「AIインフルエンサー/バーチャルヒューマン」

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AIインフルエンサーとは、AIで生成された架空のインフルエンサーの俗称。同様のファッションモデルやアバターは、AIモデルやAIアバターなどとも呼ばれる。バーチャルヒューマンとは(AI活用の有無に関わらず)3DCGなどで生成された架空の人物の俗称で、デジタルヒューマン、バーチャルインフルエンサー、バーチャルモデルなどとも呼ばれる。

 「AIインフルエンサー」とは、ジェネレーティブAI(生成AI)などで画像や動画を生成して、デジタル空間上で活動する架空のインフルエンサーやモデルを指す俗称である。特に昨今のAI技術の発展と普及により、実在しないリアルな人物の画像や動画の生成が身近になり、新たに台頭してきた概念だ。たとえば日本では、AIで画像生成された神宮寺藍というTikTokアカウントが2023518日に開設され、2日間で100万回再生を達成したと話題になった。このようなAIインフルエンサーは国内だけでなく海外でも次々と登場しており、SNSで検索するとフォロワー数の多いAIインフルエンサーも散見される。また、AmazonではAIグラビア写真集が売上ランキングに並ぶなど、似たような画像・動画を見かけることが増えている。

▲たとえば「Milla Sofia」は「フィンランドのヘルシンキ出身の 19 歳」の「AIで生成されたバーチャル ガール」などと記載されており、 Instagram、X、TikTokで数万人のフォロワーを獲得している。(出典:Instagram)

 海外ではこのようにAIで生成された架空の人物を活用する動きが広がっている。たとえば香港のPantheon Lab社はAIで生成したバーチャルヒューマンをマーケティング用に提供している。目的に合わせてカスタマイズしたアバターを活用できる点がポイントで、50ヵ国以上に対応したリップシンク、フェイスシフティング(顔認識技術)などで人間そっくりの表情を生成できるそうだ。同社は写真や動画、サウンド、テキストなどのAI合成コンテンツに特化したスタートアップで、バーチャルヒューマンの生成プラットフォーム「AIDOL Studio」をCES2023に出展するなど注目を集めている。この他にもBotikaLalaland AINeuroPixel AIStyleScanVdigmBigthinxZMO AIなど、ファッション分野を中心に「AIインフルエンサー」や「AIモデル」を提供する企業が増えている。

▲香港のPantheon Lab社は、AI生成されたフォトリアルなバーチャルモデルのデモ動画を公開している。(出典:YouTube) 

 ちなみに「バーチャルヒューマン」とは、3DCGなどで制作された架空の人物を指す用語で、海外では「デジタルヒューマン」とも呼ばれる。Emergen Research社の調査ではグローバル市場規模が2030年に5,2758,000万米ドルに達するとされる。バーチャルヒューマンは3DCGで制作されることが多く、AIを活用している場合は「AIインフルエンサー」「AIモデル」「AIアバター」などの俗称で呼ばれ、呼称の定義は曖昧である。

 従来のバーチャルヒューマンは3DCGの架空の人物だと見分けやすかったが、フォトリアルな次世代バーチャルヒューマンが一般的になり実際の人間と見分けにくくなることで、広告マーケティングへの影響も増大するだろう。たとえば2018年にInstagramに登場したAww社のバーチャルヒューマン「Imma」がTikTokなどに投稿するフォトリアルな動画には、架空の人物と知らないユーザーから驚きのコメントなどがついている。Immaは東京パラリンピック閉会式への出演、SK-ⅡのCMやFENDI、PRADAなど有名ブランドとのコラボレーションなど活動の幅が広がっている。

▲バーチャルヒューマンの草分け的存在「Imma」も、TikTokなどにフォトリアルな動画を投稿している。(出典:TikTok)

 生成AIによるフォトリアルなSNS投稿も増加している。生成AIにテキストで指示して画像化することを「t2iText to Image)」と呼び、思い通りの画像を生成するための指示テキスト(プロンプト)入力技術は「プロンプトエンジニアリング」と呼ばれる。最近は「i2iImage to Image)」と呼ばれる画像から類似画像を生成する技術も普及してきている。生成AIには学習元データの著作権問題が付きまとうため、広告やマーケティングへの活用には一定のハードルがあるが、企業活用が普及していくのも時間の問題だ。

▲画像生成AIの「i2i(Image to Image)」技術で生み出された美少女の動画などがSNSで話題となった。(出典:X)

 さらに最近は画像生成AIStable Diffusion」の「Mov2MovMovie to Movie)」機能を活用したAIダンス動画などもSNSで流行している。こちらは現実の人間のダンス動画を元にアニメーション動画などを生成するもので、現実の人間と混同することは現状少ないが、従来のアニメーションとAI生成アニメーションの境目は曖昧化している。まだ著作権のハードルはあるが、広告制作プロセスにおけるVコン(ビデオコンテ)などへの活用など、広告クリエイティブの制作プロセスへの影響も今後増大していくと思われる。

▲人間のダンス動画を生成AIでアニメーション化した動画が中国bilibiliを中心に話題となった。(出典:YouTube)

 AIや3DCG技術の進化は日進月歩だ。たとえば動画生成AIの「Runwey Gen 2」が先日発表され、AI生成された映画や広告、プロモーション動画などの実験動画がSNSに数多くあがっている。Adobe Fireflyなどの企業向け生成AIツールなども続々リリースされており、プロモーショナルな画像・動画を生成したり、広告モデルの代わりにAIインフルエンサーなどの架空の人物を生成したりするなどの動きは必然となるだろう。

▲動画生成AI「Runwey Gen 2」で生成された「Motorcycle Advertising」と題された実験動画。(出典:YouTube)

 前述したバーチャルヒューマンを広告モデルに起用するなどの動きはすでに広がりつつあり、このような事例は今後世界的に増加していくと思われる。広告利用における法規制や倫理的な視点も重要で、各国の動向などを把握しておく必要がある。たとえばインドでは、バーチャルインフルエンサーがスポンサードコンテンツを投稿する際に「本物の人間ではないことを消費者に開示する」ことをブランドに義務付けているそうだ。このような最新トレンドに対応するために、AIインフルエンサーやバーチャルヒューマンの進化、その背景にある生成AIの動向を把握することが広告やマーケティングの担当者にとって重要な視点となるだろう。

トップ画像:©iStock / Getty Images Plus

<参考文献・引用文献>

小塚仁篤(こづか・よしひろ)

ADKマーケティング・ソリューションズ/SCHEMA
クリエイティブ・ディレクター/クリエイティブ・テクノロジスト


mk_koduka_2022

デジタルやテクノロジー分野での経験を武器に、未来志向のクリエイティブ開発やSFプロトタイピングを得意とする。主な仕事に、障害者の社会参画をテーマにした「分身ロボットカフェDAWN」、ブラックホール理論が導く”役に立たない未来のプロトタイプ"を空想した「Black Hole Recorder」、日本科学未来館「Mirai can_!」など。Cannes Lions、D&AD、SPIKES ASIA、ADFEST、ADSTARS、ACC、Prix Ars Electronica、メディア芸術祭、グッドデザイン賞ほか受賞歴多数。JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー2020メダリスト。