発信せずとも広い視野で発見を! SNS活用の中でも特殊なソーシャル・リスニング
「ソーシャル・リスニング」そのものには、SNSでの発信や生活者とのコミュニケーションを通じた商品訴求は必要ではありません。むしろそのような発信材料を用意することが難しい商品やサービスについても、共通の「訴求向上」を目的としながらも、調査を通じて訴求材料の足掛かりを見つけられる点が、この活用法の大きな魅力と言えます。また、マーケティング調査のひとつであるオブザベーション(行動観察調査)をSNSでできることを意味しています。
第2回「SNSでも話題!正月の新聞広告のポイントとは」では新聞の正月広告の反響について、どれだけの反響が、どのように、なぜ集まったのかといった視点で考察しましたが、反響のボリュームや話題化につながる要素を導き出す過程においては、まさにソーシャル・リスニングのアプローチがとられています。※分析で導き出した結果は発信や訴求に生かすことも有用であり、「アカウント運用」あるいは「広告」と併用されることは少なくありません(表「ソーシャルリスニングとアカウント運用の違い」・ソーシャル・リスニングの目的分類「プロモーション改善」)。
どんな用途に役立つ? マーケティング上の活用シーンをイメージしよう
「ソーシャル・リスニング」と「アカウント運用」の用途の違いを示した前項の表からも分かる通り、ソーシャル・リスニングを活用することは、生活者の声を活用していくことを意味しています。導き出した調査結果(=生活者の意識)は、具体的にどのようなマーケティング上の活用シーンで生きてくるのでしょうか。
活用シーン① 特定のプロモーションの反響把握、改善
ソーシャル・リスニングの一般的な活用シーンのひとつ目に、施策の「反響の把握(=効果測定)」、及び「次回にむけた示唆導出」といった、個別のプロモーションを対象にした活用を挙げることができます。SNS上に話題があれば調査できるため、広告やイベントはもちろん、DMやクーポンといった来店促進まで、さまざまな施策の反響を調査することができます。SNSと絡めた仕掛け(いわゆるSNSキャンペーン)に用途が限定されない点も使い勝手が良く、意識調査としての有用性が見直されています。
話題化や拡散が期待される”新聞広告”や”交通広告”の反響調査はこの活用法に該当します。調査の結果、課題やヒントを見つけて、新たな切り口を取り入れたり、より印象に残りやすく、「話題化」「関心獲得」などの効果につながりやすい(=ファンや一般接触者が関心を持ちやすい)プロモーションを設計する為の活用法といえるでしょう。
「プロモーション」は実施期間が限定されるため、得られた示唆は、今後の別の施策の設計に反映させることが前提となります。実施した施策の反響は重要な情報であり、次のプロモーションが未定の場合でも、要点や印象的だったリアルな声などを整理して理解しておくことが次への第一歩となります。
活用シーン② 自社商品・サービスの販売戦略の新機軸発見・軌道修正、商品改良
活用シーンふたつ目は、提供中の自社商品そのものを対象に調査を行い、見つかった魅力や表現方法、利用シーンなどの新たな要素を、商品の広告やキャッチフレーズ、店頭POP、さらにはSNSアカウントの宣伝投稿などに採用するケースです。現状の評価や課題をひととおり把握した上で、どのような魅力の伝え方を選ぶべきなのか、といった視点で考えられたメッセージ案はプロモーション施策全体に反映されることが多く、戦術的な特定のプロモーションの改善と比べて、より戦略的な活用法となります。(場合によっては、販売促進の範囲を越えて、商品改良や後継モデル開発のヒントとして用いられるケースもあります)
この活用法においては、地方自治体や省庁などの行政機関が、都市やエリア、施設を対象に、観光や暮らしについて現状の魅力や課題を調査するケースも多く、SNSの利用率向上とともに定着しつつあります。
活用シーン③ 商品分野のニーズや生活シーン・行動・トレンドを取り入れた新商品開発
