コロナ後の今こそ「BtoBマーケティング」の強化を 見直されるオウンドメディアの可能性

企業のDXが進んだことによって、可能性が急激に拡がっているのが「BtoBマーケティング」です。新型コロナウイルスのショックを経て、SFA(営業支援ツール)や、MA(マーケティングオートメーション)のツール導入が進み、「BtoBマーケティング」の効果を最大化させる土台が整いつつあります。では、実際にどのような施策が有効なのか。古くて新しいオウンドメディアを軸に、今こそ注力するべき「BtoBマーケティング」の意義について考えます。

SFAの導入、2年で2倍に

全世界のビジネスに大きな打撃を与えた新型コロナウイルスですが、中でも企業の営業活動は大きく揺さぶられました。

これまでのような対面の営業ができなくなり、セミナーなどのイベントも自粛せざるを得なくなりました。

従来の手法では、既存顧客との関係維持や新規顧客獲得が困難になる中、注目されたのがDXです。矢野経済研究所の調査によると、2022年における企業のCRM・SFAの導入は32.1%で、2020年の16.1%に比べると2倍の伸びになっています。

参考:ERP及びCRM・SFAにおけるクラウド基盤利用状況の法人アンケート調査を実施(2022年) | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所

これまで、マーケティング部門が先行しつつ、社内での浸透が進みづらかった営業面でのDXが、コロナという未曾有の危機によって一気に進んだことが見て取れます。

BtoBマーケの土台が整った

これまで、マーケティングの世界で注目されがちだったのは商品がわかりやすく、広告などの施策と組み合わせた「BtoCマーケティング」でした。

しかし、社内のDXが進みつつある状況により、「BtoBマーケティング」の可能性が急速に広がっていると言えます。

なぜなら、マーケティング部門と営業部門の連携が強まれば、本来、「BtoBマーケティング」はデジタルマーケティングに適している面があるからです。

それは「BtoCマーケティング」との比較から説明できます。

「BtoCマーケティング」において、顧客である消費者と直接接点を持つのは流通業者です。そのため、製品を生み出すメーカーは間接的な関係しか築くことができません。顧客情報もPOSデータなどを通じたものに限定され、顧客のニーズをダイレクトに読み取る機会が少ないのが実情です。

一方、「BtoBマーケティング」の場合、企業同士のビジネスになるので、顧客と直接つながることができます。既存顧客から改善点のフィードバックを受けることも、新規顧客のニーズを探ることも、ダイレクトに実施できます。

その構造自体は以前から変わりのないものだったわけですが、DXという変革によって、目に見える形でその効果を実感できる状況になったと言えます。

BtoBとオウンドメディア、相性がよい理由

「BtoBマーケティング」において注目したいのがオウンドメディアです。SNSやショート動画など新しいプラットフォームが生まれる中、あらためてその効果を見直すフェーズになっています。 

「BtoBマーケティング」は対象となる顧客が絞られるため、顧客に有効にリーチする媒体選択の難しさがあります。そのため、企業が自ら発信するオウンドメディアが有効なチャンネルになるのです。

自社に関係あるプレイヤーに自社ならではの情報をコンテンツとして届ける。そんな「BtoBマーケティング」におけるオウンドメディアですが、課題がないわけではありません。

それがコンテンツの品質維持と、コンテンツの慢性的な不足です。

外部環境が激変

日本におけるオウンドメディア活用は、2010年に始まったと言われています。Web広告研究会(現デジタルマーケティング研究機構)が出した「トリプルメディア、トリプルスクリーン戦略を考える時代」という宣言の中で、ペイドメディア、アーンドメディアと組み合わせた施策の一環として提唱されました。

参考:2010年Web広告研究会宣言は「トリプルメディア、トリプルスクリーン戦略を考える時代」|公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構

提唱から13年経った今、オウンドメディアに取り組む企業からよく聞かれる悩みが、コンテンツの編集体制です。特に、限られた人員で取り組むことで起きるコンテンツ不足は、多くのオウンドメディアで課題となっています。

背景には、2010年にはなかった外部環境の変化があります。ショート動画や、SNSの爆発的な普及など、企業が取り組むべき施策が増えたことによって、オウンドメディアにかける人と時間が減ってしまう状況が生まれています。結果、必要な編集体制が築けず、十分な効果が得られないまま、迷走してしまうことも少なくありません。

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注目のBtoB企業オウンドメディア

そんな中、注目したいのが「BtoB」企業のオウンドメディアの取り組みです。流行の影響を受けやすい「BtoC」企業の施策に比べると、「BtoB」企業は顧客に中長期の視野で向き合えることもあり、オウンドメディアの運用においてしっかりとした編集体制を構築しやすいという特徴があります。

その一つが、業務アプリ「kintone」を手掛けるサイボウズ株式会社が運用するオウンドメディア「サイボウズ式」です。リモートワークや地方生活、ダイバーシティなど、働き方に関する読み応えのある記事を発信し注目を集めています。

例えば、子育て中の社員が、大事な商談の日に子どもを保育園に預けられなくなったのを助けようと、営業チームのメンバーが子守をすることに。そのことを「サイボウズ式」で紹介した記事は大きな反響を呼びました。

参考:大事な商談の日なのに、保育園に預けられない──両親の代わりに営業チームで子守をした話 | サイボウズ式

共働きの子育て家庭における悩みに答える内容を、当時の状況を再現しながら読みやすい記事に仕立てています。記事にはサイボウズ株式会社の青野慶久社長も登場。「子育てしているメンバーだけに大きな負担がかからないようにしていきたい」と述べるなど、一つの企業にとどまらない問題提起にもなるような構成になっています。

