大谷翔平選手を起用したコミュニケーション
新聞社とタイアップしたコンテンツで挑戦の姿勢、パーパスを社内外に発信

 昨2021年シーズンの米メジャーリーグで、投打二刀流の大活躍が評価されMVPを受賞した大谷翔平選手。その大谷選手を起用したコミュニケーションを展開している三菱UFJ銀行では、昨年10月に公開された朝日新聞デジタルの大谷翔平スペシャルコンテンツとタイアップ。大谷選手の活躍や挑戦を描く読み物と重ねるかたちで「世界が進むチカラになる。」とのパーパスを社内外に訴求した。この施策の狙いや反響について、三菱UFJデジタルサービス推進部の小板洋樹氏、経営企画部の前川史佳氏に聞いた。

安心・安全を重視しながら、新しいことに挑戦する姿勢を、二刀流の大谷選手に重ねる

 三菱UFJ銀行が大谷翔平選手を起用した企業コミュニケーションを始めたのは、2019年6月のこと。「HOP! STEP! JAPAN!〜新しい信頼で、この国のチカラに!〜」をキャッチコピーにTVCMや新聞広告を展開し、大谷翔平特設サイトも公開した。

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小板氏

 「金融業界に大きな変革の波が訪れている今、当行も従来の枠を破る挑戦の重要性を訴えています。その思いを内外に発信し、従業員に意識づけていくにはどのようなコミュニケーションが必要か。それを考え抜いた先にたどり着いたのが、大谷選手の起用です。銀行はお客様の資産を安心・安全にお守りするという使命は今後も大切にしながら、新しいことに果敢に挑戦し、変わっていかなくてはなりません。安心・安全と挑戦-そんな私どもの姿勢を、二刀流の大谷選手に重ねて訴求していきたいと考えたのです」

 大谷選手起用の理由を、同行のデジタルマーケティング全般を担当する小板氏はそう語る。高い目標に向けてストイックに努力を続け、従来の常識を覆す結果を出しながらも、爽やかで明るく、誰からも愛される。そんな大谷選手の起用は、行内からもポジティブな反響が圧倒的に多かったという。
 「大谷選手が体現しているものは、まさに当行が目指しているもの。多くの従業員がそう感じとってくれたのだと思います。また大谷選手のようなスーパースターを起用できる会社で働いているという誇りが、さらなる仕事へのモチベーションにつながっていると感じています」(小板氏)
 このようにインナー効果も大きかった大谷選手の起用だが、キャンペーンをスタートした翌年には新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まる。大谷選手のけがもあり、当初予定していた大々的な露出は、いったん中止せざるを得なかった。

大谷人気の盛り上がりとともに、公開からわずか10日で17万PVを獲得

 その後、メジャーリーグの2021年シーズンでの大谷選手の大活躍が国内外で大きな話題となり、MVP受賞の期待もふくらんでいた2021年10月中旬、同行は朝日新聞デジタルのスペシャルコンテンツとタイアップを実施する。これは大谷選手を起用したコミュニケーションを主導してきたデジタルサービス推進部と、三菱UFJフィナンシャル・グループのブランド戦略全体を担う経営企画部とがタッグを組んだ施策だった。
 「私どもは昨年4月、中期経営計画発表に合わせて『世界が進むチカラになる。』というパーパスを定めました。この言葉は大谷選手と非常にマッチします。また行員を集めて当行らしさやあるべき姿を議論し、その理想像を人物で例えてもらうと、半分以上の人が大谷選手をあげました。よってこの企画は、大谷選手と重ね合わせて私どものパーパスを打ち出すうえでまたとないものだと考えたのです」(前川氏)
 そのような背景から誕生したコンテンツ「Ahead! 大谷翔平が前に進むチカラ」は、大谷選手がメジャーリーグ史上に残る偉業を成し遂げることができた要因を、高校時代からその歩みを間近で見てきたベースボールジャーナリストの石田雄太氏が紐とく読み物だ。大谷選手のプレー写真や、活躍ぶりを報じる朝日新聞の記事も入れ込んだ、充実した内容となっている。

「Ahead! 大谷翔平が前に進むチカラ」

 この「Ahead!」は、「G.O.A.T=The Greatest of All Time(史上最高)の略」と称される大谷選手を徹底分析し、2021年シーズンを象徴する五つのシーンを現地取材した記者が振り返る編集記事と同時に公開したことにより、より注目度が高まった。大谷フィーバーの盛り上がりもあって、公開からわずか10日で二つの記事合わせて(大谷選手の背番号と同じ数字の)17万PVを獲得した。
 「大谷選手が野球に向き合うストイックな姿勢や、それが子どもたちなど周囲の人々にどのような影響を与えているか、また『チョコが好き』などいった大谷選手の素の部分も書かれていて、『読み物として面白い』との反響をたくさんいただきました」(前川氏)
 「大谷選手の活躍と私どものパーパスを自然な形で結びつけ、読み物を通して私どもが大谷選手をスポンサードしている根底にある思いを伝えることができました。このようなことはTVCMでは難しい。あらためて活字媒体の力を感じました」(小板氏)

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2021年11月19日付 号外676KB

 MVPを受賞した21年11月19日に都内で配布された朝日新聞の特別号外下段にも、「MVPおめでとう!」のコピーとともに「Ahead!」にアクセスできるQRコードを載せた広告を掲載。大好評であっという間に配り終えた。同時に、PDF号外のサムネイルを「Ahead!」と銀行の特設サイトに掲載。全国の営業店が自由に出力し、お客様に渡せるようにした。

客観的な新聞からの視点を通して伝えることで、インナーへの訴求力も高まる

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前川氏

 今回のスペシャルコンテンツや号外に対しても、これまでのキャンペーン同様、社内外からポジティブな反響が非常に多かったという。
 「とくに今回は私どもからの発信ではなく、新聞社発のコンテンツとしたことで、より幅広い方に読んでいただき、メッセージもしっかり届けることができました。新聞社とのタイアップコンテンツだからこそ、普段我々だけで手配が難しい記事や写真を使用できたので、その点はほんとうに助かりました」(小板氏)
 このように新聞社のアセットやリソースを活用することのメリットを小板氏は語る。さらに第三者として客観的に情報を伝えることができる新聞メディアは、従業員にメッセージを伝える際にも有効だという。
 「私たちが従業員のみなさんに直接伝えるより、メディアを通して伝えた方が効果的なことは多々あります。銀行員は特に毎朝、新聞をじっくり読む人が多いので、とくにインナーへの訴求力は強いものがあります。そのような新聞を、今後もインナーコミュニケーションやインナーブランディングにうまく活用していきたいと考えています」(前川氏)
 「今はネットに玉石混交の情報があふれているだけに、信頼性の高い情報を求める傾向が強まっているのではないでしょうか。それだけに新聞の重要性は増しているのではと思います。現在、銀行のビジネスが大きく変化しているなか、従来のお客様はもちろん、幅広い方に私どもの取り組みを知っていただく必要性が増しています。そのようななか広告出稿だけでなく、セミナー開催などでも新聞社と組む機会が増えています。各新聞には固有の読者がいらっしゃるので、それぞれに適したメッセージやコンテンツをいかに届けるかが重要だと考えています」(小板氏)
 大谷選手同様、二刀流で新たな挑戦を続ける三菱UFJ銀行の今後のコミュニケーションに期待したい。

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