大ヒットライトノベル「薬屋のひとりごと」広告特別版の街頭配布で原作の存在感アピール

イマジカインフォスは2024年3月29日、大人気ミステリー小説の最新刊「薬屋のひとりごと」の15巻発売を記念して、朝日新聞朝刊に全15段の新聞広告を掲載。同日には、「朝日新聞」の題字を使った広告特別版を街頭と書店で配布した。施策は直後からSNSで話題となり、発売後1週間の売り上げは14巻の同期比1.7倍と伸長。発売3日で重版が決まったという。イマジカインフォスのマーケティング本部販売管理部長・上田奈実氏に、出稿の背景や狙い、制作プロセスについて聞いた。

原作はライトノベル、新聞広告であらためて周知

「薬屋のひとりごと」は、薬屋の少女、猫猫(マオマオ)が中世の東洋を舞台に難事件を次々と解き明かしていく日向夏氏による痛快ミステリー小説だ。2011年から小説投稿サイトで発表を開始し、ライトノベルとして書籍化。その後、巻を重ねるごとに口コミで人気が高まりコミカライズされた。2023年秋にはテレビアニメの放送も開始し、シリーズ累計3300万部を突破した(コミック、電子書籍含む。202431日時点)。

 そして2024329日、最新巻となる15巻が発売となり、そのタイミングで新聞広告と広告特別版の街頭配布でプロモーションを展開した。その理由について、上田氏は次のように話す。

Tイマジカインフォス 縦P

「昨年、テレビアニメの放送が始まって新たなファン層が広がりつつありました。そんな中、原作であるライトノベルの15巻の発売時にはいつもとは違う何かインパクトのある宣伝ができないか考えていました。

 このとき朝日新聞社の方からご提案があったのが、広告特別版でした。新聞の号外のような形で、ライトノベルの最新巻の発売を知らせられるというのは斬新で面白い。今までにない新しいプロモーションができそうだと思い、取り組むことにしました」

 今回の新聞広告の制作は、朝日新聞社のクリエイティブチームと連携して取り組んだという。

「私たちが最も打ち出したかったのは、『薬屋のひとりごと』シリーズはライトノベルが原作であるということ。アニメをきっかけに『薬屋のひとりごと』シリーズがヒットしている今こそ、日向夏先生が生み出す原作の存在をあらためてアピールしたい。

 そんな私たちの思いを朝日新聞社の方々がくみ取ってくれたので、紙面づくり自体はスムーズでした。完成したものは15巻の書影を一番大きく掲載し、最新巻の発売がストレートに伝わる広告紙面で、とても満足しています」

 広告特別版は、「『薬屋のひとりごと』15巻発売!」という大見出しと「朝日新聞」の題字入り。表面には著者のコメントを収録、裏面には人物相関図や115巻の書影とあらすじをまとめたオリジナルコンテンツを掲載し、読み物としても楽しめる内容にした。

広告特別版「薬屋のひとりごと」表 2024年3月29日 広告特別版 表面
広告特別版「薬屋のひとりごと」裏 2024年3月29日 広告特別版 裏面

 広告特別版を街頭で配布する日の朝日新聞朝刊にも、表面のイメージを活用した全面広告を掲載した。

T20240329薬屋のひとりごと 2024年3月29日付全国版朝刊

 特にこだわった点は、ライトノベルの読者はもちろん、アニメからの新しいファンや、広告で初めて作品を知る人でも楽しめる内容にすること。広告紙面の本文では「薬屋のひとりごと」のストーリーを簡潔に伝え、最新巻の15巻のあらすじを掲載した。

 見どころは、本文とは別枠で盛り込んだ原作者、日向夏氏のコメントだ。作品の誕生のきっかけや制作秘話、作品への思い、主人公・猫猫のキャラクターについての考え、そして最新巻の楽しみ方などが綴られている。

