アメリカのテック業界の新年は、ラスベガスで開催される家電見本市CESで始まる。ここシリコンバレーで働く日本人の多くも参加した。エルニーニョの影響でこの冬はシリコンバレーは雨の日が多く、飛行機が遅れに遅れたという人も大勢いた。
CESは元々、テレビや白物家電の見本市だったのだが、昨今は家電の枠を超えたテクノロジーの見本市となってきている。その影響もあるのか、しばらく前に正式名称がConsumer Electronics Showから略称のCESになり、昨年11月には、CESの運営母体であるCEA(Consumer Electronics Association、全米家電協会)が、CTA(Consumer Technology Association、全米民生技術協会)に名称を変えた。
4,000社近くが出展した今年の見どころは「自動車」と「仮想現実(VR)」。さらに「IoT(Internet of Things、モノのインターネット化)」「ドローン」などが続く。
自動車では、自動運転技術に関する一般向けの展示は少なく、トヨタ自動車が、ミニカーを用いて、自動運転に必要となる機械学習の学習過程を展示していた程度。あとはVRを使ったドライブシミュレーターやヘッドアップディスプレー、電気自動車向けワイヤレス給電システム、スマホと連動したスマート・カーナビやスマート・タコメーターなどが多く見られた。
日本の自動車産業の市場規模はおよそ40兆円と言われており、このうちトヨタや日産といったメーカーが関与しているのは20兆円。残りの半分は、保険や流通などメーカー以外の企業が担っている。このビジネスモデルは今後、大きく変わるはずである。Googleは自動運転技術に力を入れているように見えるが、実はもっと別のことを考えているのかもしれない。たとえば、自動運転機能がついた自動車を無償配布あるいは無償レンタルし、そのかわりにすべての情報を集める。その集めた情報で新しいビジネスを始める、といったことだ。このようなビジネスが登場すれば、40兆円の配分が大きく変わるだろう。
VR技術では、ゴーグル型VRデバイスの「Oculus Rift」や「Samsung Gear VR」の盛況ぶりが目立っていた。ゲームはもちろん、車の運転や医療、報道向けなど利用シーンは多岐にわたっており、これらのデバイスは、ある程度の成熟期に差し掛かってきたように思う。次は、コンテンツ制作技術がどこまで進化するかが普及へのポイントで、現在の動画編集技術並みに簡単にできるようになれば、一気に広がる可能性がありそうだ。またこの分野ではFacebookに後れをとっているGoogleが、プロダクト担当幹部をVR専任にしたこともあり、今後どういう戦略をとってくるのかも注目点だろう。
IoTでは、「スマートX」というのが多く見られた。従来の製品をスマートフォンと連動させて高機能化をはかるもので、腕時計やヘッドホンなどから、ベルト、聴診器、マッサージ機に便器と、何から何までスマート化の波が押し寄せていた。多くのケースがベンチャー企業によるもので、ソフトからハードまで何でも開発できてしまう技術力には驚かされた。一方で「それは本当に必要かな」「これはやり過ぎじゃないか」「どこかで見たことがある」というものも多く、行き詰まり感を感じた。このようなスマホとデバイスの接続から、デバイス同士の接続に進歩していけば、我々の生活も大きく変わるだろう。いまはその進歩の「踊り場」にあるのかもしれない。
ドローンは、中国DJI、米3Dロボディクス、仏パロットなどの大手メーカーに、半導体メーカーのインテルやクアルコムまで参入して乱戦模様。ドローンにとって最大の課題はバッテリー。これまでは数時間の充電で30分程度しか飛行できなかったが、今回のCESでは、英インテリジェント・エナジー社がドローン用の水素燃料電池を発表し、飛躍的に飛行時間をのばせる見通しが出てきた。ドローン本体もさることながら、制御用半導体、バッテリー、センサー、モーター、画像処理技術などを使った衝突防止システムなど、周辺技術の競争も激化している。
シリコンバレーでは新年早々、2015年の第4四半期(10~12月)のVC投資額が、第3四半期と比べて30%も減少、件数も13%減少したという、気がめいるような統計値が発表された。またサンフランシスコ最大のタクシー会社Yellow Cab社が倒産し、自動車のシェアサービスLyftに自動車大手のGMが5億米ドル出資することが発表された。どんなビジネスがうまれ、既存の産業がのみ込まれていくのか。今年もシリコンバレーの動きに注目し紹介していきたい。
(朝日新聞社 メディアラボ 米シリコンバレー駐在 野澤 博)