誠実に、明確に製品のオリジナリティを伝え、読者の支持を拡大

 ボーズは約20年にわたり、ダイレクト限定商品の本格オーディオ「Wave music system」シリーズの新聞広告を出稿。情緒的な表現ではなく、正直に製品機能を紹介し、高額ながら大きな成果を上げています。

小型の本格オーディオ 新聞広告で支持層を拡大

富藤元一氏 富藤元一氏

 一般家庭から商業施設やコンサートホールにまで、高品質な音響機器を提供するボーズ。B to Cでは、量販店を中心に販売するスピーカーやヘッドホンなどのほか、通販と全国27の直営店のみで扱うダイレクト限定商品を展開している。それが、ラジオとCD、スピーカー、アンプを内蔵した「Wave music system(以下ウェーブシステム)」だ。この9月に発表したモデルからWi-FiとBluetoothに対応、ワイヤレス利用も可能なモデルへ進化した。ボーズ ブランドマーケティング部部長の富藤元一氏は「高価格帯の単一商品で、20年以上ダイレクト限定販売を続けているというビジネスモデルは、日本でほかにないのでは」と話す。

 同社は、研究者であり米マサチューセッツ工科大学教授のボーズ博士が創業した1964年当時から、「研究成果の結晶として製品ができあがる」(富藤氏)という完全なプロダクトアウト発想をとる。通販事業の発端は1990年代、長い共鳴管を本体に波打つように収め独自の再生技術を用いたラジオ専用機「Wave radio」が開発されたこと。「一体型のCDコンポが全盛の当時、5万円のラジオを一般の店頭で売るのは難しいと考え、まず通販で反応を確かめることにしました」

 まだ直営店もなく、専門雑誌の広告などを通して小規模に販売していたが、1999年にCDを搭載し7万円で新発売するや、勢いよく伸長。自宅に大型のコンポがあるのがステータスだった時代に、A4ほどのサイズでオールインワンを叶(かな)えたウェーブシステムは新風を吹き込んだ。

 そこで、新聞広告の出稿による広告展開へ初めて踏み切った。「レスポンス広告は、当然その媒体費を回収する必要があります。腹をくくって新聞へ出したところ、驚くほど反響が大きかった。以降は新聞をとても大切なメディアとして位置づけています」(富藤氏)。月に複数回の頻度で出稿しているが、「いつか買おう」という憧れも醸成(じょうせい)するため、反響は極めて好調だという。

誠実さを伝えるにはメディアの信頼性が重要

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2015年6月12日付 朝刊 2015年6月12日付 朝刊

 ウェーブシステムの主な購買層は「音楽が好きな人、かつて音楽に触発された何らかの経験がある人」。特に、70~80年代の本格オーディオブームを体験した層の支持が厚いという。購買層を踏まえると、新聞との親和性は高いが、同社のレスポンス広告ではユーザーの年代や属性からメディアを捉えてはいない。重視しているのは、メディアに接触するときのシチュエーションだ。

 新聞は、テレビや雑誌、あるいは店頭で情報に接する態度とも異なり、読者は毎日のニュースを能動的に得ようと新聞を手にしている。「新聞は、生活の一部として機能している唯一のメディアです。新聞広告を通した顧客像を表すなら、毎朝の食卓で新聞をめくっている人。ボーズが人々の生活にどう入っていくかを考えると、生活の中で情報を得る姿勢になっている人に直接訴求できる点が、新聞広告の大きなメリットです」

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2015年6月27日付 朝刊 2015年6月27日付 朝刊

 特に朝日新聞読者については、精神的にもおおらかに生活している、心の豊かさを望む人が多い印象だという。決して安い製品ではないが、「多くの支持をいただいているのが、こうした特徴の読者だという証明なのでは」と富藤氏。

 クリエーティブは、読者が新聞メディアに接する状況を常に念頭に置きながら製作する。認知から機能の理解、購買までがワンストップで伝わることを重視してきた。また、発売当初から続けてきた無条件での30日間返品・返金保証も、背中を押す仕組みのひとつにしている。オンラインや直営店の検索も誘導しているが、レスポンス広告の商品としては高額なだけに、気になる点を電話で直接確認し、納得して買いたいという読者が多いようだ。

 同社製品の場合は情緒的に製品ベネフィットを訴求する表現は用いず、製品が何をもたらすのかを明確に伝えることを最も大切にしている。加えて、広告に何度も触れながら検討する人も多い製品のため、ブランドとしての誠実さを大切にしている。「広告においてメディアの信頼性はとても重要です。なかでも新聞は生活に根差し、かつ“紙”の新聞自体に圧倒的な信頼性と求心力がある。この二つの理由から、新聞社は今後も紙で新聞を出し続けていくべき使命を背負っていると私は思います」