The medium is the message.

 「Branded Content」という言葉を最近よく聞く。直訳すると「焼き印を押された(ブランドの)コンテンツ」。意味は従来型の広告枠にはめ込むだけの単純なコンテンツではなく、消費者の関心を喚起するために制作されたコンテンツだと理解している。

「CITY A.M.」

 イギリスの新聞社では、コンテンツ制作を専門とするチームを立ち上げている。Guardian紙はGuardian Lab、Evening Standard(ES)紙などを発行するESIメディアはStory Studioだ。Guardian Labによると、同紙が世界に誇るコンテンツ(記事や動画、イベントなど)×テクノロジー(各種プラットホーム)×データを統合して制作されるのがBranded Contentだという。日本の新聞社が実施するクロスメディア型の広告企画と似ているが、編集部門がコンテンツ作りに関わるのが大きく違うとのことだ。具体的な制作過程や新聞ビジネスに与えるインパクトについては、取材を継続していきたいが、この機会に英国の新聞社が自らのメディア価値を上げるために何をしているのかに注目してみた。新聞本紙の広告枠は、ほぼ純広(Display)と小枠集合体の案内広告(Classified)だけでバラエティに乏しい。一方、即売やフリーメディアが多いという事情を反映して、表紙周りの取り組みがとても目立つ。

 2017年8月、セイコーが有名デパートのハロッズや高級ブランドの路面店が集まるナイツブリッジの一等地にブティックをオープンした。それに合わせて配布したのが写真のCITY A.M.(ビジネス系フリーペーパー)だ。「Grand Seiko」の上質さや高級感と照応する光沢のある上質紙でラッピングされていて、新聞本紙は通常の更紙となっている。異なる紙質を使うことで、広告を目立たせるだけでなく、商品が持つブランド価値を同時に伝えることにも成功している。このラッピング広告はエリア限定だったが、OOH広告としても販促効果が期待できるだろう。

 下は通信会社「O2」が同日に計6ページ掲載した広告のうちの1ページだ。「Oops」「OMG(Oh My God)」「$@#!*」「Nooo」といった文字だけの広告が4ページ、それら紙の広告の上には透けるトレース紙が挟まっていて、そこには同じ文言と紙の広告には無い割れたガラスのイメージがプリントされている。そして残りの2ページでは「スマートフォンのガラスを割ってしまっても、O2は交換しますよ」と訴求する。同じ「透ける」性質を持つトレース紙とガラスの親和性を使った表現はインパクトが大きく、多くの人が目を留めただろう。

「METRO」

「METRO」
「METRO」

 さらに、雑誌体裁の別刷りで、表紙が真ん中で割れて観音開きの中に広告が現れるものや、折りたたまれた表紙の一部に穴が開いているものなど、印刷技術を生かした「紙」媒体ならではの工夫を凝らした表現は毎回驚きを与えてくれる。

「ES Magazine」

 私がとりわけ感銘を受けた事例は、ES紙が毎週末発行しているES Magazineだ。今年イギリスではテロや火災で多くの方が亡くなったが、2005年7月7日にも52名が犠牲となった爆破テロ事件が起きた。犠牲者を悼むとともに事件を風化させないために、7/7号の表紙は世界で活躍する現代アーティストが制作している(通常号は著名人の写真)。参加したのは、中国のアイ・ウェイウェイや写真家のティルマンス、英国彫刻家のゴームリーなど計6人。異なる6つの表紙に「London United(団結するロンドン)」という共通の文言を載せて、ロンドン各所で配布された。記事や広告など有益な情報やコンテンツの発信が新聞社の重要な使命なのは言うまでもないが、様々なリソースを持つ新聞社が社会にメッセージを送り届ける方法はまだまだありそうだ。

(朝日新聞社 メディアビジネス局 ロンドン駐在 渡辺健司)