活用シーン3つ目は、商品の分野全体、あるいは生活シーンやトレンドまでを広く調査対象のスコープとして、求められているニーズを探り、新商品開発の要素に取り入れるケースです。具体的には、料理や休暇の過ごし方といった特定の関心や状況における行動、さらにはSNSでの話題化や表現の誕生によって新たに生まれた習慣や概念、あるいはライフスタイルや関心の変化から浸透したトレンドを調査対象にして、ヒントを探ります。
〇「新商品開発」の調査対象の具体例
- 商品分野:「調味料」「スイーツ」…など
- 生活シーン・状況・行動:「おうちごはん」「しごおわ」「連休」「沖縄旅行」「キャンプ」…など
- トレンド:「使い切りコスメ」「モーニングルーティン」「ワーケーション」「ソロキャンプ」…など
上記はいずれも、自社の施策や商品そのものを調査しているわけではない点がポイントとなります。広く生活者のニーズ全般を調査することで、視野を広げて、新たな商品やサービスの企画に反映させる活用法です。
挙げた3つの活用シーンは、具体的でピンポイントなプロモーション施策から、概念的で中長期にわたる商品開発まで、それぞれマーケティングのフェーズが異なります。どのようなシーンで活用できそうか、まずは担当する業務では、生活者との間にどのような接点があるのか、といった視点から考えると分かりやすいのではないでしょうか。
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必要な調査項目は?
重要なのは目的の優先順位を決めておくこと
実際にどのようなことがわかるのかについては、一般的に用いられている調査手法と一緒におさえておくと分かりやすいでしょう。
◆定量調査◆(反響の大きさを第一に、関連する事柄を把握したい)
調査① 話題量の推移と、要因(話題量推移・ピーク分析・拡散分析)
SNSにおいて特定の話題のボリュームに大きな増加がみられたときには、多くはきっかけが隠れています。期間限定の企画が始まった、インフルエンサーが紹介した、ネットニュースの記事になった、売り切れた、といったある程度想定内、あるいは期待していた事柄ごとの反響ボリュームを確認できる場合もあれば、”別の視点が共感を集めた””思ってもいなかった活用方法が話題となった””生活者のエピソードが感動を呼び、認知が広まった”など、まったく予測していなかったことがらが発生し、話題の増加に影響を与えているケースもあります。
全体の反響ボリュームを第一に把握したい場合であっても、どのタイミングで、どのようなきっかけで、どの程度の話題を集めたのか、を時系列で捉えておくことは、どの施策が、どれほどの効果をもたらしたのか、期待と結果にギャップはないか、直近の盛り上がりから最終的にどのように捉えられていると考えられるか、を理解することにつながる為、施策のマーケティング上きわめて重要です。
調査② 認知量の推移と、要因(推定リーチ数推移・インフルエンサー分析)
もうひとつの定量的な指標として、どれだけのユーザーに、その話題がみられたか(=話題発生を通じて、対象期間にどの程度認知が広まったと考えられるか)を考える「リーチ数」の把握も重要です。一般に話題量が多ければ、目にされた数を示す「リーチ数」も伸び、またインフルエンサーが発信した直後に、話題量が大きく増えていれば寄与している可能性が高いことなど、話題量との間には一定の因果関係がある指標、と捉えることができます。(①と併せて調査を行うケースが多いことから、話題量の増減以外の要因を重視します)
どのようなインフルエンサーが何を発信してくれたのか、を調査することは、どのような関心層に、どの程度、どのような捉え方が広まったのか、の手がかりになると考えられています。
時系列で推移をみて、施策との関連性をタイミングから確認する分析(推定リーチ数推移)と、ランキング形式でインフルエンサーを俯瞰し、商品との接点について上位の傾向を考察する分析(インフルエンサー分析)が一般的です。
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◆定性調査◆(反響が小さくとも、関心の対象や意外な示唆の発見を重視したい)
調査③ 関心のポイント(ポジ・ネガ分析、話題の分類、評価・課題の抽出)
