「The New York Times Travel Show」 現地報告

ごった返す開会式
 1月24~26日の週末にニューヨーク市マンハッタンのジェイコブ・ジャヴィッツ・コンベンション・センターで開催された「The New York Times Travel Show」に参加してきた。タイトルから分かるように、このイベントはニューヨークタイムズ社(以下NYT)が主催、運営している。2020年で17回目の開催となるこの「北米最大のトラベルショー」には、世界中の176以上の国から747のブースが出展した。協賛社募集を担当するNYTのKolodny氏によると「今年度の協賛社募集は、万博を開催するドバイ政府観光・商務局/ドバイEXPOが冠スポンサーに決まるなど好調だった。昨年の総入場者は前年比10%増の計3.5万人だったが、24日だけで既に1.2万人が来場していることから考えると、今年も同程度の伸びが見込めるはずだ」という。入場者の推移を見る限り、このトラベルショーは年を追う毎に盛況になっているようだ。

大会場で行われるシンポジウム

 それでは、具体的なイベントの中身を紹介していこう。3日間の開催のうち、初日の24日(金)はTrade Dayで、ツアーオペレーターや旅行メディア、ライターなどの業界関係者だけが参加できる。ブース展示だけでなく、大きなホール会場や小さなプレゼンテーションルームでは、シンポジウムやテーマを絞った分科会が開かれる。NYTが主催していることもあって、旅行業界のトレンドだけでなく、「ツーリズムをサステナブルにするには?」「オーバーツーリズム(※)にどう対応すべきか」といった課題を取り上げたり、LGBTQをテーマにした分科会が設定されていたりもした。HPによると、イベントでスピーカーとなる業界関係者や専門家は280人以上にもなるという。

※オーバーツーリズム=特定の観光地において、訪問客の著しい増加等が、地域住民の生活や自然環境、景観等に対して受忍限度を超える負の影響をもたらしたり、観光客の満足度を著しく低下させるような状況。(JTB総合研究所HPの説明文より)

別刷り特集と会場配布物

 続く土日の週末は、一般消費者向けのConsumer Daysで、初日とは打って変わり、家族連れが目立つようになる。会場を入るとすぐに、会場の看板や無料配布のバッグに団体名が表記されたり、NYTのトラベルショー別刷り特集に広告枠が提供されたりする協賛スポンサーのブースが並ぶ。さらに進むとアジアやヨーロッパといったエリアやクルーズのような商品別に会場は区分けされる。各国、各地域の観光協会が多い印象だが、旅行会社が具体的な旅行商品を案内するブースもある。参考までにお伝えすると、日本ブースでは各自治体の他、JAL、JR東日本、プリンスホテルといった企業が出展していた。

 このイベントは入場無料ではなく、Trade Dayは69USドル(早割)、89ドル(通常料金)、Consumer Daysは1日券20ドル、2日券25ドルのチケットを買う必要がある。昨年10月に初めての「フード・フェスティバル」を開催するなど、NYTがメディアビジネス以外の収入源としてイベントを重視しているのは知られているが、北米で最も長く続けられているこの旅行イベントは、新聞業と同様、チケット販売と企業・団体からの協賛金の2本柱の収入で成り立っているビジネスモデルだ。

冠スポンサー・Visit Dubai+EXPOのブース

 会場にはNYT「Journeys」のブースも設けられていた。駐在していた担当者によると、「Journeys」はNYTブランドを活用した旅行商品を扱うブランドだという。NYT紙の報道を基に企画された55か国以上を訪問先とした100以上のツアーにはジャーナリストや有識者が同行する。歴史や文化をテーマしたツアーだけでなく、NYT紙との親和性の高そうな学生の教育旅行(日本で言う修学旅行?)も取り扱っているのが興味深い。

 関連する広告が多いことから見ても、旅行が新聞読者の関心が高いコンテンツであることは間違いない。いきなり数万人規模のイベントを開催したり、旅行商品を企画したりするのは難しくても、読者やクライアントのニーズを丁寧に汲み取ることで、新ビジネスを生み出す余地はまだあるかもしれないと会場を後にしながら思った。

(朝日新聞社 メディアビジネス局 ロンドン駐在 渡辺健司)