高速文字起こしで記者を支援 朝日新聞社が開発した「ALOFA」の力

朝日新聞社が独自に開発した次世代のコンテンツ制作支援ツール「ALOFA(アロファ)」。文字起こし機能を中心に2025年3月末にベータ版をリリース。「ALOFA」が目指す次世代の制作支援とは。ALOFAプロダクトマネジャー・新美茜氏、ALOFAフロントエンジニア・松山莞太氏に聞いた。

朝日新聞の記者のニーズが開発の起点に

──開発の背景について聞かせてください

新美:きっかけは、朝日新聞の記者の多くが抱えていた課題でした。具体的には、「取材時に録音した音声の文字起こしに膨大な時間と労力がかかる」「取材データの一元管理ができない」「既存の文字起こしサービスはセキュリティー面で不安がある」といった課題です。
 そこでまず、社内向けの文字起こしツール「YOLO」を開発。記者をはじめビジネス部門の従業員にも使用を促し、使用感についての調査を実施しました。さらに集まったニーズをもとに機能の改善を図りました。忙しい記者ほど新しい技術の導入におっくうになると考え、UI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)のデザインも追求しました。
 そしてコンテンツ制作支援ツール「ALOFA」として新たに公開。今後もさらに機能を発展させる予定で、社外への展開も進めています。

ALOFA_337A8178_v1

新美茜氏

──他の文字起こしツールと比べてALOFAの差別化のポイントはなんでしょうか?

新美:ALOFAの文字起こし機能は、朝日新聞の記者が取材した会見の音声を学習させた独自の音声認識エンジンと自然言語処理の最先端テクノロジーを活用し、記者やライターの制作・編集業務を支援します。
 ノイジーな音声でも認識精度が高く、1時間の音声ファイルは約4分で文字起こしが完了。大容量のファイルも高速にテキスト化(ビジネスプランは、同時に10ファイル、1度に20GBまたは10時間のファイルまでアップロードが可能)します。
 また、すべての有料プランで音声データは学習に利用されないので、秘匿性の高い音源も安心して管理できます。

──ALOFAのAI技術はどのような機能がありますか?

新美:「えーっと」「あー」といったフィラーや相づち、言葉の繰り返しを削除して文章を読みやすく整形する「AIリフレーズ機能」(特許出願中)を搭載しています。日本速記協会の整文ステップを学習した機能なので、文脈を無視した省略や過度な省略のない自然な文字起こしを実現します。
 また、「取材の内容によってはフィラーや相づちもすべて文字起こしをする必要がある」というユーザーの声をふまえ、フィラー、言い直し、相づちをそれぞれ個別にオン・オフできる設計にしました。

ALOFA_他社サービスとの比較

──リアルタイムで文字起こしを編集できる機能も備える

松山:会見などをテキスト化して速報する場合、従来は収録した音源を既存の文字起こしソフトに取り込んでから手直しする必要がありましたが、ALOFAは追いかけ再生をしながら、リアルタイムで文字起こしの修正や編集ができるので、会見終了直後にほぼ完璧な原稿を完成させることが可能です。この機能を使うことで、複数で行っていた会見の文字起こしが1人で済むようになったという声も多く届いています。
 また、複数のユーザーが「ワークスペース」内で同時に同じ文字起こしを編集することもできるので、チームで最新の情報を共有しながら効率的に作業を進めることができます。ライターと編集者が取材音声をALOFAで共有し、重要な箇所にハイライトやコメントを入れることができる「ハイライト機能」を使って共同で文章をブラッシュアップする、といった作業も社内で行われています。

ALOFAサービス資料


ビジネス部門ではミーティングの議事録の作成に活用

──ビジネス部門ではどのように活用できますか?