プロモーションや商品、社会現象・トレンドなどの調査対象について、反応のボリューム以上に、生活者の反応の内容を知りたい、というケースも年々増えてきています。例えば発売したばかりの商品の反応を調査する場合や、斬新なプロモーションを展開した際などを思い浮かべてみましょう。ボリュームと内容のどちらの視点からも把握したい、と考える担当者がほとんどではないでしょうか。社会トレンドのような調査対象の際には、ボリュームの確認は「浸透度」として基本的な項目にとどめて、むしろなぜ支持されているのか、「二次的なトレンド」は生まれているのか、といったさらに定性に重点を置いた調査設計が求められます。
賛否の割合(ポジ・ネガ分析)、あるいはどのようなポイントが話題に含まれているのか(話題分類)、生活者の関心を把握できるのがこれらの調査です。反応のボリュームが物足りなくとも、質の点で狙いとの間にギャップがないことが分かれば、思い切って露出を強化することもできるわけです。
複数の定性調査の結果を組み合せれば、相対的な仮説を導き出せる点も魅力です。例えば「ポジ・ネガ分析」と「話題分類」を組み合せれば、話題間の比較によって、課題や支持要因を特定することができます。また、競合商品についても同様の調査を行い、それぞれの「話題分類」の結果を比較すれば、自社商品の強みと弱みがどこにあるのか、相対的に知ることができるのです。
調査④ 数値では埋もれてしまう意外な気づき(利用シーンや具体的な表現の分かる投稿例)
③のポジ・ネガ分析、話題分類ともに、内容について比率(=数値)を用いて考察する定性調査です。もちろん、個人の感覚に基づいて発信された商品の魅力は、文字のバランスや写真の切り取り方など、リアルな投稿を見ることで正確に伝わるため、示唆のある投稿例はどのようなものか、実際に見ておくことも重要です。
投稿文で用いられた表現、一緒のフレームに収められたものごと(風景、”ついで買い”商品、”映え”具合など)といった、より「生」の投稿に近い状態から最大のヒントを得ることも少なくありません。
他にも示唆を得るための分析手法が豊富で、使い勝手が良い「ソーシャル・リスニング」ですが、すべての調査を行うと、時間も予算もオーバーしてしまうことも。予め優先順位を考えておくことが重要です。
例えば、話題量や推定リーチなどボリュームの把握をしっかり行い、内容も手軽に把握しておきたいケースでは、一旦③の比率算出までは行わず、④の投稿例に、内容の分類ラベル付けをすることでも充分に示唆が得られるでしょう。
ソーシャル・リスニングは気付きの多い意識調査手法
アンケートとのセット活用で、導き出した仮説を検証できる
生活者調査=意識調査であり、ソーシャル・リスニングは、「アンケート」と比較されることの多い調査手法です。実は「意外な発見ができる」ソーシャル・リスニングと「訊きたいことを確認できる」アンケートは相性が良く、調査の精度を高めたい場合には、図のようなフローで併用すると良いと言われています。
特に実際の利用シーンや感想、要望が分かるSNSの投稿からヒントを得て、アンケートの設問や選択肢に組み込むことで、多様な視点を踏まえた仮説を用意して、網羅的に検証することができます。SNSで発見した利用シーンやニーズなどの仮説がどのように受け取られるのか、「セカンド・オピニオン」の意見を持って企画設計に臨むことができる、自治体などでも採用している活用法です。
特定のプロモーションの反響調査では「ソーシャル・リスニング」のみで実施されるケースが多く、プロモーション戦略の見直しや商品開発のための調査では、むしろ重要な気づきが得られるからこそ、アンケートの前に組み込まれることも増えてきました。ソーシャル・リスニングは、企業や自治体が、生活者との間で意識合わせをするためのSNS活用法と言えるでしょう。
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ディー・フォー・ディー・アール株式会社(D4DR inc.)
※寄稿者の所属先企業に遷移します
マーケティング視点でのSNS分析の他、未来予測から目の前の課題解決までサポートする、未来共創コンサルティングパートナー「D4DR株式会社」のシニアアナリスト。
ソーシャルメディア分析を専門領域に、投稿をもとにした生活者のインサイト抽出・提案を得意とする。D4DR 札幌リサーチセンター室長。