「トレードマーケティング」

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「トレードマーケティング」とは、主にメーカーが小売業の協力を通じて、その店頭における自社製品の販売を最大化するためのマーケティング戦略及び活動のことを指す。いわゆる“生活者”を対象とするブランドマーケティングに対して、“小売業やショッパー”を対象とするところが大きな違いである。

 トレードマーケティングの主な目的は、自社の製品やサービスの特性に合わせて、陳列方法、プライシング、販売プロモーションなどを小売店や卸売業者などに対し提案、実行することで、その小売店における製品の配荷率や売り場面積を増やし、その結果自社のシェアを拡大することである。

 例えば、新しいヘアケアブランドの発売を考えている企業は、その製品を購入して欲しい生活者に対してブランド認知を獲得し、さらにブランド好意度を高めるためのコミュニケーションを様々なメディアを通じて行う。

 しかし、これらのコミュニケーションをフルに行ったとしても、肝心の商品が小売店の棚に並んでいなければ、生活者はその商品を手にすることができず、そのコミュニケーションによる売上への影響は限定的なものになってしまう。

 つまり、生活者に対するコミュニケーションの実施と同時に、製品を販売してくれる小売店や卸売業者に対しても、その製品が魅力的であると理解してもらい、店頭でしっかり販売してもらえるような環境を整えなければならない。そのためには、例えば小売店に向けたセールスプロモーションや店頭ディスプレイ、卸売業者に向けた特別なインセンティブの導入などが必要となる。

 近年、消費財業界においてトレードマーケティングが特に注目されているのにはいくつかの理由がある。まず挙げられるのが、流通の寡占化による流通側のバイイングパワーの向上がある。ドラッグストアチャネルにおけるトップチェーン同士が合併交渉に入ったといったニュースに代表されるように、日本国内の流通市場におけるチェーンの合併・統合が進んでおり、特定の流通グループが占める市場シェアは年々高まっている。このように存在感が増している小売業との商談の難易度が上がるのと同時に、製品の棚割へ採用されるか否かの結果がもたらすビジネスインパクトも大きくなっている。

 また、市場に投入される製品のSKUStock Keeping Unit)数が増加していることも背景の一つである。ニーズが多様化しているといわれる現代の生活者に対応するためには、SKUを増やすことは必要である一方で、その製品を陳列する店頭における売場のスペースは変わらない。つまり限られた枠を奪いあう競争が激しくなり、棚に並んだとしても個々の商品が埋もれてしまうリスクが生じる。さらに、ドラッグストアチェーンによる食品カテゴリーの強化、CVSチェーンのミニスーパー業態の開発やクイックコマースの強化、ECモールの拡大など購入チャネルは複雑化してきており、各チャネルや小売の特性に応じた販売戦略が求められている。

トレードマーケティング

  では、こうした厳しい環境において、消費財メーカーはどのようにトレードマーケティングを上手く行って、自社製品の販売を成長させていけばよいのか。大切なのは、小売のバイヤーのインサイトを理解し、双方の利益を最大化する提案ストーリーや施策を考えることである。バイヤーにとって、その製品を扱うことによって来店につながりそうか、自分の担当カテゴリーは成長しそうか、自店の来店客にとってプラスになるのか、といった問いに答えることによって、その商品を扱いたい気持ちを引き出すことが重要である。

 このようにメーカー・小売・生活者(ショッパー)にとって“三方良し”となる状態を作りだすトレードマーケティングの考え方は、これからブランドを強くするために益々重要なものになるだろう。

井上元作(いのうえ・げんさく)

博報堂 コマースコンサルティング局 
トレードマーケティング推進グループ グループマネージャー


トレードマーケティング井上氏

2022年博報堂入社。前職におけるITコンサル、飲料ブランドのブランドマーケティングの実務経験など多岐にわたる経験を活かしながら、食品、ヘアケア、トイレタリーカテゴリーを中心に、BTL領域の戦略策定から店頭施策までのプラニングに従事。