「プロンプト・エンジニアリング」

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プロンプトとは、ChatGPTなどの生成AIに指示を出すための入力テキストのこと。プロンプト・エンジニアリングとは、生成AIなどから理想的なアウトプットを引き出すために、最適なプロンプトを設計・最適化するスキルを指す。テキスト生成AIだけでなく、テキスト入力型の画像生成AIや映像生成AIなどにも応用できる。

 プロンプトとは、ChatGPTなどの生成AIに指示を出すためのメッセージや命令、質問などの入力テキストのことである。たとえばChatGPTに「広告朝日とはどんなメディアですか?」と質問するとき、この入力テキストをプロンプトと呼ぶ。ChatGPTはこのプロンプトを受け取り、適切な応答(この場合は広告朝日に関するアウトプット)を生成する。プロンプトは、生成AIがきちんとユーザーの指示を理解するための鍵である。入力するプロンプトの質によって生成の質が大きく異なるため、より適切なプロンプトを書く技術が重要となる。

▲生成AIとの会話スキルである「プロンプト・エンジニアリング」は世界中で研究されている。日進月歩の分野のため、AI字幕やAI翻訳機能を活用して、英語の最新情報をリサーチすることも効果的だ(出典:Youtube)

 プロンプト・エンジニアリングとは、生成AIなどから理想的なアウトプットを引き出すために最適なプロンプトを設計・最適化するスキルや技術(エンジニアリング)のことである。生成AIとうまく会話して性能を最大限引き出すための「AIとのコミュニケーションスキル」とも言える。一部では「呪文」などの俗称で呼ばれており、呪文の詠唱がうまくいくと魔法のような(理想的な)アウトプットを生成することができる。このスキルは、ChatGPTなどのテキスト生成AI(t2t:text to text)だけでなく、テキスト入力型の画像生成AI(t2i:text to image)や映像生成AI(t2v:text to video)などにも応用できる。ChatGPTをカスタマイズして一般公開できるGPTsなど、オリジナル生成AIをマーケティング活用する際には ユーザーにうまく生成AIと会話してもらえるようにプロンプトガイドなどを提供すると効果的な場合がある。

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▲ADKグループでは社内GPT「トラポケ」とうまく会話するためのプロンプトガイド「トラポケおしゃべり大全」を社内に提供している(出典:ADK Marketing Solutions Inc. AICoE「トラポケおしゃべり大全」

 逆にプロンプトを悪用して生成AIの脆弱性を突く行為は「プロンプト・インジェクション」や「プロンプト・リーキング」と呼ばれる。悪意のあるプロンプトで、生成AIから機密情報を引き出したり、著作権違反や公序良俗に反するテキスト・画像などを生成させる行為のことだ。オリジナル生成AIなどをマーケティング活用する際には、悪質なプロンプトに対する注意や対策が今後必要になってくるだろう。

 プロンプト・エンジニアリングは歴史が浅く、玉石混交のノウハウやTIPSがネット上に溢れている。プロンプトは生成AIごと、バージョンごとにノウハウが変化する場合があるため、プロンプトを丸暗記したり例文をコレクションすることはあまり重要ではない。生成AIの仕組みやプロンプトの型を身につけて、必要に応じてプロンプトを設計・考案できるスキルが重要になる。詳細に知りたい方はOpenAI Cookbook」「Learn Prompting」「Pre-train, Prompt, and Predict」「Prompt Engineering Guideなどのオープンソースの解説資料や研究論文などを参照したり、必要なスキルやノウハウを検索するといいだろう。また、従来は人間がプロンプトを書いていたが、最近はプロンプトを最適化するための「プロンプト生成AI」も登場しているので、そのような支援AIと一緒にプロンプトを共創する手法なども試す価値がありそうだ。

▲元OpenAI社員が創業したAnthropic公式プロンプト集など、プロンプト・エンジニアリングの情報はネットやSNSなどに溢れている(出典:X)

