2019年と2020年の10月20日、「新聞広告の日」に合わせたキャンペーン広告が2年連続で朝日新聞朝刊に掲載された。いずれもクリエーティブ集団のThe Breakthrough Company GOが、企画からデザインまでトータルで手掛けたキャンペーンだ。新聞広告の常識にとらわれない読者参加型の大掛かりな企画で、ソーシャルメディアを中心に大きな話題となった。2年連続で企画に協賛した眼鏡専門店JINS コミュニケーション本部 エグゼクティブディレクターの秋山亮太氏に、出稿の経緯や狙い、反響、新聞広告に対する印象などについて伺った。
未知への挑戦だから面白い
2019年10月20日付朝日新聞朝刊に「新聞広告の日プロジェクト 朝日新聞社×左ききのエレン Powered by JINS」と題した全30段の新聞広告が掲載された。読者参加型のキャンペーンで、漫画「左ききのエレン」の主人公が働く架空の広告会社・目黒広告社とクリエイティブディレクターの三浦崇宏氏が代表として率いるGOがJINSの新聞広告でコンペするというストーリーだ。オリエンテーションの様子を10月19日から「cakes」で公開。目黒広告社とGOの2社による企画案や企画会議の模様を10月20日の朝日新聞全国版朝刊の全30段に掲載した。その2つの広告案のどちらを採用するかは、ツイッターからの読者の投票で決まる。WEBと新聞広告を連動させる仕掛けも、盛り込まれていた。
【#新聞広告の日 特別企画】
— 「広告朝日」編集部 (@adv_asahi) October 19, 2019
●朝倉チーム案
『近視の人しか見えない広告』
この広告、あなたには見える?
朝倉チームは、眼の錯覚を利用したグラフィックにより、近視の人しかメッセージが読めない企画を提案。
掲載後は、見えたor見えないというSNSの議論から拡散を狙う設計に! #左ききのエレン pic.twitter.com/VpApxSnQGJ
【#新聞広告の日 特別企画】
— 「広告朝日」編集部 (@adv_asahi) October 19, 2019
●GOチーム案
『赤字修正広告』
VIOLET +のすべては、広告で言及しきれない。
しかしGOチームは、その状況を逆手にとった企画を提案。
商品の詳細記述すべてに真っ赤な修正を入れたコピー原稿を掲載することで、商品の魅力を最大限アピール #左ききのエレン pic.twitter.com/BBwlv64HnZ
2019年10月20日付 朝刊840KB
2019年11月21日付版 朝刊808KB
ユニークなのは、JINSから新聞広告のオリエンを受けた広告会社のクリエーターが、どんな案にするか悩むところ。フィクションとノンフィクションが入り混じった斬新なストーリーだ。これまであまり見かけない、面白い仕掛けのキャンペーンに協賛した理由について、秋山氏は次のように話す。
「GOさんから概要を聞いたとき、今までにない新しい企画だったのでワクワクしました。漫画の中でJINSがオリエンする商品は『JINS バイオレットプラス』というレンズなのですが、実際に販売しています。機能や品質やデザインなどとても自信のあるレンズなのですが、魅力の伝え方が難しい。バイオレットライトは太陽光に含まれる、目に役立つと言われている光のこと。バイオレットプラスは、バイオレットライトを取り込める革新的なレンズで、他にも魅力がいくつかあります。それらを誤解のないように伝える必要もあり、どうしたらいいか悩んでいたのです。それに対して三浦さんからご提案いただいたのが『伝え方を迷っているところを、そのまま企画にする。漫画にすることで、商品の説明もできる』というものでした。楽しく漫画を読みながら、商品の理解が深まり、行動も促せる。バイオレットプラスという商材にぴったりな企画だったので、ほぼ即決しました。投票の結果、目黒広告社の案が選ばれ、11月21日の朝日新聞朝刊に掲載されました」
この「新聞広告の⽇プロジェクト 朝⽇新聞社×左ききのエレン Powered byJINS」は、第40回(2020年)新聞広告賞(新聞社企画・マーケティング部門、日本新聞協会)にも選ばれた。
新聞広告だからこそポップな表現が際立つ
