「本気でやる子を育てる」という揺るぎない教育理念の下、コロナ禍の逆境をバネにDX戦略を加速

 首都圏を中心に小学生、中学生、高校生を対象とした進学塾を展開する早稲田アカデミー。難関校への高い合格実績を背景に業績拡大を続けている。代表取締役社長の山本豊氏に、コロナ禍における施策や今後の展望について聞いた。

──「本気でやる子を育てる」という教育理念に込めた思いについて、聞かせてください。

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山本豊氏

 早稲田アカデミーは、第一志望校合格という高い目標に向けてひたむきに努力を積み重ねる姿勢を応援する進学塾です。進学塾ですから、学力伸長や志望校合格というニーズにお応えするのは当然の使命ですが、威圧や脅迫で精神的に追い込んだり、いたずらに不安を煽(あお)ったりするような指導方法はとりません。我々はそうした指導方法を「ダークサイドアプローチ」と呼んでいます。ダークサイドアプローチは、一時的、表面的な成績向上にはつながるものの、能動的な本気の学びではないので、詰め込み型の勉強になりやすく、確かな知識として定着しないばかりか、自発性を削(そ)がれ萎縮し、他人の指示に従うだけの人間を作り出してしまいます。
 「本気でやる」ことで得られるものは、学力に加え、論理的思考力、問題発見力、完遂力といった、これからの時代を生き抜くために必要な力です。学力伸長という「本来価値」と、自らの力で幸せな未来を切り拓(ひら)く力を養う“ワセ価値”、すなわち「本質価値」を提供する。それが、創業者の須野田誠が「本気でやる子を育てる」という教育理念に込めた思いです。

──コロナ禍が深刻化していた2020年3月に社長に就任されました。

 3月1日の就任直後、政府から全国の学校に休校要請があり、進学塾も対面授業の自粛を余儀なくされました。次いで緊急事態宣言が出て、4・5月も対面授業ができなくなりました。早稲田アカデミーは対面授業に力を入れてきましたが、できることを最大限やろうと腹をくくりました。他塾は授業映像を配信して対応するところが多い中、当社はZoomを使った双方向・少人数制のウェブ授業の環境を全校で一気に整えました。そのスピード感は、学校に通えず不安を募らせていた生徒や保護者の皆さんから大いに支持されました。
 20年5月末に緊急事態宣言が解除されたことで対面授業が可能となりました。この時、生徒や保護者にアンケートを実施したところ、コロナ禍の出口が見えない中で「もうしばらくはウェブ授業を続けてほしい」という回答がとても多く、ならば対面とウェブ授業を両方やろうと決断し、校舎での対面授業と双方向のウェブ授業のいずれかを選択できる「早稲アカDUAL」を開始しました。

──現場はスムーズに対応できましたか?

 講師陣には、対面の授業をしつつタブレットの操作をし、自宅で受講している生徒たちにも気を配ってほしい、20年6月からは“二刀流”でお願いしますと号令をかけました。最初は慣れないことで大変だったと思いますが、どの講師も快く協力してくれました。生徒が自宅で受講している場合は、保護者の方も脇で授業をご覧になれますから、「我が子が受けていた授業がこんなにもすばらしかったとは」といううれしい声も寄せられました。講師陣にとってはプレッシャーですが、授業の質の向上につながると思いますし、保護者の皆さんが質の高い授業を実感していただく機会にもなっています。

──ICTを活用した新サービスを次々と展開しています。

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 DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略を加速しています。ウェブ専門の「早稲田アカデミー オンライン校」の開校の他、「家だと勉強に関係ないものもあるので集中できない」「1人で勉強していると緊張感を保てない」という生徒に向けたオンライン自習室「早稲アカRoom」を開設。自習中の机上や手元を映してもらい、その様子を校舎スタッフが監督し、生徒がわからないことがあればオンライン上で対応する仕組みです。また、いつでも復習できる「オンデマンド授業映像」の配信も行っています。さらに、自宅で受けたテストの解答用紙や自宅で取り組んだ課題をスマートフォンやタブレットで読み込むと、簡単にアップロードできるアプリ「早稲田アカデミーEAST」の展開を始めました。このアプリを使うと最短即日で、採点・添削された解答用紙が返却されます。
 こうした様々なサービスの組み合わせにより、対面授業と同等の授業の質を担保していきたいと考えています。双方向のウェブ授業や早稲田アカデミーEASTは、早稲田アカデミーの校舎がない首都圏外や海外にも生徒数を増やせる画期的なサービスで、成長の可能性を感じています。

──2021年10月に個別進学館の子会社化を発表しました。

 明光ネットワークジャパンと共同で経営していた個別進学館を完全子会社化しました。集団指導と個別指導との相互補完によって、さらなる合格実績の伸長を目指していきます。早稲田アカデミー個別進学館は、21年12月現在で56校舎(うちフランチャイジー16校舎)を構えますが、今後は直営・フランチャイジー合わせて首都圏でまずは100校舎を目指したいと考えています。

──リーダーを務めるうえで糧になっている職務経験を聞かせてください。

 入社から10年ほどして本社の運営部長に就任し、料金の収納や教材の在庫管理、新校舎設立に向けた不動産交渉、広告宣伝、情報システム管理など、様々な業務に携わりました。中でも最も緊張感の高まる業務は夏期合宿の運営で、携わった20年の間に、お預かりする生徒の人数は数百人から1万人以上に増えました。こうした経験が自分を成長させてくれたと思います。昔の教え子が子育て世代になり、受験相談や合格報告に来てくれることもあって、そういう時は講師冥利(みょうり)に尽きます。

──リーダーとしての信条は。

 常に心がけているのは、誠実さと謙虚さ。冷静な状況分析とスピード感のある実行。そして、理念や目標を共感し合える組織風土づくりです。コロナ禍対応で、こうしたことの大切さを再認識しました。

──愛読書は。

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 創業者が著した『わが子を救う教育サバイバル術』は、早稲田アカデミーの教育理念が詰まった一冊で、資料集めなどを手伝った思い出深い書です。講談社ブルーバックスシリーズは、講師時代に授業の参考としてよく読みました。教育者として心のよりどころにしているのが、稲盛和夫さんの『生き方』。最近では『やり抜く力─人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』が心に残っています。

山本豊(やまもと・ゆたか)

早稲田アカデミー 代表取締役社長


1963年長野県生まれ。87年早稲田大学第一文学部卒。同年、学生時代からアルバイト講師を務めた早稲田アカデミーに入社。早稲田校校長、取締役運営部長、専務取締役運営本部長などを経て2020年3月から現職。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、山本豊氏が登場しました。
(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.139(2022年1月30日付朝刊 東京本社版)938KB


「リーダーたちの本棚」の連載が書籍化されました。詳しくは以下の関連記事をご覧下さい。

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