まだ言葉になっていない人の潜在意識に想いを馳せるー考え抜かれたプランニングが人の話題を生み出す。

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 2021年9月17日、人気漫画『東京卍リベンジャーズ』単行本最新刊の発売に合わせ、全国の朝日新聞朝刊に47種類の全面広告「日本リベンジャーズ」が掲載されSNSを中心に大きな盛り上がりを見せた。版元である講談社とともに本企画を手掛けたのは、TBWA HAKUHODOのクリエイティブディレクター、宇佐美雅俊氏だ。同年6月にはJR新宿駅の超大型サイネージと新聞広告で展開した『進撃の巨人』最終巻キャンペーンも広く話題を生み出している。プロモーションを手掛ける一方で音楽の新しい楽しみ方を提案したSOUND HUGの開発、「耳で聴かない音楽会」の企画など、メディアの新しい可能性に挑み続ける宇佐美氏にお話を伺った。

新聞の持つ「地方性」が企画の背骨に

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2021年9月17日 東京本社版朝刊(東京都内版)
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――まずは9月に実施された『東京卍リベンジャーズ』の企画が生まれた背景についてお聞かせください。

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 講談社のご担当者から「最新刊発売のタイミングで話題を盛り上げたい」と相談をいただき、チームで話す中で最初に出てきたのが日本の地域を盛り上げるアイデアでした。新型コロナウイルスの感染拡大で遠出をする機会が減り、地域の魅力を再発見する動きもありましたし、自分も含め地元に誇りを持ちたいと思う人は多いのでは、と常々感じていたんです。さらに『東京卍リベンジャーズ』の主人公や主要メンバーはみんな不良。この「不良」と「地元」は親和性が高いこともあり、各地を盛り上げる展開ができれば話題になるだろうね、と企画が固まっていきました。もちろん、「東京」の名前を冠する作品タイトルだからこそ、ハマった企画でもありました。

――メディアとして新聞を選んだ理由は、新聞の持つ「地方性」がポイントになったのでしょうか。

 そうですね。せっかく全国くまなく届けられる、それならば新聞だろうとメディアは自然な流れで決まりました。テレビもデジタルも、全国に届けることはできても、新聞ほど、地域に根ざしていながら、影響力の強いメディアはないというのも決め手でした。

――企画を進めるなかでとくに苦労した点について教えてください。

 もっとも大変だったのは、各地域の台詞で何を取り上げるかを考えることでした。企画として地元の人が「分かる分かる!」と感じてくれなければ意味がないですし、かといって土着性が強すぎると、他の都道府県の人たちから見ておもしろくありません。地元の人が笑えて、かつ他の都道府県の人から見ても共感できる、このバランスが非常に苦労しました。

――そうやって選ばれた内容を、それぞれのキャラクターがその地域の方言で話しているのも印象的でした。

 台詞の作成にあたっては方言指導の会社に依頼しましたが、なるべく「今使われている」方言にしたかったので、その都道府県出身のチーム員に「この方言どう思う?」と聞きながら、言葉尻などを細かく調整していきました。ただ方言をアピールしたいわけではありませんし、方言が強すぎると他の地域の方には伝わりませんから、ここもバランスが求められる部分でした。あとは、同じ都道府県内でも、北と南で方言がまったく違うということは珍しくなかったので、どの地域の方言を切り取るか、というのも判断が必要でした。

<各画像をクリックするとそれぞれの地域の紙面が表示されます>

北海道支社版
東京本社版
名古屋本社版
大阪本社版
西部本社版

※一部紙面のみご紹介しています。こちらの詳細は、下記の記事で全てご覧いただけます。
人気コミックのキャラクターが47都道府県異なるクリエイティブで登場!

――キャラクターの背景が各県庁所在地だったり、デザインもコピーも細部へのこだわりが感じられる紙面でした。掲載日にはSNSを中心に大きな反響がありましたが、どのようにご覧になりましたか。

 SNSでの盛り上がりはある程度は想定していましたが実際にたくさんの方が「#オレの地元が最強」のハッシュタグで投稿してくださった様子を見て、改めて地元愛の偉大さに気付かされました。今回は掲載の1週間前に『東京卍リベンジャーズ』の公式Twitterで事前告知をしたこともよかったと思っています。6月に『進撃の巨人』最終巻キャンペーンでも新聞広告を掲載したのですが、その際はSNSに「コンビニに買いにいったけれどもう無かった」「後から気づいて遅かった」などの声があふれたのです。それならば今回は事前に予告しておき、手に入れる態勢を作ってもらってから掲載日を迎えた方が、企画が盛り上がりますし、喜んでくださる人も増えるだろうと考えました。実家に電話し、新聞を取っておいてもらうなど、ファンの皆様が紙面を手に取っている様子を見ることができて良かったです。