翌年、2020年10月20日付朝日新聞朝刊には「新聞広告の日プロジェクト #広告しようぜ」というプロジェクトの始動を伝える広告が掲載された。サイバーエージェント、パーソルホールディングス、オージー・ビーフ、JINS、ソーダストリーム、水ing(掲載面順)の広告を、各社の出すお題に対して読者から公募するという内容だ。5,255通の応募作品の中から選ばれた広告は、同年12月29日朝日新聞朝刊に掲載された。
2年連続で協賛したのはなぜか。それは、新聞広告に可能性を感じていたからだという。
「2019年の実績があったので、キャンペーンに参加することに迷いはありませんでした。採用面接のとき『2019年の新聞広告を見た』と言われることが増え、あらためて幅広い層に届くメディアであることを実感しました。また、GOさんの企画のおかげなのですが、新聞広告の自由度にも魅力を感じています。信頼性の高いメディアだからこそ、ポップな表現が際立つことも分かりました」
例えば、デジタルで展開する広告は、効率的にコンバーションを狙っていくため、クリエーティブは二の次になってしまうことも多いのだという。その一方で、これまで新聞広告を活用しようとすると、ブランドのことよりも企業としてのメッセージを伝えるべきだと考え、小難しくなりがちだったそうだ。
「その中間みたいなことを、クリエーティブの力を使ってできたらいいなと思っていました。それが、2019年の新聞広告の日のキャンペーンで実現できたのです」(秋山氏)
秋山氏は「新聞広告の日プロジェクト #広告しようぜ」の内容を伝える冒頭部分のコピー、「広告はつまらない。広告は嫌いだ。広告なんて。それでも広告は、時に企業のメッセージを超えて、人の心を揺さぶり、時代を象徴し、社会を動かす(こともある)。わたしたちは、そう信じている」というメッセージにも共感したという。
「広告は『嫌われモノ』であると、広告の仕事をしている私自身、そう思っています。けれども、広告は面白いと思っていますし、個人的にも盛り上げたい気持ちもあります」
「新聞広告の日プロジェクト #広告しようぜ」で公募したJINSのお題は、「メガネを見る目が変わる広告」だ。多数あった応募作品の中から選考したのが「目はムキダシの臓器です」というキャッチコピーと、水色とピンクのカラフルなビジュアルで構成した広告だった。
「新型コロナウイルス感染症が流行したことで、感染予防の観点から目を守ろうという意識が高まっていた時期だったこともあり、タイムリーなメッセージでした。ストレートな表現も評価が高かった。見た目のインパクトも強かったので、満場一致で決まりました」
攻めの姿勢で考える、今だからできるコミュニケーション
JINSは「Magnify Life(アイウエアを通して人々の人生を拡大し豊かにする)」というビジョンを掲げている。眼鏡業界の常識にとらわれず、ファッションとして眼鏡を気軽に楽しめるカルチャーを浸透させたことでも有名だ。社内の風通しも良く、広告に限らず、商品開発など新しい企画を提案しやすいこともあって、斬新な企画ほどスピーディーに決まるという。JINSにとって、2019年と2020年の新聞広告の日に掲載したチャレンジングな新聞広告は、そうした社風とも親和性が高く、JINSのブランディングにも寄与したとも言える。2年連続で出稿したことで、新聞広告に対する印象も変化したという。
「想像していた以上にSNSとの相性が良く、情報が拡散されることが分かりました。日付を限定し、地域により新聞広告の表現を変えることで話題化できる、といった手法もあります。新聞広告だけで成立することや、幅広い層にリーチできることも、やはり魅力です。社内での評価も高く、読者に広告を公募する企画は、JINSについて考えてもらえる時間を提供することにもなったはず。深いコミュニケーションにつながったと思っています」
最後に今後のマーケティングについて、秋山氏はこう締めくくった。
「コロナ禍で派手な広告を掲載しづらい状況が続いていますが、それでも攻めの姿勢を失わずにいたい。外出しづらい状況だからこそ、JINSについてじっくり考えてもらったり、記憶に残ったりするコミュニケーションを、商品広告以外で何かできないか常に考えています。この時期だからできることを前向きに考え、仕掛けていきたいと思っています」