ペットをめぐる環境変化と飼い主のニーズにマッチ

 「ペットは大切な家族」という飼い主が増えたこともあって、ペット保険の需要が伸びている。「どうぶつ健保」を提供しているアニコム損害保険の経営企画部広報秘書担当課長である永井真樹子氏にお話を聞いた。

「わが子」のためにと検討する飼い主が増加

── ペット保険普及の背景をお聞かせください。

永井真樹子氏 永井真樹子氏

 ペットのケガや病気を保障する、いわゆるペット保険は、以前は当社を含め数社が共済の形で展開してきました。しかし、家の外で飼うのが一般的だった時代には、ペットに「家族」といったイメージはなく、病気の予防を考える飼い主さんも少なかったことや、個体識別が難しいこともあってなかなか普及しませんでした。さらに、共済は広告を出せないことから、認知が広がらなかったという事情もありました。

 しかし、ライフスタイルや社会情勢の変化から「ペットは家族」と、子どものように大切に育てる飼い主さんが増えてきました。そして2000年、「アニコムクラブ」がペット共済をスタートすると、ペットブームともあいまって、広く認知されるようになりました。

──「どうぶつ健保」の概要をお聞かせください。

 犬や猫のほか、ウサギやフェレットといったペットが病気やケガをした場合、保険の対象となる診療費の50%を支払います。ペットの写真入りの「診療記録簿」という、人間の健康保険証のようなカードを、病院での会計時に提示すればその場で保険金が請求受領できる簡便さが好評です。

── ヒットの要因をどう分析されますか。

4/24 朝刊 4/24 朝刊

 先ほども触れましたとおり、以前は外飼いがほとんどでしたが、小型犬の人気からもわかるように、今はペットと室内で一緒に生活する家庭が増えました。そうなると、ペットというよりも、家族の一員という意識が芽生えてきます。少子高齢化の影響もあり、子どものようにかわいがる人も増え、大切なわが子のために、という気持ちから、ペット保険を検討する飼い主さんが増えたようです。

 また、ペットが体調を崩したりケガをしたりして病院に連れていきたくても、診療費は動物病院によって違うため、いくらかかるかわかりにくいことから、躊躇(ちゅうちょ)する飼い主さんも多いようです。しかし、保険が使えることで心理的なハードルが下がります。「お金の心配をせずに病院に連れていきたい」という飼い主さんのニーズに合ったことも、支持されている理由のひとつです。

 病院としても、早い段階で来院してくれた方が早期に治療ができることや、金銭的な理由で治療の選択肢が狭まることがなくなります。こうした理由から、対応病院も増えて普及につながったととらえています。現在、当社の「どうぶつ健保」には、全国約4,100の病院が対応。最近では獣医師がすすめて加入するケースも増えています。

 また、加入できるペットショップ数も伸びており、ペット購入時に加入する人も増えています。

保険の認知を広めながら予防を啓蒙(けいもう)していく

── コミュニケーションについてお聞かせください。

 2006年4月、保険業法が改正され、これまでペット共済を提供してきた会社は、保険会社になるか、「ミニ保険会社」と呼ばれる少額短期保険業者になるか、廃業するか、いずれかを選択することになり、当社は損害保険会社として新たなスタートを切りました。国内では当社を含め2社が保険会社としてペット保険を提供しています。冒頭でも触れましたが、共済の時代にはできなかった広告を使ったコミュニケーションにも取り組むようになりました。一例として、4月24日付朝日新聞朝刊には「どうぶつ健保」の広告を出稿しました。

 ペット保険発祥の地である英国では、昨年のデータで加入率は22%にものぼります。日本では全体の1~2%と言われており、まだまだ拡大の可能性はあると見ています。そのためには、いかに認知を広げるかが、今後のコミュニケーションの課題です。

 ペット保険を知らない人はもちろん、知っているのに加入していない人に訴求するには、なぜペット保険が必要なのかを伝えていかなくてはと考えています。信頼感を醸成しながら、コアターゲットに確実に情報を伝えるメディアの使い方、クリエーティブの作り方を検証しています。

── 今後の展開についてお聞かせください。

 2000年にペット共済を始めてからこれまで、当社が目指しているのは「飼い主さんの涙を減らすこと」。大切なのは予防です。

 飼い主さんへの啓蒙を進めながら、たとえば「5歳のトイプードルにはこんな病気にかかる子が多い」というような、当社に蓄積された情報をデータ化し、提供することで、さらなる予防につなげていきたい。個別リスクに見合った保険料を設定するなど、人間の健康保険制度を超える保険を目指していきます。