 プロンプト・エンジニアリングには、Instruction(実行してほしい特定タスクや指示の概要)、Context(回答の質を高めるための外部情報や背景)、Input Data(回答してほしい質問やデータ)、Output Indicator(出力してほしいタイプやフォーマット)の4つの要素があると「Prompt Engineering Guide」は解説している。またプロンプトには、特定の情報や質問への答えを求める質問型、文章の要約やデータのグラフ化など特定のアクション実行を指示する命令型、特定の誰かを演じさせるなど会話を目的とした対話型、架空のストーリーを創造してもらう物語型、ゲームやプログラムなどのコードを生成してもらうコード型、コピーや歌詞、画像などのコンテンツを生成してもらうコンテンツ生成型など、生成AIでアウトプットできる型ごとにノウハウがあると言われている。これらを組み合わせてプロンプトを検討することで、より多様なアウトプットを得ることができる。

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▲異なる専門性を持つ5人のコピーライターのペルソナ(人格)を生成して、キャッチコピーのブレストをしてもらうプロンプト事例。(出典:ADK Marketing Solutions Inc.

 たとえばボールペンのキャッチコピーを書きたいとき、生成AIに「ボールペンのコピーを書いて」とそのまま質問するのではなく、異なる専門性の5人のAIコピーライターのペルソナを生成してコピー案をブレストしてもらうプロンプトの事例を見てみよう。生成AIを1人のコピーライターと見立てるのではなく、5人のコピーライターをスタッフィングしてブレストするプロセス全体を生成AIでシミュレートすることで、より多様で立体的な視点のコピーを生成して議論に活かすことができる。このプロンプトは比較的ベーシックなものだが約1,200文字ある。プロンプト・エンジニアリングの視点によるAI生成のプロセス設計や事前準備なしにいきなり書くことは難しいだろう。

 ChatGPTなどのテキスト生成AIは、まるで人間とチャットしているかのような対話ができる。たとえば上記のように複数ステップにわたる企画プロセスを丸ごと生成してもらうことで、生成AIの能力をより引き出すことができる。もちろん、キャッチコピーの生成だけでなく画像生成や動画生成などのクリエイティブ領域、さらにはテキスト要約やデータ集計などのマーケティング領域などでも生成AIの活用範囲は広がると予想される。

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▲生成AIと人間のどちらが優れているかではなく、生成AIと人間の共創プロセス全体を設計・デザインする重要性が増している(出典:ADK Marketing Solutions Inc.

 このとき重要になるのが、生成AIと人間の共創プロセスだ。生成AIと人間のどちらが優れているかではなく、生成AIと人間が共創してシナジーを発揮し、従来よりも良いアウトプットを生み出す。そのための共創プロセスの設計図のノウハウが、プロンプト・エンジニアリングと言える。広告マーケティング業界においても、生成AIの活用が今後増えていくと予想される。広告マーケティング担当者にとって、生成AIの動向を把握するだけでなく、人間とのシナジーを生み出すためのプロンプトについても学ぶことがより重要になっていくだろう。

トップ画像:©iStock / Getty Images Plus

<参考文献・引用文献>

小塚仁篤(こづか・よしひろ)

ADKマーケティング・ソリューションズ/SCHEMA
クリエイティブ・ディレクター/クリエイティブ・テクノロジスト


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デジタルやテクノロジー分野での経験を武器に、未来志向のクリエイティブ開発やSFプロトタイピングを得意とする。主な仕事に、障害者の社会参画をテーマにした「分身ロボットカフェDAWN」、ブラックホール理論が導く”役に立たない未来のプロトタイプ"を空想した「Black Hole Recorder」、日本科学未来館「Mirai can_!」など。Cannes Lions、D&AD、SPIKES ASIA、ADFEST、ADSTARS、ACC、Prix Ars Electronica、メディア芸術祭、グッドデザイン賞ほか受賞歴多数。JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー2020メダリスト。

鬼丸翔平(おにまる・しょうへい)

ADKマーケティング・ソリューションズ マーケティングインテリジェンス本部
シニアプランナー/AIソリューション・アーキテクト


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新卒で鉄鋼メーカー入社後、社費留学による大学派遣などを経て生産技術部門にて数値流体解析や機械学習を活用した研究開発に従事。美大編入、NTTデータにおけるコンサルティング経験を経て、2023年よりADKマーケティング・ソリューションズ。AI/MLを利用したソリューション開発経験を活かし、Data&AI領域におけるプランニング/コンサルティング支援を行う。AzureOpenAIを活用した社内GPTチャットボット「トラポケ」の開発推進、ADK社内のAI推進体制であるAICoEの事務局メンバー。日本行動計量学会、人工知能学会所属。The International Symposium on Preparative Chemistry of Advanced Materials:Poster Award等。