「物」として手元に残せることが新聞の価値

――今回の企画を経て、あらためて新聞広告について感じた魅力、価値についてお聞かせください。

 新聞の価値は実際に「物」として存在するところだと思います。デジタルとは違って重みがある。人ってデジタルデータよりも実際に手元に残せるものの方がずっと嬉しいんです。中には新聞を額縁に入れて部屋に飾っている人もいましたし、ファンにとって喜ばれるグッズ、アイテムになり得る点は、他のメディアにはできない、新聞ならではの価値だと思います。

――21年6月に『進撃の巨人』最終巻キャンペーンでも新聞掲載と新宿駅でのサイネージ広告を組み合わせ立体的に展開されていました。あの取り組みにはどのような狙いがあったのでしょうか。

 『進撃の巨人』のニセ予告は、単行本を買っている人なら誰でも知っているフォーマットです。そのフォーマットを表現するなら、1枚で完結する新聞というメディアがいいと考えました。また新聞は権威と信頼性のあるメディア。その新聞に大真面目にニセ予告を掲載し、ギャップや違和感を生み出すことで話題化を図りたいという狙いもありました。

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2021年6月9日付 全国版朝刊 15段カラー250KB

――あらためて、宇佐美さんは新聞というメディアをどのように捉えていますか。

 今の時代、新聞も駅でのサイネージ広告貼りも、写真に撮ることができるものはすべてデジタルメディアといえるのではないかと思っています。業務の中で、特定の層をターゲットにしたプロモーション広告展開の場合、新聞の購読者層の年齢が高いことを理由に有効ではないと考えられることが多いのですが、いい企画であれば、誰かが写真に撮ってSNSにアップしてくれます。アップされた時点でそれはもうデジタルメディアと一緒。その写真がバナー広告として、どんどん拡散していくわけです。ですから新聞は必ずしも高齢層のメディアではなく、使い方によってはオールターゲットのメディアになると捉えています。

どんどん「拡張」できるアイデアが良い企画

――宇佐美さんは大学では建築を学ばれたと聞きましたが、広告業界に進んだ理由について教えてください。

 子どもの頃から、自分の描いた絵などを見せて、相手からリアクションをもらうのが楽しみでした。広告という仕事は、日本中、世界中の人たちからリアクションをもらえるという点に惹かれました。また、広告の目的は「クライアントの課題を解決する」と常に一つですが、手段は無限にあることも魅力的でした。

――落合陽一さんとのSOUND HUGの開発(※)や「耳で聴かない音楽会」の実施など、宇佐美さんの企画は斬新なものが多いですが、クリエイティブのアイデアはどうやって生み出しているのでしょうか。

 人の潜在意識はつねに気にしています。まだ言葉になっていない人の意識や気持ちを表現・刺激してあげると、どう反応するのか、リアクションを想像しながらアイデアを考えています。ただたくさんアイデアを出したとしても、最終的にはシンプルなものに着地することが多い。説明しなくても伝わり、かつメディアを変えたり、デザインを変えたりしながら、どんどん拡張していくことができるものがいい企画なのだと思います。
※SOUND HUG 「聞こえないを、聴けないにしない」抱きかかえることで、音楽を視覚(光)と触覚(振動)で楽しむことができる音楽装置

――最後に、広告業界を目指す学生に向けてメッセージをお願いします。

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 センスと才能は磨ける、ということは伝えておきたいです。クリエイティブという言葉に、「才能がないとできないのでしょう」「センスって生まれつきだよね」といったイメージを抱いている学生も多いと思うのですが、そんなことは決してありません。社会人になって揉まれ、様々な経験をするなかで、センスや才能を磨くことは十分に可能です。もしクリエイティブ職としてセンスや才能を磨きたいのであれば、とにかくいろんなものに触れること。良いものはもちろん、悪いものにも触れて、何が良くて何が悪いのか、自分なりの尺度を持つことが大事だと思います。それがつまり才能とセンスを磨くことになるのかもしれません。

宇佐美雅俊(うさみ・まさとし)

TBWA HAKUHODO Creative Director


2009年博報堂入社。 2018年よりTBWA HAKUHODO。
Ars Electronic(アルスエレクトロニカ)やSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)に出展するなど広告領域を超えて幅広く活動を行う。また、日本マーケティング大賞をはじめ、電通賞、文化庁メディア芸術祭など国内外アワードの受賞歴多数。「耳で聴かない音楽会」でCannes LionsのMusic部門にてブロンズを受賞。