松山:社内のビジネス部門では、ミーティングの際にチームでワークスペースを共有し、議事録の作成などに活用しています。
 ワークスペースの広がり方としては、部署のトップがワークスペースを構えて案件ごとにフォルダを設置し、共有権限を与えられた複数の部員がフォルダ内のデータを共有。必要があれば共同で編集するという形が多いです。
 有料の「ビジネスプラン」のストレージ容量は1ID(人)あたり月50GBですが、例えば5人チームの全員がビジネスプランを利用している場合、5人でそのすべての容量をシェアすることもできます。

ALOFA_337A8017_V01

松山莞太氏

──音声や動画ファイルの管理におけるALOFAの特長はなんですか?

新美:音声データや動画データをPCで管理する場合、ストレージの容量がいっぱいになってデータを捨てるケースが少なくありません。また、使いたい音声や動画を検索する時はタイトルや日付で探すしかありませんでした。
 ALOFAの「エンタープライズプラン」はストレージ容量が無制限で、大量の音声ファイルや動画ファイルの一元管理が可能です。さらに、AI技術によりすべてのファイルで要約とチャプターが自動で生成されるので、なんとなく記憶にあるキーワードなどからも目的のファイルを探し出すことができます。

──朝日新聞社の文章校正AI「Typoless(タイポレス)」との連動の可能性は?

新美:近いうちにTypolessをALOFAに実装する予定です。なお、文字起こし文をTypolessで校正した場合、口語表現がことごとく校正の対象になるため、単純な文字起こしの機能と校正の機能を使い分けられるような形で連動させていけたらと思っています。

取材にまつわるすべてをALOFAでできるようにしたい

──ALOFAを導入したユーザーからはどんな声が届いていますか?

新美:ユーザー約60名のアンケート結果をまとめたところ、「月の残業時間が20時間減った」「音声や動画の文字起こしにかかる作業時間を60%効率化できた」といった声がありました。記者たちからは、「精度の高い文字起こしや検索のしやすさにより、話を深掘りしたり、熟考したりといった本質的なことに時間を割けるようになった」という感想が多く届いています。

松山:若い記者ほど積極的に導入しており、同期の記者たちからも「ALOFAを便利に使っている」という声が届いています。

ALOFA_337A8209_V2

──ALOFAの今後の機能と将来の展望を教えてください

松山:まだ検討段階ではありますが、YouTubeに誘導したり、記事ページに挿入したりするショート動画をALOFAで作成できるようになると、使い勝手が広がると思っています。
 音声や動画をアップロードするだけで多種多様なコンテンツが作れて、マルチチャンネルに発信できる。そんなイメージです。いずれは取材にまつわるすべてをALOFAでできるようにしたいと考えています。

新美:「コンテンツ制作支援ツール」とうたっているのは、いま松山が話したことが背景にあって、つまり文字起こしにとどまらず、より広義に捉えられるサービスとして発展させていく考えです。
 例えば、リアルタイムで配信したセミナー動画に文字起こしの字幕をつけて再度アップロードする。その動画の一部を切り抜いてSNSに投稿してさらなる集客を見込むなど、コンテンツの2次活用に使う。
 あるいは、社内のナレッジを蓄積する大きなストレージとして活用する。いろいろな可能性があると思うので、今後も機能のアップデートを重ねていくつもりです。

ALOFA_icon_

ALOFAサービス資料

コンテンツ素材の文字起こしを高速で「作り」、「見つけ」、「つなげ」、「直せる」からコンテンツ作りの質が変わる

新美 茜(にいみ・あかね)

「ALOFA」プロダクトマネジャー。2019年に入社後、社内の研究開発組織であるICTRADに配属。地図やグラフの自動生成ツールの開発、ALOFAの前進となる社内向け文字起こしサービスYOLOの開発などに従事し、2024年度からALOFAのプロダクトマネジャー兼エンジニア業務を担当。メディア事業本部サービス開発部所属。

松山 莞太(まつやま・かんた)

「ALOFA」フロントエンドエンジニア。2022年に入社後、社内の研究開発組織であるメディア研究開発センターに配属。新聞記事をデジタル化するプロジェクトを経て、2023年にALOFAの構想段階から参画。UI/UX設計にも携わり、フロントエンドのリーダーとしてエディタや共同編集などの開発を主導。メディア事業本部サービス開発部所属。