「スマートシティ」

Keyword

ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域のこと。(内閣府資料より抜粋)

国内のスマートシティ推進における現状の課題

 新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、わたしたちの暮らし方や働き方は大きく変わりました。キャッシュレス化やリモートワークに始まり、医療や教育の現場、移動サービス、行政サービスなど、あらゆる生活シーンでテクノロジーの利活用が進んでいます。
 日本各地、世界各国で、日々スマートシティに関する様々な技術の実証実験が進んでいます。今後デジタル化がさらに進展すれば、できることの幅も広がっていきます。交通サービスや行政サービスはより効率的な運用がされていくでしょうし、災害や防犯にもより迅速に対応できるようになるでしょう。わたしたちの生活がよりよくなる、新たなサービスが生まれるきっかけにもなるのではと思います。

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スマートシティサービスに基づく、5つの市民ニーズクラスター 博報堂自主調査 エリアHABIT2020の調査結果をもとに抽出。(全国14000サンプル)

 しかしながら、各地で推進されているスマートシティは、いくつもの課題を抱えています。様々なことが新技術で実現できる可能性があるのにもかかわらず、持続可能な運営資金が確保できずに実験で終わってしまう、データ利活用などの問題で市民の支持が得られないなど、障壁はさまざまですが、いま一歩のところでつまずいているという現状が起きています。また、多様な産業領域を横断し、行政と民間が連携しながら推進していかなければならないことも多く、その調整だけでも難易度の高い取り組みになることが必至です。

持続可能なスマートシティモデル実現に向けて

そんな課題がある中で、いかによりよいスマートシティを推進していくことができるか。私はこれまで実施してきた実証実験や、各地での取り組みの研究を通じて、次の二つがとくに重要であると考えています。
 一つめは「評価と可視化」です。都市全体としてどのようなビジョンのもと、サービスや都市活動を実装していくかの仮説を立て、地域住民の声にも耳を傾け、現状の都市の状況を定量的・定性的に把握・評価することが重要です。都市の特性やステークホルダーによって、目指すビジョンも変わってくるはずで、そのビジョンの実現に向けて取り組むべき施策も地域ごとの設計が必要になります。
 また、スマートシティは関わるステークホルダーが企業、行政、民間団体、など多岐にわたるため、その合意形成も求められます。だからこそ、さまざまな取り組みを横断的に評価する体系を構築し、ステークホルダーをつなぐ共通言語として可視化することが不可欠です。それによって、エビデンスに基づくスマートシティの推進・運用をすることが可能となります。評価体系の構築については、すでに国内外でトライアルが進んでいます。

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民主的なデジタルサービスの活用によってスマートシティが推進されているバルセロナ市のsuperblocksの取り組み(筆者撮影)

 もう一つは、生活者からの「共感の獲得」です。街に暮らし、サービスをつかう生活者の共感がなくては、サービス導入は進みません。とくにヨーロッパのスマートシティでは、生活者の幸せのため、という方針が徹底されています。オンライン上で自分たちが支援したプロジェクトに対して予算が執行されるような民主的なツールを自治体が導入する、広場の使い方や新サービス導入の検討に当たり、データ分析の結果を見てエビデンスに基づいた対話で実現されるなど、多くの事例が見られます。生活者の知らないところでサービス導入が進んでいってしまうのではなく、ひとつ一つの取り組みに対しての賛同を得ながら推進していく仕組みとコミュニケーションが必要とされています。

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市民の投票やアイデアを募るサービス(バルセロナ市の市民共創プラットフォームdecidimをベースに作られた、shibuya good talk)

 こうした、「評価と可視化」「共感の獲得」の先に目指すのは、持続可能なスマートシティモデルの実現です。技術の実証実験で終わらずに、継続可能なものにしていくため、ビジョンや効果を街ごとの文脈に沿って評価し、生活者から賛同を得た実態をつくっていくことで、必要性を証明する。この高度なマネジメント体制を構築することが、ステークホルダーを横断した価値循環を可能にすると考えています。

スマートシティに、クリエイティビティとプロデュース力を

 ここまで挙げたような、これからのスマートシティの推進に必要なマネジメントノウハウというのは、実はこれまで広告・マーケティング業界が取り組んできた、企業・商品のブランドマネジメントとの共通性が高いものだと感じています。広告業界が培ってきた、クリエイティビティとプロデュース力が今、スマートシティという新領域に求められているのです。

大家雅広(おおいえ・まさひろ)

博報堂 ミライの事業室 スマートシティ事業リーダー/ビジネスデザインディレクター


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博報堂入社以降、企業のブランディング、新商品・サービス開発、都市開発・地方自治体支援などの業務に従事。現在は、博報堂の新規事業開発部門ミライの事業室にて、スマートシティ領域の事業開発をリード。生活者ドリブンでのスマートシティを実現するサービス「shibuya good pass」を三井物産との共同により渋谷エリアで実証実験中。