ケーブルテレビ VS ストリーミングサービス

 アメリカに赴任してから、ほとんどの出張が飛行機での移動だ。セキュリティーチェックの混雑を予測するのは難しい。時間がかかると思って早めに行けばあっさり通過できたり、逆に長蛇の列で、ギリギリで搭乗ということもある。予想に反して早く通過できると、搭乗までの待ち時間をどうやって過ごすか悩んでいたが、最近はスマートフォンで映画やテレビ番組を見て過ごしている。

「YouTubeテレビ」

 2017年3月、YouTubeが「YouTubeテレビ」というストリーミングサービスをスタートさせた。ABC、NBC、CBS、FOXのアメリカ4大ネットワークなど主要チャンネルを見ることができ、クラウドDVR(デジタルビデオレコーダー)(注1)も容量無制限で使える。ひと家族6アカウントまで利用できて月額35ドル。日本の場合、NHK以外は無料で視聴できるが、アメリカはケーブルテレビが主流で、私が契約しているComcast xfinityは、インターネット接続、固定電話を合わせて月額およそ150ドルなので、YouTubeテレビは十分商機があると言われている。

 テレビはプラットフォーム事業だと言われてきた。面白いコンテンツを制作し放送することで、チャンネルというプラットフォームに人を集め、そこで広告を掲出してクライアントから広告料金をもらってきた。どのくらい人を集められているかを測るため、視聴率という数字を業績指標のひとつにしてきた。YouTubeテレビが始まり、そこで主要チャンネルの番組がすべてみられるようになると、チャンネルというプラットフォームの価値が下がり、広告料金が下がり、テレビ局の収入が大きく減るかもしれない。日本では2016年4月にAbemaTVがスタートしているが、ライブストリーミングという点はYouTubeテレビと同じでも、ビジネスモデルという点では、プラットフォームに人を集めて広告掲出して収入を得ているので、既存のテレビ放送と同じといえる。

 先日、テレビ業界にとってはショッキングな数字が発表された。アメリカの統計ポータルサイトstatistaによれば、動画ストリーミングサービスNetflixの有料契約者数が、2017年の第一四半期に、ケーブルテレビの有料契約者数を初めて上回った(記事はこちら)。ただこの統計には、小規模ケーブルテレビの有料契約者数は含まれていない。その数を含めると、まだわずかながらケーブルテレビの有料契約者数が上回っているが、Netflixの有料契約者数が完全に上回るのは時間の問題だろう。

Netflix Surpasses Major Cable Providers in the U.S. (statistaより)

 テレビのストリーミングサービスは、すでに約100万人の有料契約者数を抱える先行事業社Sling TVや、Netflixの競合のhuluもサービスを始めている。AmazonやAppleなども参入の噂が絶えない。ケーブルテレビと比べて値段が安いがチャンネル数が少ない「スキニーバンドル」(注2)の問題や、回線状況によっては品質が低下するという技術的問題がある。さらに、ケーブルテレビはインターネット接続サービスなどをセットにして、高価格サービスを提供しているのに対し、ストリーミングサービスの事業マージンは非常に薄く、相当数の有料会員数を集めないと成長できないという構造的問題も抱えている。しかしながら、テレビからスマートフォンにデバイスの覇権が移っている事実は、ストリーミングサービスの成長ドライバーとして大きく影響してくるだろう。ストリーミングサービスとケーブルテレビの争いから目が離せない。

(注1) 録画指定した番組がクラウドに録画される
(注2) 視聴できるチャンネル数を減らして、月々の料金を下げたプラン

(朝日新聞社 メディアラボ 米シリコンバレー駐在 野澤 博)