今春、日本文化を国内外に発信する「ビームス『チーム ジャパン』」がスタート

 ビームスは今年、創業40年を迎えた。4月28日には新宿に「ビームス ジャパン」をオープン。日本のモノ、コト、ヒトの発信拠点としていく。代表取締役社長の設楽洋氏に聞いた。

──どのような思いで最初のお店を立ち上げたのでしょう。また、店づくりにおいて心がけたことは。

設楽 洋氏 設楽 洋氏

 売り場7畳、ストックスペース6畳の小さな店でしたが、「日本の若者の風俗や文化を変えよう!」という大きな理念があって、当初はビームスの屋号に「アメリカンライフショップ」という言葉を掲げていました。今でこそあらゆる産業がライフスタイルをうたった品ぞろえやサービスを展開していますが、当時はそうしたお店は他にありませんでした。

 ショップは、アメリカ西海岸のUCLAの学生の部屋をイメージし、中央にパインのテーブルを置いて、スニーカー、Tシャツ、ジーンズなどに加え、スケボー、ロウソク立て、ネズミ捕りといった雑貨も置きました。思い返せば、セレクトショップという言葉を使う店もありませんでした。バラエティーに富んだ品を扱うのは、百貨店か商店街の萬屋さん。そうした時代に、「ビームスのセレクションが好きな人、この指止まれ」というスタンスで、百貨店ならぬ十貨店を目指しました。

 同じ頃、出版業界では新しい風が吹き始めていて、ビームスの世界観にとても近い『メイド・インUSAカタログ』が発売され、雑誌『ポパイ』が創刊されました。

 雑誌には、旬の話題を紹介するグラビアページと、変わらぬコンテンツを提供する連載ページがあります。ビームスも、シーズンや流行をとらえたアイテムと、シーズンや流行に左右されないアイテムの両極をそろえ、リアルな空間を持つメディアとなっていきました。

──順調に成長軌道を歩んでこられました。

 最初に興味を示してくれたのは、デザイナーや雑誌社の人など感度の高い方々でした。『ポパイ』でも取り上げられ、ロゴトレーナーやオリジナルバッグなどのヒット商品が生まれました。ただ、注目されるものには必ずアンチが出てくる。他店も類似商品を出し、安売りを始める。その状況下で従来通りのことを続けていれば、商品もブランドもすたれ、感度の高いファンが去ってしまいます。かつてのディスコが象徴していますが、旬の商品というのは、時代遅れになる商品と紙一重なのです。

 淘汰(とうた)の激しいファッション業界でビームスが生き残ってこられたのは、利益を追いすぎず、商品の引き際をそのつど見極めてきたから。飛ぶように売れているのに売らない決断をするのは、経営者としてジレンマですが、ブランドを陳腐化させないために必要なことだと思っています。

──アメリカ東海岸のプレッピーを意識した「ビームスF」、ヨーロッパのモードを扱う「インターナショナルギャラリー ビームス」、レディースの「レイ ビームス」など、コンセプトを変えた店舗をオープンしてきました。

 40年の間に会社の規模は何百倍以上になりましたが、創業期の「日本の若者の風俗や文化を変えたい!」という思いは今も変わりません。会社を成長軌道に乗せる上では、単店経営の時のようにとんがったことだけやっていればいいというわけにはいきません。ボリュームゾーンのお客様を取り入れていく努力が必要です。

 市場を見渡せば、ファストファッションからラグジュアリーブランドまで無数の店があり、似たような商品もごまんとあります。例えば、ボタンダウンのシャツ。ファストファッションは1,980円、ラグジュアリーブランドは数万円、ビームスは9,800円で売る。お客様はなぜビームスで買うのか。ビームス各店では、実際にはあまり売れなくても、感度の高いお客様がうなるようなマニアックな品をさりげなく置いています。そうすることで、「ビームスの品ぞろえは他と違う。やはり外せない」となり、ビームスで買う高揚感や幸福感につながる。これが差別化のひけつです

──新宿に「ビームス ジャパン」をオープンします。

 放送作家の小山薫堂氏を総合アドバイザーとして迎え、日本をブランディングする新たな取り組み「ビームス『チーム ジャパン』」をスタートさせました。その発信拠点として新宿に「ビームス ジャパン」をオープンします。国内外に日本のモノ・コト・ヒトを発信するプロジェクトで、海外展開も視野に入れています。ストリートファッション、アニメ、玩具、民芸品や美術工芸品、新進クリエーターのアート作品などジャンルは様々で、社内では「匠(たくみ)からポップカルチャーまで」と言っています(笑)。

 日本は、資源不足や高齢化など、世界が直面する問題に最初に直面している国です。資源がないからこそエコカー技術が発達したり、フィジカルが弱いからこそ暖房便座が開発されたりと、海外にはない発想が生まれた。そうした面白さも発信していきたいと思っています。

 カルチャーというのは川に落ちた花びらに似て、川面をサラサラ行くものと、川底に沈殿していくものがある。川面を流れ行くカルチャーは、つかの間の流行や時代のあだ花で終わりますが、それはそれで目に楽しい。沈殿したカルチャーは、一つのライフスタイルとして定着していく。私は、川面を行くもの、川底にたまるもの、どちらも好きです。4月オープンの新しい「ビームス ジャパン」で、魅力的な川の流れを示せたらと思っています。

──愛読書は。

 『忘れられた日本人』、『手仕事の日本』、『日本人と日本文化』、『和の菓子』など、日本文化に関する本をあらためて読んでいます。中村天風の『成功の実現』は、読むだけで迷いや弱気が消え、ポジティブな気持ちになれる、心のバイブルです。

設楽 洋(したら・よう)

ビームス 代表取締役社長

1951年東京生まれ。75年慶應義塾大学経済学部卒。同年電通入社、プロモーションディレクター・イベントプロデューサーとして活躍。76年、同社勤務の傍ら、父親が創業した段ボール製造会社・新光の新規事業としてビームス設立に参加。83年電通退社、ビームス及び新光の専務取締役就任。88年から現職。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、設楽 洋氏が登場しました。
(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.84(2016年4月27日付朝刊 東京本社版)