンで、その大きさは、748平方メートル(縦17.56メートル、横44.62メートル)とヨーロッパ最大になるとのことだ。またLEDの解像度は世界一を誇るという。現在はいくつかのスクリーンが寄せ集まっているものが、一つの大きなスクリーンになることで、よりワイドでインパクトのある広告を出すことができる。また、高速Wi-Fiを搭載し、広告と歩行者をつなぐ役目を果たすことができるほか、ライブビデオストリーミングも可能になり、ロンドンと世界中で行われているイベントをライブで映し出すことが可能だ。他にも、天気や交通情報、スポーツ結果や金融情報なども随時アップすることで、より注目度を高める狙いだ。
気になる広告料金だが、年間契約のみの販売で、スクリーン全体を買う場合は3千万ポンド、日本円で約45億円とのこと。ただ、1955年から60年間以上、ピカデリーライツの一つに広告を出し続けている一番の古株であるコカ・コーラとの契約があと1年あるので、来年の誕生時はスクリーン全体を1社で独占することはできず、コカ・コーラを含めた6社でスクリーンを分割し、なおかつローテーションでそれぞれの広告主が単独で露出できる設定にしている。分割後の1社あたりの料金は4百万ポンド、約5.6億円だ。
ちなみに、世界最大のデジタルスクリーンは、2年前にできたニューヨークのブロードウェイにある三菱電機製のもので、その大きさは2,360平方メートル(縦23.6メートル、横100メートル)だというから、ピカデリーライツの3倍以上の大きさだ(写真)。こちらの広告料金は月250万USドル、日本円で約2.5億円、年間でも30億円とピカデリーライツに比べ割安感があるが、写真を見てもわかるように、ネオンだらけのブロードウェイだと競合も多く目立つのが簡単ではないようだ。
ピカデリーライツの最初の広告は、1908年に登場したペリエだった。日本企業では三洋電機が、現代自動車にかわった2011年まで、27年間この場所を照らしてきた。富士フイルム、キヤノン、パナソニックなどもそれぞれここに広告を出した歴史がある。
来年秋から新しく誕生するピカデリーライツには、現在コカ・コーラの他には、このスクリーンを受注したサムスン社が手を挙げており、残りの4つの枠に注目が集まる。
(朝日新聞社 メディアビジネス局 ロンドン駐在 金井 文)