そこで朝日新聞社は、2023年4月に中高吹奏楽部向けのオンラインレッスンカリキュラム「コジンレン」をスタート。吹奏楽部のみなさんが自立的に個人練習を進められるよう、楽器ごとに多様なレッスン動画を収納したウェブサービスを始めました。
今回は「コジンレン」を立ち上げたビジネス開発センターの郡有毅にインタビュー。「コジンレン」がどのようなシーンで活用され、どのような学校で導入されているのかなどについて聞きました。
コジンレン サービス紹介資料
東京佼成ウインドオーケストラによる300以上のレッスン動画を収納
──まず、「コジンレン」とはどのようなサービスですか。
吹奏楽部の個人練習を充実させるために開発した、オンラインレッスンツールです。長年「全日本吹奏楽コンクール」を運営してきた朝日新聞社が、2年かけて全国の吹奏楽部をリサーチしてトランペットやフルート、コントラバス、打楽器など12種類の楽器について、トッププロの演奏家によるレッスン動画を収納し、生徒一人ひとりが自立的に練習を進められる環境を用意しました。
ウェブサービスなので、インターネット環境があれば、アプリをインストールすることなく手軽にアクセスすることが可能です。学校から生徒に配布されているICT端末からログインすることもできます。実際、部活動の時間や自宅で、ICT端末から利用している生徒も多くいらっしゃいます。
契約は学校単位で、月額利用料を人数分お支払いいただいています。基本的には年間契約していただくケースがほとんどです。
──吹奏楽部というと、コーチによる丁寧な指導のもと、発表会やコンクールに向けて日々練習している印象があります。学校の部活動でも完結できそうですが、なぜオンラインレッスンカリキュラムが必要なのでしょうか。
実は、吹奏楽部は顧問の先生の指導負担が非常に大きい部活動の一つなんです。吹奏楽には14種類以上の楽器があるため、1人の先生が全ての楽器を指導するのは難しい。コンクールの上位入賞常連校や、部活動にかなり力を入れている学校でなければ、日ごろの練習にOBOGを呼ぶことはできません。ある調査によれば、全国の吹奏楽部の中で吹奏楽部出身の先生が指導している学校は、半分にも満たないそうです。
そうすると学校によって指導格差が生まれてしまいます。「全日本吹奏楽コンクール」の運営企業としては、新たな上位入賞校を生み出しにくい状況になっていることにも課題を感じていました。これまで運動部向けの動画レッスンサービスはありましたが、吹奏楽部向けのサービスはなく、吹奏楽部の活動をより良いものにしたいという思いから生まれました。
──こうした部活動の悩みを解決するために、「コジンレン」にはどんな特徴がありますか。
例年のみなさまに全面協力いただき、一つの楽器に付き、初級クラス、中級クラス、上級クラスと難易度に合わせて3種類の「クラス」を用意しました。初めて楽器を触る方向けの基礎的な演奏方法から、コンクールで上位入賞を目指す方向けのレッスンまで広くカバーしています。カリキュラムの内容は、東京佼成ウインドオーケストラの先生方に全面監修して頂きましたので、プロならではの練習方法を採用しています。
それぞれの楽器に別管(同種かつ別調性の楽器)を用意しており、現在も年間約300本のペースで新しい動画を格納しています。
動画制作の際に重視したのは、録音環境や撮影時の角度などです。撮影の際は、東京佼成ウインドオーケストラさんのレッスン場をお借りし、クリアに集音できるよう様々な機材を使用しました。三つのカメラで指の動きや楽器の持ち方などを様々な角度から捉えることを意識しました。
また、「コジンレン」には、生徒一人ひとりが自主的に練習できるための機能も備えています。ログインすると、その日取り組むレッスンや演習がひと目でわかり、その日学ぶべき動画や楽譜にすぐアクセスできるようになっています。日々の取り組みカレンダーや生徒アカウントページでは、取り組み回数や習熟度、達成率などが可視化され、個人練習の推進とモチベーションアップができる仕組みとなっています。
顧問の先生用の管理画面も用意しています。生徒一覧画面で、生徒ごとの担当楽器や受講したレッスン、演習回数などを確認できますし、個別詳細画面では一人ひとりの総取り組み回数やログイン日、達成率などを確認することもできます。先生が部全体にアナウンスできるよう、「お知らせ」作成機能も備えています。
──2023年4月のサービススタートとのことですが、どのような学校で導入されていますか。
すでに日本全国の40校近くに導入されています。そのうち12校は、サービススタート前の仮説検証段階から継続的に利用していただいています。利用校の多くが中高一貫の私立校で、これから吹奏楽に力を入れていこうと考えている学校からの要望も増えています。
