3月8日は国際女性デーです。日本でも年々盛り上がりを見せており、この日の朝日新聞には昨年に続き、国際女性デーに関連する数多くの記事、広告が掲載されました。なかでも「男は理系。女は文系。」という目を引くキャッチコピーでインパクトを残し、SNSでも話題として盛り上がったのが、東京本社版朝刊に掲載された芝浦工業大学の新聞広告です。掲載の経緯や意図、反響など、同校の広報連携推進部 企画広報課の柴田温美氏に聞きました。
ドキッとするコピーで話題を集めた芝浦工業大学の新聞広告
芝浦工業大学は、イノベーションは多様性の中から生まれるという考えのもと2013年10月に男女共同参画推進室を設置。女性教員の積極的な採用や、女子小中高生に向けた各種イベントの開催など、理工系女性を育成するさまざまな活動を推進してきた。その結果、女性教員数、女子学生数ともに着実に上昇。成果と取り組みが評価され、2015年度「東京都女性活躍推進大賞(教育部門)」を受賞した。
今回の新聞広告は、そうした同校の姿勢と実践について広くメッセージしたものだが、同校の広報連携推進部 企画広報課の柴田氏は、「当初は新聞広告の出稿は考えていませんでした」と話す。
「3月といえば受験シーズンが終わっている時期ですから、このタイミングで新聞広告を出す考えはそもそもありませんでした。ここ数年はSNSでの発信に力を入れていたので、国際女性デーもミモザの花を買って公式アカウントに投稿しようかという話をSNS担当同士で話し合っていた程度で、新聞広告の出稿までは考えていませんでした」
そこから一転、出稿へと動き出した国際女性デー企画。朝日新聞社では昨年に続きクリエーターの牧野圭太さん、辻愛沙子さんがクリエーティブ制作を手掛けた広告を掲載したが、今回の芝浦工業大学のクリエーティブにも牧野さんが深く関わっている。そうした朝日からの提案を機に出稿を決めた理由を柴田氏は次のように話す。
「最初からSNSでの展開を想定した企画で、私たちが提示した課題をすべて解消した状態で提案いただいたので、“出さない理由がないな”と感じたのが正直なところです。また3月8日に大学院修士課程進学者への奨学金に女子枠を新設するとのプレスリリースを出すことが決まっていたため、タイミングとしてもちょうどいいだろうと判断しました」
掲載された新聞広告は、「男は理系。女は文系。」というキャッチコピーでちょっとドキッとさせてから、“お母さん、お父さん、そんな「思い込み」を持っていませんか。”ではじまるリードコピーで芝浦工業大学としての考えを伝える内容。キャッチコピーやデザインはほぼ提案通りだが、リードコピーは学校側の声を多々取り入れながら作り上げられたという。
「強めのキャッチコピーで目を引き、我々の取り組みに対する本気度を知っていただきたいという思いからこの企画を選びました。学内で検討、議論する際に、“挑戦的すぎると言われるかも”という不安がありましたが、意外にもすんなりと賛同してもらえました。それどころか“もっと強いメッセージにしては”という声もあがり、最終的に“あなたに問いかけているのですよ”と主語をはっきりさせるために、書き出しを“お母さん、お父さん”にすることに決めました。保護者は父母だけとは限らないわけですから、ここはヒヤヒヤした部分でもあります。ただ高校生の進路決定において一番影響力があるのは両親であるという明確なデータがありますし、ネガティブな反応があったとしてもきちんとお答えできるだろうと覚悟を決めました」
強いメッセージを打ち出す場合、炎上や批判を心配し、躊躇(ちゅうちょ)してしまう担当者も多い。こうした事態も想定し、前もってデータに基づいた考え方を整理しておくなど、柴田氏の姿勢はSNS時代の広報宣伝における基本的な向き合い方とも言えるだろう。
国際女性デーに合わせた出稿がジェンダーについて議論するきっかけに
広告が掲載された国際女性デー当日、柴田氏の狙いはあたり、SNSでは芝浦工業大学の広告に賛同する声が広がった。芝浦工業大学の公式Twitterアカウントにも「かなり印象に残りました」「いい広告!さすが我が母校」といったリプライが多数付いたほか、Buzzfeedに紹介され、インフルエンサーにも広がるなど、話題はどんどん大きくなっていった。
「SNSでたくさんのコメントをいただいた他、教育関係者と名刺を交換する際に“広告見ましたよ”と言われることもあり、多くの方に見ていただけたのだと実感しています。日頃、SNSで発信したときに反応してくれるのは若者ばかりなのですが、今回の新聞広告を紹介したツイートには、年齢が高めと思われる方々からもたくさんコメントをいただくことができました。幅広い層にリーチできたという手応えがあり、ここが新聞の良いところだと改めて感じています」
また柴田氏は、今回の新聞広告の出稿が、校内で議論するきっかけになったとも話す。 「国際女性デーというモーメントに合わせて意見広告を出すということは、こちら側も本気度が問われるということ。改めてジェンダーについてみんなで考え、話し合うきっかけになりました。私自身、“あ、これってアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)かもしれない”と気づかされた場面もあり、新聞広告の出稿を契機に、ジェンダーに対する考え方が1ステージ上がったように感じています」
2027年に創立100周年を迎える芝浦工業大学。目標である「女子学生比率30%以上」に向けて今後もさまざまな取り組みを行っていくという。そのひとつが山脇学園中学校・高等学校との教育連携協定の締結。出張授業などの探究活動を通じて、女子生徒が理工系分野へ進学する意欲を喚起する取り組みだ。今後はこうした具体的な活動について積極的に発信していきたいと柴田氏は言う。
「奨学金など制度はずいぶん整ってきましたし、芝浦工業大学が女性の理工系分野への進出を支援していることも浸透してきたのかなと思っています。ですからこれからは、そのために何を実践しているのか、より具体的、多角的に伝えていく段階だと考えています。“女子学生比率30%以上”が強気な数字であることは我々も理解していますが、社会の要請も高まりつつあり追い風が吹いています。今後は目標達成に向けた取り組みをさらに加速させます」
朝日新聞は3月8日の国際女性デーの特集において、「声を上げよう。きっとその一歩が、時代を動かしていく」とのメッセージを届けた。“女子学生比率30%”を掲げた芝浦工業大学の取り組みもまさに、時代を動かすための貴重な一歩である。