「RaaS(Retail as a Service) / 体験型店舗」

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「RaaS(Retail as a Service)/体験型店舗」とは、製品やサービスを体験させることに目的を置いた小売形態である。販売利益ではなく、区画の貸し出しや接客スタッフ、来店客の属性等の定量データ・接客時の定性データを提供することで出展料を得るビジネスモデルである。

体験型店舗が台頭してきた背景

 生活をしていく上で十分なプロダクトがそろい、情緒的価値や社会的価値を提供してくれるサービスが生活者に支持されるようになった。エデルマン・ジャパンが行った調査で、10人中およそ4人がブランドの信念にこだわった購買行動を行っていることから、 自身の社会的信念を反映する「ビリーフ・ドリブン」な購買者が一定数存在していることが分かる。

 生活者側の変化に伴い、企業側もマス中心の市場創造ではなく、価値観が多様化した市場への対応が求められている。機能便益から体験価値へ、生活者に伝えるべきことを変える必要が出てきた。同様に企業側の追っていくべき指標にも変化があり、販売利益ではなく、価値観起点でエンゲージメントを図るアプローチを行い、顧客との関係を強化するLTV(=顧客生涯価値)を指標として設ける企業も存在するようになった。

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 例えば、自社製品を生活者に対し直販する新たなビジネスモデル「D2C(Direct To Consumer)」も、強いブランドストーリー中心の訴求や顧客とのコミュニティー形成がされており、顧客と中長期的な関係を意識したLTV型ビジネスモデルへの対応を実現している。
 購買よりも、体験価値を中心とした関係構築を重視する体験設計が求められる今だからこそ、販売より体験を重視した体験型店舗が台頭してきていることを背景に、生活者に受け入れられている現状がある。では、企業は体験型店舗をどう活用していくべきだろうか。

体験型店舗の活用目的

 体験型店舗は、顧客との関係構築を行う上でのオンライン・オフラインの垣根を越えたタッチポイント設計であるユニファイド・コマースの一部として活用されることが多い。体験型店舗の特徴が、ユニファイド・コマースの様々な接点をもとに個別最適なアプローチを可能にするマーケティングを実現している。
 体験型店舗の活用方法として、以下の3つが挙げられている。

  • CVRや新規会員数を増やす顧客獲得の場
  • 来店者の定量・定性的データを改善に活(い)かすテストマーケティングの場
  • 製品やブランド理解を高める訴求の場

 ECでしか販売経路を持っていない製品を体験させる場として体験型店舗を活用する企業は多く存在する。そのため、体験型店舗が潜在顧客とのリアルな接点として機能し、ECサイトへの誘引を行うことができる。来店客の行動データ取得を可能にしていることも体験型店舗の大きな特徴である。例えば、自社ECに誘導するためのキャンペーンコードを配布することで、体験型店舗で興味関心を持ってくれた来店客の情報を得ることができ、エンゲージが高い来店客へ個別にアプローチすることも可能になる。市場に出ていない製品でも、体験型店舗で獲得できる来店客の定量データや接客時の定性的な声を活用することができるため、新製品のテストマーケティングの場としても期待ができる。また、販売することを目的にしていないことを生かし、引け目なく来店客に製品を体験してもらえることも特徴の一つになる。訴求しづらい開発背景などのブランドストーリーを体験しながら機能便益以外の魅力をしっかりと伝達できる。

 このように体験型店舗では、価値観多様化時代に対応したアプローチが可能になる。生活者側の変化に伴い、企業としても様々な変革が求められているからこそ、体験型店舗は活用されているのかもしれない。

<参考文献・引用文献>

児玉 誠周(こだま・せいしゅう)

博報堂ブランド・イノベーションデザイン局 イノベーションプラナー/UXプラナー


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2017年、博報堂に入社。入社後は、トイレタリー・通信情報機器・飲料等、様々な業種の戦略立案を経験。ブランド・イノベーションデザインに所属後は、イノベーションデザインカンパニーへの出向経験を活かし、デザイン思考をベースとした事業・商品・サービス開発、デザインリサーチ、UI・UXデザインに従事。