また、導入した学校の先生同士のコミュニティをfacebookで運営しており、サービスの使い方をシェアし合う環境も整えています。
コジンレン サービス紹介資料
70回以上「全日本吹奏楽コンクール」を運営したノウハウを活かす
──新聞事業と、学校向け吹奏楽事業は大きく離れているように思います。なぜ「吹奏楽」というジャンルのサービスを考えたのですか。
確かに、吹奏楽というと学校向けですし、メディアビジネス局でデジタルメディアの企画・運用をしていた私の経験からもかけ離れています。
しかし、実は朝日新聞社にしかない強みを活かした事業なんです。朝日新聞社は、これまで70回以上にわたって「全日本吹奏楽コンクール」を運営し、小学生から中高大学、一般の部まで幅広い年代の吹奏楽部を審査してきました。
ですから、吹奏楽部のみなさんの間では、「吹奏楽コンクールを運営している朝日新聞社」のイメージが定着しているように思います。それに、もともと学校で朝日新聞をご購読いただいているケースも多く、日常的に学校との取引もあります。
朝日新聞社では、教育事業部で大学の講座を持ったり、新聞を活用した教材開発を手掛けたり、あるいは就職活動支援やキャリア教育支援などに携わったりもしています。そのおかげもあって、学校関係者や保護者のみなさまからの信頼も厚いんです。
私自身が学生時代にオーケストラ部に所属していた経験も「コジンレン」立ち上げのきっかけになっています。当時はオーボエという楽器を担当し、ソロコンクールへ出場するなど活動に全力を傾けていました。大学生になってからは、OBとして母校のオーケストラ部へ指導しに行ったこともありましたが、指導者やOBOGが充実した学校ではなかったので、指導に苦労したことを覚えています。
こうした自分自身の経験からも、吹奏楽部のリアルな困りごとを解決するサービスを提供できると考えています。
──サービス立ち上げ時に印象に残っているエピソードについてお教えください。
ユーザーの声をしっかり理解するために、全国の吹奏楽部を繰り返しリサーチしました。「全日本吹奏楽コンクール」の参加者説明会会場へ出向いて告知チラシを配布したり、YouTubeに20本ほど無料のレッスン動画を公開してユーザーアンケートを行ったりしました。
また、外部のリサーチ会社に依頼して、吹奏楽経験者3,000人にアンケートを取るなど、ユーザーのニーズを詳細に知る工夫を重ねました。
コジンレン サービス紹介資料
海外や社会人楽団から問い合わせも 部活動の運営体験を変えたい
──導入校からの反響はいかがですか。
プロトタイプの段階から利用していた学校はすべて利用を継続し、ご好評いただいています。日々の部活動でしっかり活用してくれる学校が多く、機能追加の要望も多くいただいています。最近では、「あとで聞き直せるよう、練習中の音声を録音したい」という要望もいただきました。ニーズの多い機能追加は、チーム内のエンジニアと頻繁にディスカッションし、最速2週間で実装できる体制を整えています。
意外だったのは社会人楽団や東南アジアなど海外の学校からも、「使いたい」という声をたくさんいただいたことです。東南アジアは1校あたりの生徒数が多く、日本以上に吹奏楽が盛んなのだそうです。改めて、音楽は言語や国に関係なく、世界中どこでも通用するのだということがわかりました。ゆくゆくは、英語対応も検討したいですね。
──今後の展望は?
音大出身の顧問の先生がいない学校でも、自分たちの力で演奏が上達していると思えるよう、部活動の運営体験そのものを変えていきたいと思っています。
また、より一層チーム体制を強化し、ユーザーのみなさまに対して手厚いサポートをご提供していきたいです。「全日本吹奏楽コンクール」の課題曲などのレッスン動画も格納できると良いなと考えています。
コジンレン サービス紹介資料
国内最高峰のトッププロが、吹奏楽部生徒のために考え抜いた動画レッスンカリキュラムをオンラインアプリで提供します。 ちょっとしたお悩みからお受けします。お気軽にお問い合わせください。
「コジンレン」プロジェクトマネジャー。2019年入社後、メディアビジネス局広告編成部に配属。デジタル広告の企画・運用に従事しながら、新規事業提案制度「STARTUP!」に応募。2021年より新規事業部にて、吹奏楽部向けオンラインレッスン カリキュラム「コジンレン」のプロジェクトマネージャーに従事。二度の事業化検証期間を経て2022年4月に事業化が決定、2023年4月に本格的なサービスリリースを実現させた。ビジネス開発センター アライアンス事業部所属。