サイボウズ式画像

https://cybozushiki.cybozu.co.jp/ より(2024年5月)

社員の日常の延長をコンテンツ化

このように「サイボウズ式」は、業務アプリという事業領域と近い働き方に関するテーマで、独自性がありつつ親しみやすさを大事にした記事を発信し続けています。では、なぜ「サイボウズ式」は話題となる記事を量産できるのか。ヒントとなる情報が、藤村能光編集長のインタビュー記事にありました。

参考:自由だから成果が出る──サイボウズ式編集長に聞く、「楽しさ重視」のメディア運営術 | サイボウズ式

記事では編集部のメンバーのほとんどが副業をしていると紹介されています。さらに、普段から残業はなく、会議も時間内に終わらせると説明。つまり、担当者が、自社製品の提供する新しい働き方の実践者でもあるのです。そのため、日常の延長から記事の企画が生まれ、それが読者の関心を呼ぶという循環を生み出せる編集体制になっています。

オウンドメディアの中には、外部の業者に戦略から企画立案、記事執筆や編集まで丸投げするところも少なくありません。しかし、「サイボウズ式」の事例からは、企業が当事者意識をもって記事を生み出す編集体制がいかに大切かが伝わってきます。

社員の興味関心を尊重した企画

同じように「BtoB」企業が手がけるオウンドメディアに、コンサルティング会社であるフロンティア・マネジメント株式会社が運用する「Frontier Eyes Online」があります。記事は経営陣や社員が執筆しており、M&Aや危機管理、経営改革などそれぞれの知見にもとづいた情報が発信されています。

「Frontier Eyes Online」の記事の中でも特にユニークなのが担当領域をあえて越境した連載企画です。大西正一郎代表は企業再生といった自身の経験を生かした記事を書きつつ「哲学とビジネス」や「歴史を動かした人物」のような連載企画も発信しています。

「Frontier Eyes Online」には「サイボウズ式」のような独立した編集部はありません。そのような編集体制の場合、オウンドメディア以外の業務が優先されてしまう現実があります。その点、連載という枠組みはゼロから構成を考える必要がないため、執筆が主な業務ではない社員にとって書きやすさという点で有効です。

Frontier Eyes Online画像

https://frontier-eyes.online/ より(2024年5月)

「お客様と利益をこえたつながり」

実際、現場の社員はどのように向き合っているのか。大西代表と同じく連載企画「村上春樹さんから学ぶ経営」を続けている村田朋博執行役員・産業調査部長は1本の記事に「3〜5時間」かけていると言います。

「村上春樹さんから学ぶ経営」は、村上春樹作品の登場人物のセリフなどを引用しながら、ビジネスのヒントとなるような考え方を紹介しています。連載について村田執行役員は、取引先の顧客から「面白い視点」「利益云々と関係なくて良い」と評価されることが多く「全連載一気読みした」と言われたこともあるそうです。「お客様と利益を超えてつながれるように感じています」と、その効果を実感しています。

そもそも、文学作品とビジネスを結びつけたのは「一般には経営と遠いと思われるものとの組み合わせが新鮮だと思ったから」。一方で、企業経営にとって大事なのは「人に関する深い理解、洞察」であり「文学が人間の探求だとすれば、優れた文学者の深遠な洞察は経営にも有益」だと強調します。

「Frontier Eyes Online」は、連載企画の他にも、最新の経済ニュースに絡めた解説記事なども豊富です。その結果、月に10本、年間で130本もの記事を発信する編集体制を構築しています。

参考:「村上春樹さんから学ぶ経営」シリーズ  | Frontier Eyes Online

中長期の戦略が重要に

当事者性が強みの「サイボウズ式」ですが、藤村編集長が重視しているのが「楽しさ」です。逆に「やらされ仕事だと全然面白いアウトプットにならない」と述べています。

「Frontier Eyes Online」においても、ビジネスの記事を中心にしつつ文学や歴史、哲学まで幅広く、その多様さから、執筆陣が楽しんで関わっている様子が見て取れます。

このような編集体制を生み出すためには、仕事として関わってもらうためのインセンティブとともに、社員自身の興味関心を生かせるという心理的安全性が大事になってきます。

2010年当時に比べると、数ある施策の一つになった面があるオウンドメディアですが、だからこそ、中長期にわたって顧客や社会と接点を築けるオウンドメディアならではの強みを意識した戦略が重要になっています。

きちんとした編集体制を整え、安定的に良質な記事を生み出す。持続的に成果を生み出している成功例からは、「BtoBマーケティング」におけるオウンドメディアの原点回帰とも言える学びがありそうです。

サムライト_コンテンツマーケティング支援画像

コンテンツマーケティングを支援します

サムライトでは、100社以上のコンテンツマーケティングを支援してきた実績から、オウンドメディアをはじめとした多種多様な施策の支援をしております。「BtoBマーケティング」については、すべてをお任せいただく「完全代行プラン」から、社内で実行・運用を進める「インハウス化プラン」、特定のサポートに絞った「カスタムプラン」まで幅広いプランを取り揃えています。サービスの詳細と法人間取引を取り巻く環境などを解説した情報を加えた資料を公開中です。ご興味のある方はお気軽にご連絡ください。

奥山 晶二郎(サムライト株式会社 CCO)

1977年生まれ。大学卒業後、朝日新聞入社。佐賀、山口、福岡と勤務し、2007年、デジタル部門へ異動。「asahi.com」の編集に携わり、「朝日新聞デジタル」立ち上げ、動画、データジャーナリズム、SNS連動企画などを担当。2014年から「withnews」の編集長を8年間務めたのち、2022年6月からサムライトに参画。