先進・独自の技術をもって最高品質の商品やサービスを提供し、サステナブル社会の実現に貢献する

 後藤禎一氏は、富士フイルムのヘルスケア分野の成長を支えた人物だ。今年6月に社長に就任し、ヘルスケア分野や高機能材料分野のさらなる成長を目指している。具体的な取り組みや、自身の職務経験などについて語ってくれた。

──今年6月に社長に就任されました。業績好調が続いていますが、所感を聞かせてください。

後藤氏

 今上期決算は、売上高1兆2051億円(前年比20.8%増)、営業利益1,079億円(前年比91.0%増)と、コロナ禍にもかかわらず好調でした。中でも伸びているのは、ヘルスケアや高機能材料の分野です。今年3月末には日立製作所の画像診断機器事業の買収が成立、その同日に社長就任を発表しました。この事業もうまく回っており、いいスタートがきれたと思っています。

──ヘルスケア分野の成長事業は。

 ワクチンや遺伝子治療薬など、バイオ医薬品の開発・製造受託を展開するバイオCDMO事業が大きく伸びています。今後も独自の高度な生産技術と、抗体医薬向けを中心とした大規模な設備投資で、バイオ医薬品需要の急速な拡大に対応していきます。

──高機能材料分野の成長事業は。

 5G、AI、自動運転などの発展に欠かせない半導体向けの電子材料を始め、ディスプレーやタッチパネルの材料などが好調です。いずれも写真フィルムの分野で培った技術を強みとしています。最先端の高機能材料の開発・提供を通じてDX(デジタル・トランスフォーメーション)が促進される時代の安心・安全な社会づくりに貢献していきます。

──今後の重点分野や経営目標など、計画の骨子について聞かせてください。

 2030年度をゴールとするCSR計画「SVP(サステナブル・バリュー・プラン)2030」を掲げています。その骨子は、先進・独自の技術をもって最高品質の商品やサービスを提供し、事業を通じた社会課題の解決に取り組み、サステナブル社会の実現に貢献していくというもの。2030年に売上高3兆5000億円以上という数値目標を設定しました。今期は「SVP2030」の実現に向けた中期経営計画「VISION2023」の1年目にあたります。「VISION2023」で掲げた2023年の売上高目標は2兆7000億円。なお、2022年3月期の連結業績予想は従来予想から上方修正し、売上高2兆5100億円(前年比14.5%増)、営業利益は過去最高の2200億円(前年比33.0%増)を見込んでおり、目標が射程内に入った感覚があります。とはいえコロナ禍は予断を許さない状況ですし、その他の外部環境の変化も起こりえます。DXをさらに加速させるなど、油断することなく目標達成を目指していきます。

──これまでの職務経験について。

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 1983年に入社し、最初は国内写真関連事業の営業部門で販売・マーケティングなどに従事しました。1994年にベトナムに赴任後は、シンガポール、中国と、合計17年間にわたって海外で働きました。海外では営業、経理、総務、人事、在庫の管理、代理店の指導など、あらゆる業務に目を行き届かせる必要があり、それを若いうちに経験したことが今日の糧になっています。また、シンガポールでは、インド、スリランカ、バングラデシュなどアジア13カ国を担当していましたから、様々な文化、人種、習慣、宗教と触れ合いました。扱いが難しい代理店もあり、苦労する中で、「いい人」と言われて喜んでいてはいけない。「後藤さんを怒らせたら怖い」と言われるくらいでないとダメだと悟りました。そして、結局は人対人、人間同士の信頼関係こそがビジネスの根幹であることを学びました。その実体験があるので、できるだけ若い社員を海外に派遣し、経験を積ませています。実際、頼もしい社員が育っていると思います。

──リーダーとしての信条は。

 経営者は5年後、10年後を見据えてビジネスの種をまき、水を与え、花を咲かせなければなりません。重視しているのは、現場感覚です。現場を自分の目で見て、嗅覚(きゅうかく)や皮膚感覚を働かせ、これぞといういい種を見つける。私は主にヘルスケアの分野の担当だったので、幅広い事業領域の中で明るくない分野もあります。もちろん徹底的に勉強しますが、現場の人間でないとわからないこともありますから、さまざまな人の意見を聞き、種の善し悪しを判断しています。

──愛読書は。

 経営の参考にしているのは、『組織─「組織という有機体」のデザイン 28のボキャブラリー』や『直観の経営「共感の哲学」で読み解く動態経営論』など。『キスカ撤退の指揮官』は、私の父が太平洋戦争の時にキスカ島にいたことから手に取り、撤退を指揮した木村昌福の立派な人格に感銘を受けました。

後藤禎一(ごとう・ていいち)

富士フイルムホールディングス 代表取締役社長 CEO


1959年富山県生まれ。83年関西学院大学社会学部卒。同年富士写真フイルム(現・富士フイルムHD)入社。2018年富士フイルムHD取締役、20年富士フイルム取締役専務執行役員メディカルシステム事業部長兼ヘルスケア事業推進室長などを経て21年6月から現職。

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(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

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