「エシカル」

Keyword

エシカルとは、倫理的・道徳的な価値観に基づく行動規範のこと。主に、人や地球環境、社会、地域などに配慮した考え方や行動のことを指す。エシカル消費、エシカルファッション、エシカルAI(倫理的なAI)など、特定ジャンルにおける倫理的な規範を表す言葉として使われる。

 エシカルとは、「倫理的な」という意味の形容詞で、倫理的・道徳的な価値観に基づく社会的な行動規範のこと。企業の社会的責任を果たし、人や地球環境、社会や地域などに配慮した考え方や行動のことを指す。近年、エシカルな商品やサービスへの関心が世界的に高まっており、社会や地球にポジティブなプロダクトを選ぶ消費者が増えている。生産プロセスの倫理性や環境影響を考慮して商品を選ぶ行動は「エシカル消費」と呼ばれる。1989年にイギリスで『ethical consumer』誌が創刊され、動物の権利や人権、環境汚染などの指標で企業評価を行い「デザインや価格以外の評価軸も見て、日々の買い物を見直そう」と呼びかけたことがきっかけとなり、エシカルという概念が徐々に浸透したと言われている。エシカルビジネスは世界中で成長しており、イギリスではエシカル消費は2019年〜2020年で24%近く増加、その市場規模は1,220億ポンド(約12兆円)に達した。

▲1989年創刊の英国『ethical consumer』誌は、持続可能かつ倫理的な商品・サービスの情報を独自の指標で発信し続けている。(出典:X

 SDGs(持続可能な開発目標)の目標12「つくる責任・つかう責任」は、エシカルと関連が深い。2015年に国連で採択されたSDGsでは、2030年までに誰も取り残されることなく、自然と調和したライフスタイルを浸透させることが求められている。エシカルと「エコ」「サステナブル」の違いや関連性にも触れておこう。エコは「環境にやさしい」ことを指し、エシカルは「人、環境、社会、未来にやさしい」という社会・地球に対する倫理的な行動全般を指すので、エシカルの方が視点が高い傾向がある。サステナブルは社会や地球全体が「持続可能な」状態を指すことが多く、エシカルは消費者や企業のスタンスや行動などを指すことが多い。企業や個人のエシカルな行動が積み重なっていくことで、商品ライフサイクルの全工程で環境負荷を低減する循環型の経済活動(サーキュラーエコノミー)が浸透していき、サステナブルな社会づくりに貢献する、というような関係性と言える。

 エシカルという概念が社会に広がったことで、エシカルファッション、エシカルフード、エシカルスイーツ、エシカルツーリズム、エシカル投資などのように、幅広いジャンルでエシカル○○という言葉を目にすることが増えた。最近ではChatGPTなどのジェネレーティブAI(生成AIの浸透に伴い、エシカルAI(倫理的なAI)、エシカルテクノロジーなどのキーワードまで登場している。

▲映画『ザ・トゥルー・コスト』は、ラナ・プラザ崩落事故の背景とエシカルファッションの重要性などを描き話題となった。(出典:Youtube) 

 エシカルファッションは、環境、人権、アニマルウェルフェア(動物福祉)などに配慮したファッションのことで、身近なエシカル消費の選択肢のひとつだ。トレンドに敏感なファッション業界では、2004年にイギリスでエシカルファッションの推進団体「Ethical Fashion Forum」が設立され、フランスで同年からパリコレの後にエシカルファッションショーの定期開催がはじまったのを契機に、さまざまなエシカルファッションが登場するようになった。さらに2013年にバングラデシュの縫製工場ラナ・プラザで崩落事故が発生。低賃金労働者の危険な現場に支えられた大量生産・大量消費のファストファッションへの反動から、エシカルファッションが世界的に広まっていった。

▲STELLA McCARTNEYは2020-21 A/Wコレクションで、ランウェイモデルとしてウサギ、犬、牛、狐などの着ぐるみを登場させて、動物愛護・アニマルウェルウェアなどのメッセージをPRした。(出典:YouTube)

 2001年に設立されたステラ マッカートニーは、エシカルファッションを代表するブランドのひとつだ。「ファッションを通じて地球に優しいソリューションをつくること」をミッションに掲げる"ベジタリアン"ラグジュアリーブランドとして、レザーや毛皮、フェザーといった動物由来の素材を使用しない姿勢を貫いている。2020年冬コレクションのフィナーレで、動物愛護のメッセージとして動物の着ぐるみが登場したり、森林保護キャンペーン「There She Grows」の一環でゲストに苗木を配るなどのPRで話題となった。

 別の事例だと、2019年に「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というパーパスを設定したパタゴニアなどもエシカルブランドと言える。このような企業のパーパスに基づく一貫したPRブランディング活動は、マーケティング戦略としても参考になるだろう。

 エシカルな商品やサービスを選びたいという消費者の意向は年々高まっており、WWFの調査によれば2016年から2020年に71%も上昇しているという。米マイクロソフトは20225月から、アメリカ、イギリス、カナダにおいて検索エンジンBingに、エシカルな商品だけを表示するフィルターを搭載した。2015年にオーストラリアで設立されたアプリ「Good On You」と提携して、環境、人権、アニマルウェルフェア(動物福祉)の3つの視点によるファッションブランドのレーティングを元にしたフィルターで、エシカルなブランドを検索することができるそうだ。

▲Bingと提携した「Good On You」は、環境、人権、アニマルウェルフェア(動物福祉)の3つの視点で独自レーティングを行い、エシカルブランドを選択・購入しやすい環境を提供している。(出典:Instagram)

 このようにエシカルな選択肢を提供するブランドが、今後より消費者に選ばれやすくなっていくと想定される。消費者や企業、政府がエシカルな選択肢を準備するようにシステム変革を行うことが重要だと『ethical consumer』誌は書いている。一方 、エシカルを装ったブランドが「グリーンウォッシュ」として忌避されるような潮流もある。世界的に広がりつつあるエシカルなライフスタイルに、企業やブランドとしてどう向き合っていくかは 、これからのマーケティング戦略において重要な要素のひとつだ。

トップ画像:©iStock / Getty Images Plus

<参考文献・引用文献>

小塚仁篤(こづか・よしひろ)

ADKマーケティング・ソリューションズ/SCHEMA
クリエイティブ・ディレクター/クリエイティブ・テクノロジスト


mk_koduka_2022

デジタルやテクノロジー分野での経験を武器に、未来志向のクリエイティブ開発やSFプロトタイピングを得意とする。主な仕事に、障害者の社会参画をテーマにした「分身ロボットカフェDAWN」、ブラックホール理論が導く”役に立たない未来のプロトタイプ"を空想した「Black Hole Recorder」、日本科学未来館「Mirai can_!」など。Cannes Lions、D&AD、SPIKES ASIA、ADFEST、ADSTARS、ACC、Prix Ars Electronica、メディア芸術祭、グッドデザイン賞ほか受賞歴多数。JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー2020メダリスト。