継続的なコミュニケーションで企業イメージを醸成

 自動車や情報通信分野などで使われる様々なばね製品などを手掛ける日本発条(以下ニッパツ)。一般消費者の目に触れる機会の少ない製品を扱う同社は、2008年からスポーツ施設のネーミングライツ(施設命名権)を活用したコミュニケーションを展開している。企画本部広報グループ課長の斉藤浩明氏に、その狙いなどについて聞いた。

企業の知名度向上が採用にも直結

――B to B企業のコミュニケーションには、どのような課題があると思いますか。

 多くのB to B企業において、広告・宣伝活動は、「何のためにやるのか」「効果があるのか」「売り上げにつながるのか」といった見方が社内に根強くあるのではないかと思います。一般消費者向けの商品を売ることは少なく、したがって広告宣伝予算はそれほど多くないのが実情だと思います。

 確かにB to C企業とは違い、広告活動が直ちに売り上げなどに直結することは考えにくいのですが、一般社会とコミュニケーションをしない場合の弊害は間違いなくあります。その一つが、人材採用、つまりリクルート対策です。なぜならB to B企業はB to C企業に比べて、一般の学生の知名度があまり高くなく、企業イメージも認知されにくいためです。

斉藤浩明氏 斉藤浩明氏

 しかし、当座のリクルート対策にしぼった広告活動を行っていても、長期的には有効な効果は得られません。次世代の学生、つまり子どもたちや父兄なども視野に入れ、記憶に残るような仕掛けができれば将来的な効果も見込めます。また、企業はあらゆるところに接点を持つ可能性があります。したがって、お客様、投資家、サプライヤー、従業員やその家族、地域住民など、あらゆるステークホルダーに対して企業価値を高めるコミュニケーションが必要であると考えています。

――具体的にはどのようなコミュニケーションを展開していますか。

 2008年から、アニメの「鉄人28号」をキャラクターに起用した広告を展開しています。「ニッパツ」と「28」の語呂が似ていること、金属製品を手掛ける企業としてイメージが合致したこと、そして当社が目指す社員像が「プロフェッショナル=鉄人」に通じることなど、非常に親和性が高いと考えました。テレビCMのほか、新聞・雑誌などの活字、交通広告も展開しました。

 さらに、横浜市による三ツ沢公園球技場の5年間のネーミングライツを取得。2008年3月から「ニッパツ三ツ沢球技場」となりました。2013年3月から新たに3年間、契約を更新しました。

――ネーミングライツの効果は。

 ニッパツ三ツ沢球技場は、かつては1964年の東京五輪のサッカー会場で、現在はJリーグの横浜FCのホームスタジアム、横浜F・マリノスの準ホームスタジアムです。ジャパンラグビートップリーグや全国高校サッカー選手権大会の会場としても使われています。

 地元・横浜はもちろん、多くのスポーツファンに親しまれている球技場に社名を冠したことで、様々なメディアへの露出も増え、「ニッパツ」の認知度は格段に上がったという実感があります。当社のホームページのアクセスは通常一日1万件程度ですが、ネーミングライツ取得の記者会見をした直後には12万件を超えたことには驚きました。それだけ興味を示してもらえた一つの表れだと思います。

 ネーミングライツには、施設名そのものを企業名やブランド名などに変えてしまうケースもありますが、当社ではあえて「三ツ沢」の名を残しました。横浜で生まれ育ち、地域に根ざした企業として、なじみのある地域名を残すことで親しみを持ってもらい、地域との共生を大切にする企業であることを理解してもらうことが重要と考えたためです。実際に地域の皆さんやJリーグファンの間ではすでに「ニッパツ=三ツ沢」が定着してきていると感じます。

 もちろん、従業員やグループ会社、その家族、取引先企業などにも、「Jリーグでも使われる球技場にネーミングライツを持つニッパツ」ということが、ステータスや信頼感として感じてもらえたようで、いい波及効果が得られたと実感しています。

2013年9月14日付 エリア広告特集 日本発条 2013年9月14日付 エリア広告特集

ネーミングライツは続けることで効果の出る「漢方薬」

――どのようなコミュニケーションに生かしていますか。

 ネーミングライツの特典として、5日間の施設無償使用権があり、それを利用してイベントを行っています。その一つが、朝日新聞社とのジュニアサッカー教室です。参加する子どもたちやその保護者に当社を知ってもらう機会になり、さらにその様子を朝日新聞のエリア広告特集として展開することで、地元の読者に広くアピールすることができました。このイベントと広告展開は、メディアとタッグを組んだ好事例としてメリットを感じています。
  また、大学サッカーリーグに協賛しており、「プロが試合をするピッチでプレーができる」と好評です。認知度はもちろん、当社の好感度も上がったと捉えています。

 先に述べたように、リクルート対策は就職活動の学生を対象にするだけでは遅いと思います。小・中学生のころから当社を知ってもらい、いい企業イメージを持ってもらうことで、5年後、10年後の先の採用に影響するはずです。6年前からジュニアサッカー教室を開催していますが、近い将来、このジュニアサッカー教室に参加した子どもたちが当社を覚えていてくれて、何人かが就職を志望してくれれば…と願っています。ネーミングライツの有効な活用については、今後さらに模索していきたいと考えています。

――今後の広告宣伝活動の展望や課題を聞かせてください。

 ネーミングライツを活用し、認知度や企業イメージを醸成していくコミュニケーションは、単なる広告宣伝ではなく、企業価値を高めていく活動の一つです。単発で終わらせては意味がなく、継続することでしっかりと効いてくると考えます。薬に例えれば即効性のある「風邪薬」ではなく、長く続けることに意味がある「漢方薬」のようなものだといえると思います。

 「ニッパツ三ツ沢球技場」のネーミングライツは、今年5年契約が終わり、新たに3年契約を締結しました。さらに多くの皆さんに「ニッパツ」の名を知ってもらい、好きになってもらう施策を考えていきます。

 一方で、当社の事業内容や技術力といった詳しい企業情報も、必要なターゲット層にはきちんと訴求していかなければなりません。展示会や地域のイベントへの参画などの活動と複合的に組み合わせながら、クロスメディアによる戦略的な広報・広告活動を展開し、より広く深い情報を発信していきたいと考えています。