「先生のコメントがまとまった状態で読めること自体珍しく、ファンの方でも初めて知るようなエピソードもあり、とても貴重なコンテンツとなりました」

広告特別版を配布直後から問い合わせが続々、SNSでも話題に

 広告特別版は、新聞広告を掲載した同日、渋谷と秋葉原の街頭と協力書店で配布した。

 アニメやライトノベルとの親和性が高い秋葉原に加え、読者層を広げていくためにも、若者や若いファミリー層が多く集まる渋谷をあえて選んだという。

 街頭配布は「薬屋のひとりごとの発売日です!」と伝えながら配布し、注目を集めた。「若い人から年配の方、海外の方など、多くの方が受け取ってくれていました」

T薬屋のひとりごと_渋谷_街頭配布 渋谷の様子
薬屋のひとりごと_秋葉原_街頭配布 秋葉原の様子

 渋谷と秋葉原で計9000部を配布したところ、直後からSNSで話題となった。SNSでは「朝日新聞コンビニで買ってきた」「(秋葉原には行けないので)とりあえず朝日新聞購入します」「(小説が)すぐ売り切れちゃうので早々に買いに行ってきます」 といった内容の投稿が上がった。そして、配布後1時間後くらいから夕方まで「どこで配布しているのか」「どこに行けば手に入るか」といった問い合わせが、会社にも続々と寄せられたという。

想像以上の反響を呼んだ、手元に残る広告の力

 広告特別版の配布は事前告知を行わずに実施した。検索しても詳細が出てこないため、より気になったという人も多かったはずだ。原作者のコメントや、人物相関図など、ファンのコレクター心をくすぐる内容でもあり、より興味を引くことができた。

「偶然、形ある物を手にすると、とりあえずSNSに投稿しようと思ってくれる人が一定数いて、手渡しで配布することのインパクトの強さを実感しました。

 これまでも、5段の新聞広告のほか、交通広告や動画広告などの掲出もしてきました。しかし、これまでの反響とは大きさが全く違ったので、本当に驚いています。交通広告や動画広告でもインパクトのある施策はできますが、やはり掲出期間のみの一過性のもの。

 一方、新聞広告は手元に『物』として残るので、後から読み返すこともできますよね。新聞広告の可能性を感じる機会にもなりました」

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「薬屋のひとりごと」の15巻の売上にもつながったとみる。

 発売後、3日で重版が決定し、1週間の売り上げも14巻を発売したときと比較すると1.7倍だったという。

「売れ行きの理由を定量的に計測するのは難しいですが、新聞広告の影響は大きかったと評価しています。

 今回、JR東海とコラボレーションしたイベントの情報や、ライトノベル版のキャラクターをはじめ、口絵や挿絵、装画などを手掛けている、しのとうこさんの画集の発売情報を新聞広告に掲載できたので、タイムリーに情報発信することもできました」

広告媒体として朝日新聞を選ぶ理由

 新聞の中でも朝日新聞を選ぶ理由について、上田氏は次のように話す。

「朝日新聞は、小説や文化的なことに関心が高い読者が多いイメージがあり、これまでも何度も掲載させていただいています。特に書店員さんは新聞の書評や本や雑誌の広告をチェックされていますし、特に文芸担当の方は、朝日新聞を読まれている方が多いんです。そういったことも、朝日新聞を選ぶ理由の1つです」

 ただ、「ライトノベルと新聞広告の読者層は、少し違う」と上田氏。だからこそ今回のような「薬屋のひとりごと」の書影と、広告特別版に入る「朝日新聞」の題字が組み合わさったときのインパクトが大きく、今までにない新しい施策として注目を集めることにもつながった。 

 今後については、若い世代に向けた広告企画を計画中だという。

「活字離れが進んでいると言われていますが、実は10代は学校で『朝の読書(朝読/あさどく)』や『家読(うちどく)』を推奨していて、読書をする機会や習慣がある。そんな10代にどう読んでもらうかは、今考えていることの一つ。

 16巻の発売日など、まだ何も決まっていませんが、だからこそ時間に余裕があるので、次回も新聞を活用して何かできないか検討している段階です」と上田氏は話す。

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