読者に応えた雑誌が長寿 編集者は基本に返れ!

 クロワッサンが35周年、クロワッサンプレミアムが5周年、クウネルが10周年、GINZAが15周年を迎えたマガジンハウス。出版不況と言われる今、代表取締役社長の石﨑孟氏に、雑誌が目指すべき方向、そして長寿雑誌を輩出する理由について聞いた。

読者の目線で半歩先を行け

――出版業界の現状について、どのように考えていますか。

石﨑 孟氏 石﨑 孟氏

 出版業界にとって今は大変厳しい時代です。その中で勝ち残っていくためにも、これまで以上に「読者目線で、読者の望むものを考えて作る」ことが求められていると思います。広告の収容本数が多い雑誌は、当然、クライアントに対する配慮も必要ですが、それと同時に、読者にヒットする企画を立てる必要があります。読者が書店で雑誌を見かけたとき「面白そう」と手に取り、ページをめくったら「面白い」と買ってもらえることが重要なんです。そのためにも、雑誌は読者の1歩も2歩も先を行くのではなく、半歩先くらいがちょうどいいと思います。

 読者のニーズをつかむためにも、編集者は自ら積極的に書店に足を運び、他誌を研究するなど地道な努力を続けなければなりません。私が若手だった頃は、書店に行くと自社の雑誌や本をきれいにそろえたり、在庫がないようだったら、会社に戻ってすぐに販売部に声をかけたり、当たり前にやっていました。そんな基本的なことが、実はできていなかったりするのが現実なんです。

――なぜ基本的なことができなくなったのでしょう。

 編集者という仕事が、格好良くなりすぎたのだと思います。ファッション雑誌の編集者が洗練されるのはいいことですが、たとえば、ブランドのバッグも単におしゃれではなく、あくまで「仕事道具」という意識で持たなければいけません。読者の多くはブランド物のバッグを、お金をためたりしながら必死に買っているのですから。そういう感覚を忘れないことが重要です。

パソコンの普及により、コミュニケーションの方法が大きく変わりました。メールで簡単に連絡が取れることは便利ですが、人間関係は希薄になりがちです。取材の依頼も、かつては手紙を書いて電話をして、お許しが出たら、ようやく会いに行けた。今よりはずっと手間も時間もかかっていました。その分、「この編集者の仕事だったら取材を受ける」とか「あなたに頼まれたら断れない」などと言われて、一人前とされる時代でした。原稿の受け渡しもメールで済む時代ですが、直接人と会わない分、何かしら別の方法で信頼関係を築く努力は必要だと思います。

移り変わる時代と読者に応えた結果が長寿に

2012年3月10日付 朝刊 2012年3月10日付 朝刊

――今年、クロワッサンが35周年、クロワッサンプレミアムが5周年、クウネルが10周年、GINZAが15周年を迎えました。長く雑誌を続けるために、なにか努力していることなどあれば教えてください。

 各雑誌のブランドを大切にしながら、時代と共に変化する読者のニーズに応え続けてきた結果です。ただ、長く続けていく過程にはてこ入れが必要な場合もあります。その見極めが成功した雑誌の一つがクロワッサンです。古い話になりますが、創刊して1年ほどで大幅なリニューアルをした結果、売り上げをV字回復させて長寿雑誌に成長しました。

 編集長は、時代の移り変わりと読者のニーズ、そのどちらも的確にとらえて誌面に反映させていくのが仕事。編集長の裁量次第で雑誌は大きく変わるのです。責任は重いですが、その分、やりがいのある仕事だと思います。

2012年3月19日付 朝刊 2012年3月19日付 朝刊

――新聞に掲載されている出版広告について。

 周年広告やサンヤツなど新聞広告は、読者への告知はもちろんですが、書店さんへのアピールにもつながります。書店員が多く読んでいる朝日新聞に広告を掲載することで、我々の熱い思いも伝えることができます。出版社にとって昔も今も、新聞は一番の広告媒体だと思います。

――マガジンハウスの今後について聞かせてください。

 来年、平凡出版から「マガジンハウス」へと社名変更をして30周年になります。昭和30年代に「月刊平凡」「週刊平凡」「平凡パンチ」、それぞれ100万部を突破する雑誌を作った歴史を踏まえ、あらためて編集者は基本に立ち戻り、時代と読者のニーズに応えられる雑誌づくりを行っていきたいと思っています。

石﨑 孟(いしざき・つとむ)

マガジンハウス 代表取締役社長

1969年平凡出版(現マガジンハウス)入社。『アンアン』『クロワッサン』『ポパイ』『ブルータス』の各編集部に在籍。87年書籍出版局の初代編集長。企画制作局局長、取締役書籍出版局局長を経て、2002年12月から現職。財団法人日本雑誌協会理事長。