「5G」空騒ぎ メディア業界再編の号砲になるか

 IT業界の今年の動向を占うキックオフイベント、世界最大級の家電・技術見本市「CES」が米ラスベガスで開催された。最終的な来場者の発表は夏頃になるが、昨年の来場者数18万人を上回ることだろう。会場のあちらこちらで日本語を耳にしたので、日本からの来場者数も、きっと昨年を上回っているに違いない。

大勢の来場者でにぎわうCES

 日本では、「次世代通信規格『5G』やAI、家電や住宅設備がインターネットとつながる『スマートホーム』などの技術に注目が集まっている」などと報道されていたようだが、これらの注目領域は、ここ数年ずっと注目され続けてきているので、目新しさがなかったと感じている。

 注目領域のうち、今年最も注目されたのが「5G」だ。高速大容量、超低遅延、多数端末接続が特長の5G。日本における商用サービスは、東京オリンピック・パラリンピックが開催される20年の予定だが、米国ではベライゾンとAT&Tが、今年前半にも、本格的な商用サービスを開始する。そういう事情もあって、来場者の多くが期待を持ってラスベガスに乗り込んだはずだ。

 結果から言えば、期待外れだった。会場では5Gの文字を見かけるものの、具体的な展示があるブースは、本当に数少なかった。

基調講演を行う米ベライゾン最高経営責任者、ハンス・ベストベリ氏(米Consumer Technology Association提供)

 なぜか。これといった活用方法が、まだ見つからないからだ。ベライゾンのハンス・ベストベリ最高経営責任者は基調講演で、ニューヨーク・タイムズをパートナーに、コンテンツ制作や配信で5Gを活用できるよう共同研究を行うとした。しかしこれは、ごく限られた5Gの利用方法であり、多くのユーザに対して利用シーンを提示できたわけではない。日本も同じような状況で、NTTドコモが「5Gオープンパートナープログラム」を立ち上げているように、各社、パートナー企業に活用を考えてもらう取り組みを進めている段階で、ユーザ向けのサービスが具体的に見えている状況ではない。

 しかし、CESの状況だけを見て「5Gはまだまだだな」などと考えていると、痛い目に合うかもしれない。

プレスイベントでは5Gにも触れた韓国のサムスンも、展示会場では8Kテレビが主役

 ベライゾンは2017年6月、米ヤフーをおよそ45億米ドルで買収。傘下のAOLと統合しOath(オース)を立ち上げた。さらに今年1月7日にはオースを解体し、同社のメディア部門「ベライゾン・メディア・グループ」に組み込んだ。AT&Tも18年6月、米タイム・ワーナーをおよそ854億米ドル(債務負担を入れると約1,080億米ドル)で買収している。

 5Gを推進するには、設備投資が年間で数兆円レベルになり、携帯電話各社は、通信料収入だけでは経営が成り立たないと言われている。そこで、新しい技術を利用したサービスを導入し、ユーザを固定化し、ユーザあたりの単価を上げていく戦略を取らざるを得ない。上流のコンテンツ制作部門は、その戦略を成功させるための必須パーツだ。当時は疑問視されたベライゾンによるヤフー買収も、「垂直統合」という5G生き残り戦略とひも付けると、先見の明があったとさえ思えてくる。

 日本の携帯電話各社も、「いつか、あたりまえになることを。」「Life Design Company」など様々な方針のもと、業務提携、出資、買収などの手段を駆使して、通信にとどまらない事業拡張を進めている。

 5Gという、まだ姿がぼんやりしている巨大な市場を目指し、携帯電話会社を中心としたメディア業界再編が起こるかもしれない。

(朝日新聞社 メディアラボ 米シリコンバレー駐在 野澤 博)